4話 休憩時間、皆との挨拶
休憩時間になると、転校生の優のことが珍しく、クラスの皆が集まってきた。
それに優が愛想良く、挨拶を交わしていく。
優と挨拶をした男子達は皆そろって鼻の下を伸ばしている。
優はスタイルが抜群で、豊かな胸がシャツからツンと突き出している。
顔もタレントのように小顔できれいで可愛い。
そんな女の子に挨拶をされて、にやけない男子はいないだろう。
その姿を少し離れた場所から見ている女子のギャルグループがいる。
2年C組のギャルグループだ。
あまり面白くなさそうな顔をしている。
その中に1人ミディアムカールの女子がいる。
シャツのボタンを2つまで外し、スカートの丈もミニの美少女。
吊り上がった目尻が、意思の強さを物語っている、
2年C組ギャルグループのリーダー安藤麗華
麗華は腕を組んで、身体を斜めにして優をみている。
麗華も優も気が強い。
あまり相性が良いように思わない。
あ……麗華が優の元へ歩いてくる。
優と挨拶をするつもりだろう。
何も起こらないことを祈りたい。
俺の胃が少しキリキリと痛む……逃げ出したい。
しかし優に左腕をがっちりと掴まれているので、トイレに逃げようと思っても逃げられない。
麗華が優の机の前に、スタイルを強調するようにして立つ。
「私は安藤麗華……2年C組の女子グループにいるの。優も参加してみない? 皆で楽しく遊びましょうよ」
「んん……あんまり興味ないや。ごめんだけど、参加は止めておくー」
麗華が優しく優を誘うが、優はそんなことも気にせずバッサリと麗華の言葉を切り捨てる。
もう少し、穏やかに話していただけないでしょうか。
隣で見ている俺のハラハラする。
「そう言わずにグループに参加してよ。 優は見栄えもいいし、私達の知り合いのチャラ男達も喜ぶと思うのよね」
「チャラ男か……本当に興味ないや。わたしチャラい男って嫌いなの」
「2年C組のギャルは私達のグループに入るって決まりになってるんだけど、大人しく従ってくんないかな」
「イヤだなー。そういう決まり。誰が作ってんの。私に関係ないし……私はたっくんがいればそれでいいだけ」
優よ……そこで俺の名前を出すな。
麗華が俺のほうをジーっと見ているじゃないか。
俺に話を振らないでくれ。
「こんな女子とも仲良く話をしないような奴のどこがいいの? 私達と遊んでいたほうが楽しいじゃん」
ごもっともなご意見でございます。
俺は女性恐怖症……女子とは普通に話すことができるが、自分から女子と絡もうとは思わない。
こうして女子同士の会話を聞いているだけで怖い。
逃げ出したい。
辺りを見回すが、誰も俺を救ってくれようとする勇者はいない。
「あなた達はチャラ男と遊んでいるのが楽しいんでしょ。私は楽しくない。だから、そのグループに入るつもりもないし、興味もない。私のことはそう思っておいて、話はこれで終りね」
優の周りに集まっている男女の学生達も、興味深く麗華と優の話を聞き入っている。
麗華の顔がすこし怒りで顔色を赤く染める。
「そんな強気なことを言っていて、後から後悔しても知らないよ。チャラ男達はしつこいから、優が困ることになると思うけどね」
「チャラ男のことなんて知らないわよ。ウザいだけだし……本当に興味ないのよ」
「どうあっても私達のグループには入らないということでいいのかしら」
「うん……今の所、全く興味ない」
流石は強気な優……麗華がいくら脅し混じりのことを言っても全く動じない。
小学校の時もそうだった……優の気の強さは男子でも負ける。
優を説得しようとするほうが無駄なことを俺は知っている。
「せいぜい。その冴えない拓哉とイチャついてればいいじゃない。私はもう誘わないから」
「それでいいよ。私はたっくんさえ居ればそれで今は文句ないから」
麗華は身を翻して、自分達のグループへと戻っていった。
しかし、2人の今の会話で、お互いに気が合わないということがわかっただろう。
これからは2人ともお互いに避けて通ってもらいたい。
しかし、優の気性の荒さは小学校の時から変わっていないな。
淳が静かに優と俺の席にやってくる。
「あーあ、麗華のグループとぶつかちゃったか。本当は仲良くしてほしかったんだけどな」
「そんなの私の勝手だっつーの。誰かに言われて、言うことを聞くのって私の性分にあわないし」
淳の後ろから、少し控えめな少女が顔を出す。
鈴木美奈穂だ。
クラスでも仲良しの男子女子も多く、クラスでは平和主義で、皆の仲介に入っている女子だ。
そんなことをして何が面白いのかわからないが、本人は一生懸命にクラスのために動いている。
「優……転校生なんだし、あまり目立たないほうが良いと思うよ。特に麗華のグループとは仲良くしていたほうがいいと思う。麗華は2年生のチャラ男達と相当遊んでいるから」
「そんなの私に関係ないわ……ご忠告ありがとう」
美奈穂の提案を優はバッサリと切る。
昔から優は好戦的だ。
そして自分の仲間は自分で探すタイプ。
だから、人の言ったことは絶対に信用もしていないし、従うこともしない。
「クラスの中が平和であればそれでいいよ。クラスのことは拓哉に聞いてくれ。俺が説明するよりも早いだろう」
淳……そこで俺に振ってくるなよ。
俺が説明したからと言って、優が素直に聞くタイプでないことは、昔からの出来事でわかっている。
それに俺は優の保護者じゃない。
本当は淳が相談役になるはずだったのが、席替えによって変わっただけだ。
美奈穂が粘って優に声をかける。
「クラスの皆と仲良くやろうよ。私も優とは友達になりたいしさ」
「別に友達になってもいいよ。私の自由を束縛しない限り、私も他人を束縛したりしないから」
麗華に対して、優が機嫌が悪くなるのは、少しはわかるが、なぜ美奈穂に対して優は冷たいのだろうか。
美奈穂はクラスの皆から好かれるムードメーカーだ。
そんな優しい美奈穂を優は警戒するんだろう。
「美奈穂……あなたが何を考えて、どう行動しようと私には関係ないし……自由にどうぞって感じ。だけど私にそれを押し付けないでね」
クラスの雰囲気が和やかな感じから段々と変わってきている。
優の気の強さに気づいたのだろう。
この気の強ささえなければ、普通の女の子なのにな……つくづく残念だ。
優の周りにいた男女は、それぞれの場所に戻っていった。
あまり優と関わると厄介ごとに巻き込まれるとでも思ったのだろう。
優は左腕に手を回して、俺の腕をがっちりと掴んだまま、下から目線で俺を見てくる。
目を潤ませて、長いまつ毛が濡れている。
とても色っぽい。
「たっくん…皆と仲良くしたいと思うけど……私って好き嫌いがハッキリしてるし……はっきりモノを言っちゃうから
ダメなのよねー。この癖……小さい頃から直らないや」
「優は優らしくすればいいんじゃないか。優にも沢山良い所がある。そのうちクラスの皆にもわかってもらえるさ」
「そうやって慰めてくれるたっくんはヤッパリ優しい……大好き!」
大好き……大好き……大好き……
俺を女性恐怖症にしたのは優だ……甘い言葉に騙されてはいけない。
優は無邪気な笑顔で俺の腕にしがみついてくる。
そして優からは甘くて良い香りが漂ってきた。
休憩時間が終わるチャイムが鳴った。