表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/41

5話 優と夏希

 とにかく優は昔とちっとも変わっていない。

自由気ままで、ワガママで、行動派。

人の意見など、全く耳を傾けない。


 外見だけは超美少女ギャルに大変身しているが、ギャルをしているのも目立ちたいし、気分だろう。

このままではクラスの女子から浮いてしまう可能性がある。

クラスの女子から浮けば、俺への執着度が高くなる。

そうなると俺は優から逃げられない。


 俺が優から自由になるには、優に女友達が是非とも必要だ。

女恐怖症の俺でも、女子と全く話せないということはない。

信頼している女子がクラスに1人だけいる。


 休憩時間のチャイムが鳴ったので優を連れて、俺が唯一話ができる女子の元へと歩いていく。



「どこへ連れて行く気なの? 私は自分の席に戻りたい」


「別にお前だけ席に戻っていてもいいぞ。俺は少し用事があるからな」


「絶対にたっくんから離れないもん」



 なぜか優は俺に対しての執着度が高い。

俺が席を離れて移動すれば、一緒に後を付いてくると思っていた。

案の定、優は文句を言いながらも俺の後を歩いてくる。


 そして目的の場所へ到着。

栗色のロングヘアーを首元でゆったりと1つに結わえた女子が、俺をみて微笑んで座っている。

目尻は下がっていて、おっとりした二重に優しい瞳。

少し低い鼻にぽってりした唇が可愛いと評判の女子。

2年C組の良心、皆のお姉さん的存在、新井夏希アライナツキだ。



「拓哉も困ってるみたいね……さっきの休憩時間は面白そうだったけど」


「見てたのなら止めに来てくれよ。夏希のいうことならクラスの連中も納得するだろう」


「あら……私にはそんな力はないわよ……ここから皆を見守るだけが私の役目」



 そう……夏希はいつもクラスの皆を温かく見守っている。

そして困った女子がいれば相談に乗ってあげる、良きお姉さん的存在。

おっとりとした、穏やかな性格が相談者の心を和ませる。



「優……挨拶しろ。こちらは新井夏希アライナツキだ。夏希と呼べばいい」


「よろしく優。元気があって可愛いわね」


「そんなのあんたに言われたって嬉しくないし」


「そうよね。初対面の人に可愛いは失礼だったかな。優はきれいだね」



 そう言われて優は黙って、俺の後ろへ隠れてしまう。

夏希のことを違う趣味の人と間違えたように警戒している。



「私に女子好きの好みはないわよ。きちんと男子が好きよ。警戒しないで」


「じゃあ……たっくんのことが好きなの? 絶対に渡さないんだから」


「んん……拓哉は好みじゃないかな……私はこれでもイケメンが好きなの」



 それを聞いた優はホッとした顔をする。

好みじゃないとはっきり言われた俺は自信をなくす。

そこまでハッキリと言わなくてもいいんじゃないか。

それにしてもイケメン好きとは知らなかった。

少し涙が出そうになるのはなぜだ。


「拓哉から紹介されているけど、自分で自己紹介するね。私の名は新井夏希アライナツキ。よろしくね」


「私の名前は峰岸優……よろしく。なんだか夏希と一緒にいるとペースが狂う。どうしてそんなにおっとりなの?」


「さあ……家で兄妹達の面倒をみている間にこういう性格になっちゃった。私は長女だからね。ただそれだけよ」



 こんなに優しそうなお姉ちゃんがいるなら、俺も一度くらいは弟になってみたい。

そう思わせる魅力を十分に夏希は持っている。

クラスの男子からの評価も高い。



「そんな所で立ってないで、空いてる席に2人共座ったら、立ってるの大変でしょう」



 言われた通りに席に座る。

俺と優は夏希の隣の列の席に座る。

夏希はゆっくりと優に質問を投げかける。



「優はこのクラスのこと好き? 嫌い?」


「まだ今日、転校してきたばかりなのにわかるはずないじゃん」


「そうだよね。わかるはずないよね。皆に対する印象は?」


「誰だって挨拶なんて簡単にできるし。まだ信用できるのはたっくんだけよ。他に友達いないもん」


「そうよね。転校初日で信用できる人なんていないわよね。拓哉がいてくれてよかったね。」



 夏希……そこで俺を重要視してどうする。

俺は夏希に優を預けたいと思ってきたんだぞ。

優を見ろ……俺の背中に隠れて、顔を真っ赤にしてるじゃないか。



「これから2年C組で学校生活していくのに、女友達は必要よ。あの日とか、男子にはわからないでしょ」


「そういえばそうかも……たっくん、あの日ってわかる?」


「……わからない」



 はあ?……あの日と言われても……俺は女子ではないし、わかるはずがない。

それは是非、女子同士でなんとかしてもらいたい。



「他にも相談できる女子がいたほうがいいわよ。拓哉のことを相談したい時もあるでしょ」


「あるある……今がそう……たっくんなんて、腕をギューとしたり、胸を当てたりしても平気な顔をしてるんだよ。許せない」



 やはり知っていて胸を俺の脇に当てていたのか。

実に柔らかくて弾力があって、良い気持ちでしたよ。

でもそんなことで、俺は表情を崩したりしない。

優のことを警戒する心を忘れたりしない。



「せっかく転校してきたっていうのに、私のこと警戒ばっかりしてて、全然、昔のように構ってくれないんだよ」



 いえいえ……昔も構っておりません。

優が一方的に俺に絡んできていただけで……優にとっての俺は玩具でしかありませんでした。


 優がここぞとばかりに俺に対する不満をぶちまける。

それを笑顔で、相槌をうちながら、夏希は優に調子を合わせていく。

いつの間にか、優は夏希に心を開いて、色々なことを話し始めている。



「たっくんって本当に鈍感だから。女心に鈍いのよ。だからガンガン迫っていかないとわからないの。大変なんだから」


「優も昔から拓哉には大変な思いをして付き合ってきていたのね。頑張って優。鈍感な拓哉でもいつかはわかるわ」


「絶対にわかってもらわないと困るの……」


「そうね。優にとっては切実ね」



 なぜ……俺が悪者になってるんだ。

鈍感……鈍い……さすがに女子2人から言われると心が傷つく。

俺だけ先に自分の席に戻っていいか。


 優はニコニコと嬉しそうに微笑んで俺を見る。



「たっくん……夏希を紹介してくれてありがとう。夏希となら友達になれそう。夏希といると心がとても落ち着くの」


「私からもお礼を言うわ。優って元気が良くって明るくて、超美人の妹ができたみたいに可愛い」



 そうか、俺の予想通り、やはり夏希だったら優を友達にできたようで良かった。

これで俺の昼休憩が安息になる。

学食まで付いてこられても困るからな。



「俺は先に席に戻っているぞ」


「私はもう少し夏希とおしゃべりしてから戻る」


「そうか……わかった。じゃあ後のことは夏希頼むな」


「……わかったわ」



 転校して早々に捕まっていた俺は、やっと優から解放されることができた。

これで俺は休憩時間も自由だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ