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6話 エロ博士の考察

 昼休憩のチャイムが鳴る。


 俺はある人物が来るのをジッと待つ。

隣で何も知らない優はお弁当を広げて、俺を待っている。


 ふわりとした微笑みと共に、俺の待っていた夏希が姿を現した。


「優、今日は私と一緒にお弁当を食べましょう」


「うん。いいよ。たっくんと3人でお弁当を食べましょう」


 その時、俺は席を立って、優へ笑顔を送る。


「実は俺は弁当を持ってきてないんだ。学食で食べてくるから夏希と2人で昼休憩を過ごしてくれ」


「えー……そんなの聞いてないし。それなら私も付いて行くし」


「あら……優、私のことを忘れないで。今、一緒にお弁当を食べるって言ったばかりじゃない。拓哉は放っておいて女子2人だけで食べましょう」


 よし……俺の計画通りだ。

夏希が来れば、優は夏希と一緒に弁当を食べるしかない。

これで俺は食堂まで優に付いて来られなくてすむ。

頭脳の勝利。


「たっくん……覚えてなさいよ。お弁当を食べ終わったら、その時は学食へ行くからね」


 その時は既に俺も学食の定食を食べ終わっている頃だろう。

それから校舎の中庭にでも逃げれば、優は追いかけてこれない。

午前中、ずっと考えていただけあってグッドアイデア。


「学食で食べてる時に追いつけたらな。俺も早食いは得意なんだ」


「むう……絶対に追いついてやるんだから」


「優……食べる時はゆっくりと味わって、感謝をもって食べるものよ。早食いはダメよ」


 ナイス夏希。

夏希といれば優は大人しくなるしかない。


「後のことは頼んだ……夏希」


「あまり優を虐めないでね……早く帰ってきてあげて」


 そんな言葉は俺には聞こえておりません。

俺は通路を通って教室を出て、いそいそと学食へ向かう。


「今日はなんだか機嫌がよろしいですな……やはり隣に超美少女が座ると機嫌がよくなるでしょうな」


 いきなり声をかけてきた主を探すと、小太りの眼鏡をかけた柏木直樹カシワギナオキだった。

俺が学食に行くのを待っていたようだ。

柏木直樹カシワギナオキ。通称エロ博士。

俺の数少ない友達の1人だ。


「拓哉は近すぎてみえていないかもしれませんが、優殿のスタイルはモデルにも勝る体型ですぞ。それも胸が大きく、手足が健康的に細く、足首もキュッと締まっている。あれだけの逸材は巷にはいませんぞ」


 さすがエロ博士、優のことをよく観察している。

豊満な胸も柔らかくて弾力性があって、普通の男子だったらイチコロで優の虜になっているだろう。

小学生までのトラウマがなければ、俺でも危ない所だ。


「シャツのボタンを3つ開けて、ブラジャーの上を微かに見せている所にサービス精神を感じますな。それに超ミニから、同じピンクの布がちらりと見えるのがたまりません。良い観察材料ができましたわい」


 博士は眼鏡を取って、眼鏡拭きで眼鏡を拭いて、自分の顔にかけなおす。


「確かに見た目だけは超美少女級なんだよな……これで性格も普通だったら、俺も少しは考えるところなんだけどな」


「良いではありませんか。美少女の価値は希少。多少のワガママは許容範囲ですぞ」


 博士は優の性格は猛獣並なことを知らない。

1度ロックオンされたら、2度とロックオンから外れることはない。

幼稚園、小学校と追い回された俺だからわかることもある。


 学食に着いて、発券機で日替わり定食を頼んでトレイを持って並ぶ。

博士は日替わり定食の他に肉うどんも追加で食べるようだ。


 毎日のように「ダイエットをしなければ」と言っている言葉は嘘だろう。

食堂に入ると、何もかも忘れて、大食漢に戻っている。


 トレイに日替わり定食を乗せて、2人がけの席に座る。

いただきますと言う前に、すでに博士はうどんを口へ入れて、すすっている。


 食堂に優がついてきていたら、この平穏な食事にはありつけなかっただろう。

俺は静かに日替わり定食の唐揚げを箸でつかんで、口の中に放り込んむ。


「優殿の胸はアンダー65のトップ90と推測いたしましたぞ。理想形の釣り鐘型。これだけでも鑑賞するに値しますぞ」


 たしかに優の胸は豊満だ。しかし、そこまで厳密に考えたこともなかった。さすがエロ博士だ。

アンダー65のトップ90がどれくらいの大きさなのか、拓哉ではわからない。


「肢体も長く、小顔で8等身の体型ですぞ。日本人ではまだまだ8等身の体型は少ない。貴重な存在でしょうな」


 エロ博士は肉うどんと日替わり定食を食べながら、優の観察記録を褒めちぎる。

しかし、そのことを優、本人の前で言うと張り倒されそうな内容ばかりだ。


「それだけ優のことに熱心なら、優に紹介してやろうか。優は面白い人物が好きだぞ」


「いえいえ、優殿は言い換えればサバンナの猛獣。猛獣の近くへ好き好んでいく研究者はおりません」


 エロ博士は普段は寡黙だが、友人の拓哉といる時だけはよくしゃべる。

常に人に対して警戒の網を張っているタイプだ。

常に拓哉と2人きりの時に話しかけるようにしているぐらいの気配り屋でもある。


 エロ博士と気軽な話題で、食堂の日替わり定食を楽しんでいると、食堂の発券機の近くで大声が聞こえる。

何気なく見ると、優がチャラ男達3人にナンパされていた。


「いいじゃん……一緒に学食で食べるぐらい……俺達はただ友達になりたいだけなんだよ」


「うっさいわねー。チャラ男なんてお呼びじゃないし……私に構わずどこかへ行ってくんないかなー」


「その気の強さもそそる。俺は気の強い女が大好きなんだ。いいから俺達と一緒に食べようぜ」


「私……友達を探しに来ただけだし……あんた達に構っている暇ないの……あーウザい」


 やはり食堂に優1人で来させるのは無謀だったか。

夏希が上手く押さえてくれると思っていたんだけど……夏希を頼りすぎたか。


「ちょっと行ってくるわ」


 食べ終わったトレイを持って、拓哉は優の元へとゆっくりと歩いていく。

エロ博士はまだ肉うどんと日替わり定食を食べ終わっておらず、口いっぱいに放り込み、手を振って拓哉を見送った。

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