39話 スィーツ店での雑談
次の日になって、優と俺は淳と夏希が付き合うことになったという、嬉しい報告をもらった。
淳は照れ笑いを浮かべ、夏希は顔を赤くしながら嬉しそうに微笑んでいた。
昨日の放課後の帰り道で、淳から夏希へ告白したそうだ。
告白した内容までは聞いていない。
美緒だけには報告しておいて、クラスの皆には内緒にしておくという。
いきなり報告をして、淳のファンの女子達を刺激したくないらしい。
仲良くしていれば、そのうち噂になって広まるだろう。
その時に聞かれれば、答えるという。
淳と夏希で話し合って決めたことだ。
優と俺が何かを言う必要もない。
優は2人を見て嬉しそうに胸で両手を組んで喜んでいる。
「淳、夏希、おめでとう。これで私達とWデートができるね」
淳と夏希は優の言葉を聞いて、照れた笑顔を浮かべて、優から視線を逸らす。
見ている俺と優のほうが見ていて恥ずかしくなりそうだ。
「今度の土日なんてどうかな?」
優が提案すると夏希が困った顔して、首を横に振る。
「土曜日、日曜日は弟や妹達の世話をしないといけないの。だから無理ね」
夏希の家は兄妹が多い。
長女である夏希の役割分担も多い。
いきなり遠くの遊園地まで遊びに行くのは難しいようだ。
優は次の提案をする。
「今日の放課後、4人でスィーツ店に行かない。それなら近いから大丈夫でしょ」
「そうね。スィーツ店なら駅前の繁華街にあるし、家からも遠くないわ。遅くならない程度ならいいわよ」
夏希からもOKが出た。
淳も頷いている。
「それじゃあ、放課後に皆でスィーツ店でもいくか。淳と夏希のことも色々と聞いてみたいしな」
「拓哉……そんなに俺をいじめないでくれよ。今も恥ずかしいんだから」
「だから聞きたいんじゃないか。夏希からの感想も聞きたいしね」
夏希がどうして淳と付き合おうを思ったのか、そのことについては興味がある。
今まで淳と夏希は友達ではあったが、それほど仲良しという関係ではなかったし。
クラスのイケメン男子である淳を、遠ざけている一面もあると思っていたから。
とにかく放課後に淳と夏希の2人から話を聞けばわかるだろう。
◇
放課後になり、4人で校門を出て、駅前に広がる繁華街へ向かう。
淳と夏希は少し離れて歩いている。
まだ手をつなぐのが恥ずかしいのかもしれない。
優は俺の腕に自分の腕を絡めて体を寄り添ってくる。
俺と優は体を寄り添って淳と夏希の後ろを歩いていく。
駅前の繁華街では人通りが多い。
道行く人達は、少しの隙間を割って歩いていく。
人とぶつからないように、淳は夏希と手をつないで、身体を引き寄せる。
「やっと、あの2人、手をつないだね」
「ここは人通りが多いからな」
俺と優は体を寄り添って人混みの中を歩いていく。
駅前のスィーツ店に入ると、店内は人が多かったが、運よく4人掛けのテーブルが1つだけ空いていた。
俺達は素早く4人掛けのテーブルの椅子に座る。
それぞれに飲み物を頼み、優はイチゴのミルフィーユを頼む。俺はチョコレートケーキだ。
淳はイチゴのショートケーキを頼み、夏希はアップルパイを頼んだ。
ウェイトレスが飲み物とケーキを運んできてくれる。
飲み物を飲んで、喉の渇きを潤す。
「今日もこの店は人でいっぱいだな」
「この辺りで唯一のスィーツ店だもん。女子から評判高いんだから」
「どうりで女子率が高いと思った」
店内の7割は女性が占めている。
人気が高いのがわかる。
淳と夏希も美味しそうにケーキを食べている。
仲良さそうに、ケーキの交換などもしていた。
優はそれを見て、嬉しそうに夏希に問いかける。
「夏希……どうして淳でOKしたの? 淳のこと興味なさそうだったじゃん」
それは俺も聞きたい所だ。
ナイスチョイス……優。
「それは……淳が私の兄妹のことも気に入ってくれたことが大きいわ。あんな告白初めてだもん」
いったい淳はどんな告白をしたんだろう。
優も不思議そうな顏をして夏希と淳の2人を見ている。
「以前に夏希を家まで送り届けた時に、夏希の兄妹達と遊んであげたんだ。すると懐かれちゃってね。それが可愛いかったんだよ。俺にも年下の妹がいるのは知っているだろう。俺は年下が可愛いんだ」
淳に年下の妹がいることは知っている。
淳はシスコンと言っていいほど妹のことを可愛がっている。
そのことと、今回のことと関係があるのか。
「俺は夏希も好きになったんだけど、夏希の兄妹達も好きになったんだ。だから兄妹達とも仲良くしたいと夏希に伝えたんだよ」
「淳みたいな告白をされたのは初めてよ。『夏希のことが好きだ。夏希の兄妹のことも好きだ。だから夏希と一緒に兄妹達の遊び相手になりたい』って淳が言うんだもん。はじめは冗談かと笑っちゃったわよ」
淳……そんな告白をしたのか。
「私も淳のことは友達だと思ってたし、嫌いじゃなかったけど……淳はイケメンだし、それほど興味はなかったわ」
俺も夏希はそんな感じで淳を見ていると思っていた。
「だけど私の兄妹まで遊んでくれるって告白してくるなんて思ってもみなかった。私も長女だし、兄妹と遊んでくれる良いお兄さんがいてくれればなって思っていたの。だから淳からの告白をOKしたの」
なるほど……さすがは兄妹が多い家族の長女。
確かに兄妹と上手く遊んでくれる彼氏のほうが良いに決まっている。
「淳……よくそんな告白を思いついたな」
「別に狙ったわけじゃない。夏希の妹や弟が可愛かっただけだ」
淳なら良いお兄さん的存在になるだろう。
平和主義のイケメンとお姉さん的存在の美少女のカップル誕生だ。
黙っていても、すぐに勘づかれるだろうな。
「学年中の女子達にすぐにバレることになるだろうな」
「ああ……その時は、正々堂々とカップル宣言をして、女子の皆には謝って回るさ」
淳が女子達に頭を下げている姿が目に浮かぶ。
モテるのも大変だな。
「私も女子達から嫉妬の目で見られることも覚悟しておかないとね」
穏やかに微笑んで、夏希が静かに呟く。
淳はイケメンでモテる。
彼女になれば嫉妬の目は夏希に向くだろう。
すでに夏希はそのことも含めて覚悟を決めているようだ。
「淳が相手だと、何かと大変なのね。私はたっくんで良かった。誰からも何も言われないもんね」
それは俺が女子が苦手で、女子から距離を取っていたからだ。
決して俺がモテないからではないと言いたいところだが、今までラブレターの1通ももらったことがない。
優の彼氏になってから男子生徒の嫉妬の視線を多く受けるが、それも慣れてくると気にならなくなる。
時間が経てば、淳と夏希のことも皆は許してくれるだろう。
そんなことを考えていると、優が俺の手を握って、優しく微笑む。
「カップルになちゃえば、誰も文句は言ってこないわよ。だって恰好悪いもの」
確かに優の言うとおりだな。
俺は優とケーキを半分ずつ交換して、ケーキを食べる。
そして、4人で雑談をして、夏希が帰る時間までスィーツ店で楽しい一時を過ごした。




