7話 食堂での騒動
トレイを返却口に置いて、俺はゆっくりと歩いてチャラ男達と優の元へ歩いていく。
「私、忙しいの。だから通してよ」
「だから一緒に食事しようって言ってんじゃん……もうそういうルートで確定してんの」
「どうして優がお前達と食事をしないといけないんだ? お前達、優の友達か?」
俺は優の隣に立って、優の肩に手を置く。
優は俺の方を振り返って満面の笑みを浮かべる。
チャラ男3人と対峙しているのに、怯えている様子は一かけらもない。
「ああ……悪いけど、優は俺の連れなんだ。だからナンパは止めてくれないか?」
「どこから湧いてきたのか知らないが、お前は余計な口出しすんな」
「私はチャラ男は嫌いって言ってんの。早くどこかへ行ってよ」
チャラ男達が3人等間隔に分かれて、俺と優を囲いこむ。
そのうち2人が俺を相手にするようだ。
チャラ男の一人が俺の胸倉をつかんで横から殴ってきた。
足を半歩だけ動かして、体重移動で拳を逸らす。
もう1人がトレイを縦にして、大上段からトレイを振り回してくる。
それを右手の甲で受け止めて、はじき返す。
ドガっという音が聞こえた。
チャラ男が床に倒れている。
その方向を見ると、優が回し蹴りでチャラ男の後頭部を蹴り飛ばしていた。
ピンクのパンティが丸見えだ。
「最初からこうしておけばよかった」
「俺の応援はいらなかったみたいだな」
そういえば小学校の時も優はガキ大将で喧嘩が強かった。
だからと言って、高校生にもなって回し蹴りを放つとは思わなかったけど……
パンティが周囲全員に見られるから、これからは回し蹴りはやめるように言っておこう。
チャラ男の1人が倒れて床に倒れている。
チャラ男の2人が俺に迫ってくる。
しかし2人共、ビビッているようで腰がひけている。
「やめておいたほうが良いと思うぞ。これでも俺は高校1年生の時まで空手部だった。今は退部しているが腕は鈍っていないぞ」
すこし脅しをかけてみる。
チャラ男達は相談して、倒れている1人を担いで、「覚えてろよ」と言い残して、その場を去っていった。
「うわーん。たっくん。こわかったー」
嘘をつけ。
満面の笑みじゃねーか。
やる気満々だったくせに。
優はチャラ男を倒したことでうっぷんが解消されたのか、嬉しそうに微笑んでいる。
そして俺の腕をガシッと掴んで、にっこりと笑った。
「もう逃がさないから……たっくんだけ食堂に行くなんてズルい。これからは私も付いていくから」
それはマズイ。
食堂は唯一の俺の安らぎの場所だ。
昼食を食べている時ぐらいは、ゆっくりと休んで食べていたい。
「優……優は夏希と一緒にお弁当を食べたらいい。俺は学食で食べ終わったら、すぐに戻るから心配するな」
「どうして……どうして、私から離れようとするの? あれだけ愛を誓いあったのに!」
「大声で叫ばないでくれ」
食堂で大声で叫ぶのは止めてくれ。
周囲の生徒達の視線が、女子を捨てた最低男というような視線に変わっているじゃないか。
俺は誰も捨てたことはないし、優を彼女にした覚えもない。
「小さい頃は、優ちゃん、絶対にお嫁さんにするからねって、言ってくれてたのにー。今はすごく冷たい態度」
小さい頃って幼稚園の時のことだし……
半分、強制的に言わされていたような気がする。
「今まで仲良かった女子をフルなんて最低」
「女性の敵。あの男は最低だわ」
学食で食事をしていた女子達が、俺に対して不穏なヒソヒソ話をしている。
このままでは俺の立場が悪い。
なんとか立ちなおさねば……
「わかった……今度から学食へも一緒に来ような。優を遠ざけて悪かった。俺が全面的に悪い。ごめん」
「わかればいいのよ……わかれば。これからは一緒に学食へ行くもんね」
……エロ博士よ。
お前とも気楽に話ができる場所が1つなくなった。
エロ博士よ……お前とは友達だぞ。
食堂で食べているんだ……今度、エロ博士も誘ってやろう。
優が胸を張って、俺に向かって言い放つ。
「夏希からの伝言。優を止めるのは無理でした。今度から私も一緒に食堂で食べることにするわ」
ヤッター……まだ幸運の女神は俺を見放していない。
夏希も一緒に食堂に来てくれるのか。
優と2人だけの食事からは解放されることになる。
「何? どうして夏希が来るって聞いた途端に元気になるの? 私と2人っきりの食事だと嫌な訳?」
「そういう訳じゃない……優と2人だけで食事をすると……優が超美少女だから、目立つだろう。2人っきりで食べるのはマズイだろう」
「たっくんが私のこと超美少女って言ってくれたー。ヤッター!」
だから食堂全体に聞こえるような大声をだすのはやめなさい。
俺が恥ずかしいだろう。
チャラ男達のこともある……当分は優を1人で行動させるのは危険だろう。
優がこの学校に慣れるまで、付き合うのは仕方がない。
この学校にはギャルも多いが、チャラ男が多いからな。
「それじゃあ一緒に帰りましょう」
そう言って優は俺の腕に腕を絡ませて、体を寄り添ってくる。
俺は仕方なく、優に従った。
この一件で優は一躍、有名人になった。
チャラ男を回し蹴り1発で倒した美少女ギャルとして、学校中に噂は広まっていった。