8話 放課後の校門前
放課後になり、鞄の中へ勉強道具を入れて帰り支度をしていると、先に用意をすませた優が隣で微笑んでいる。
やっぱり一緒に帰ることになるんだろうか……
できれば自分の家は教えたくないんだが……
「たっくん……この辺り周辺の道、あまりわからないし、またチャラ男達に絡まれたら嫌じゃん。だから一緒に帰ってよ」
やっぱり、そうきましたか。
周辺の道がわからないというなら、それぐらい自分で探せと言いたいところだが……
確かに帰り道にチャラ男達が優に絡んでくる可能性がある。
チャラ男を回し蹴りで倒す女子だから放っておいてもいいような気もするが、女子だけに放置して帰れば、
明日からの教室での俺の立ち位置が不味くなる。
「おい、拓哉……何してんだ? 早く帰ろうぜ」
淳が爽やかな笑顔で話しかけてくる。
おおー……これぞ親友。
ナイスタイミング。
「今日は私も一緒に帰ってあげようか? 私も優と友達になったばっかりだし」
おおー……夏希よ。
さすが皆のお姉さん的存在。
俺の気持ちを察してくれているのだろう。
ありがたや……ありがたや。
「私も一緒に帰っていいかな? 優と友達になりたいし……」
美奈穂も一緒に来てくれるのか。
クラスの仲裁役の美奈穂が優と友達になってくれるのは非常に助かる。
こちらからお願いしたいくらいだ。
全員を見回して優は頬を膨らませる。
「皆、ちょっとは気を遣ってよ。私とたっくんの放課後デートだったのに。皆で帰ったら意味ないじゃん」
「これからも学校から、いつでも一緒に帰れるだろう。今日ぐらいは皆で一緒に帰ろう」
「たっくんがそういうなら仕方ないけど……」
教室を出て靴箱へ行くと、優がゆっくりと靴箱を開ける。
するとバサバサと大量の封筒が落ちてきた。
全てラブレターのように思われる。
「あら……優、すごい人気ね。靴箱の中にラブレターがギッシリと詰まっているわ」
「本当にすごいですー。やっぱり美少女の転校生は人気が違いますね」
「もう……こんなラブレターいらないのに……」
優が床に落ちたラブレターをゴミ箱へ入れようとする。
それはあまりにも可哀そうだろう……
「封ぐらいは開けて、中身だけは読んでやれよ……返事を書いてやれとは言わないからさ」
「たっくんがそう言うなら、そうする」
靴箱に入っているラブレターを鞄に入れると、鞄がパンパンになっている。
モテるというのも大変なものだ。
淳を見ると、淳の靴箱にもラブレターが詰まっていた。
淳はいつもの調子で、靴箱の中のラブレターを鞄に詰めていく。
「それ家に持ち帰ってどうするんだ。読んだ後に捨てるのか?」
「そんなことしないよ。『付き合えません。ゴメンね』って書いて、靴箱へ入れなおしておくんだ。すると手紙を書いた女子が持って帰る。それから、その女子からのラブレターは来なくなる」
マメな奴だと思っていたが、淳はそんなことまでしていたのか。
イケメンも大変なんだな。
よく見ると美奈穂や夏希の靴箱の中にもラブレターが入っていた。
皆、丁寧に持ち帰っている。
そして俺は靴箱を開ける。
ラブレターの数は0
わかっていたけどさ……毎日のことだから……
女子は苦手だから、それでいいんだけど、俺だけという所がどこか心が寂しい……目が潤んでしまう。
「たっくんには私がいるじゃない。ラブレターなんて許さないんだから」
優からもらっても、嬉しくないわけではないが……怖い。
気を取り直して帰ることにしよう。
「さあ、皆で帰ることにしよう」
校舎を出て校門へ向かう。
校門でチャラ男達が5人ほど、溜まって話をしている。
そして優を見つけると、5人の中の1人が話かけてきた。
「転校生……この辺の地理わからないんだろう。俺達が優しくエスコートして帰ってやるよ。だから帰りに少し遊んでから帰らないか?もちろん遊び代は俺達の奢りだ。損はないだろう」
「私は友達と一緒に帰るから、あなた達はいいわ。それに私はチャラ男は嫌いなの」
「そんなこと言わずに俺達と遊びに行こうぜ。色々なことして楽しもうぜ」
「うっさいわねー。あっちに行ってよ……邪魔なのよ」
校門の前でしゃがんでいた5人がゆっくりと立ち上がって俺達を囲む。
淳が夏希と美奈穂の2人の前に守るように立つ。
そして俺は優の少し後ろで様子を伺う。
ナンパぐらいで、手を出すわけにはいかない。
それに俺が当事者ではない。
相手は優以外の俺達を無視しているから。
「いいじゃねーか。ちょっとくらい遊んでくれてもさー」
やめておけばいいのに、チャラ男の1人が優の肩に手をかけた。
優が仁王立ちに立って、少し腰を沈めて、右手と右肘を大きく後ろへ持っていったかと思うと、次の瞬間にはチャラ男の顔面に優の拳がめりこでいた。
優の肩を持ったチャラ男は顔面に拳をもらって、鼻血を出して後ろへ倒れ込む。
見事な正拳突きだ。
そういえば優は小学校1年生の時から小学校6年生の時まで空手を習っていて、地区大会でも優勝していた過去があった……やっと思い出した。
だから小学校でもガキ大将だったんだ。
チャラ男達が怒って俺達の周りを取り囲む。
「やめておけ。優は空手の有段者だぞ。お前達の敵う相手じゃない。優と戦えば、さっきのチャラ男みたいになるぞ」
「くそー……ちょっと顔が良いからって舐めやがって、覚えてろ」
そう言って、チャラ男達は倒れているチャラ男を肩に担いで、逃げるように去っていった。
そして優は少し潤んだ目で、俺の胸に飛び込んでくる。
「わーん。たっくん怖かったー。もう少しでチャラ男達に連れ去られる所だったよー」
いえいえ……もう少しでチャラ男達全員が優に倒されるところを見ることになっていたよ。
しかし、俺の胸の中で震えている優は演技に見えなかった。
流石に多人数相手で怖かったのだろう。
俺は優しく優の髪をなでた。
これからも色々とチャラ男が絡んできそうだが、優ならなんとか乗り切るだろう。
しかし、帰り道は一番狙われやすい。
これからも優と一緒に帰るしか方法はなさそうだ。