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38話 夏希と淳

 優が俺のいうことを簡単に聞くはずがない。

好奇心旺盛な優が我慢できるはずがない。

机に鞄を置いて、夏希の元へ走っていく。


 俺はため息をついて、自分の机に鞄を置く。

夏希は笑顔で優と話をしている。

やはり優の勘違いだろう。


 そう思っていると両手を振って、優が俺に合図を送ってくる。

夏希の席まで来いということらしい。

俺はゆっくりと歩いて、夏希の元へ歩いていく。



「最近、淳が夏希の家まで、夏希を送ってくれるんだって」



 嬉しそうに優が俺に説明する。

優が興奮することではないだろう……



「この間なんて、夏希の小さい兄妹と一緒に、淳も遊んだんだって」



 優は興奮しながら、夏希から聞いた話を俺に説明する。

夏希は顔を赤くして、俺と目を合わさない。


 それにしても淳の奴……どういう心境の変化だ?

運命の彼女はどうした?

これは淳に心境を聞いてみないとわからないな。



「それで夏希は淳のことをどう思った?」


「やっぱり淳は優しいと思った。嫌がらずに兄妹の面倒も見てくれて嬉しかった」



 夏希は兄妹を一番大事にしている。

何よりも兄妹を優先する癖がある。

同級生の男子が兄妹と仲良くしてくれれば、それは嬉しいだろう。



「兄妹のことは抜きにして、淳を男性としてどう思ってるんだ?」


「イケメンで優しくて、成績優秀でスポーツ万能。女子なら誰でも好きになるでしょうね」


「夏希の判断を聞いてるんだが……」


「私は臆病だから、もっと慎重に男性は選びたいわね」



 なるほど……夏希も淳の本心がわからないといった感じか。

本心がわからないから、慎重に心構えをしているのだろうな


 優は夏希に抱き着いて、ニコニコと笑っている。



「夏希ほどの器量良しはいないだから、淳も早く夏希に告白しちゃえばいいのに」


「優、バカなこと言わないで……告白なんてされると私が困るわよ」


「なぜ困るの? OKすればいいじゃん」


「私には小さい兄妹達がいっぱいいるし、簡単なことじゃないの」



 自分のことよりも兄妹の心配をしている所は夏希らしい。

夏希は長女だから、兄妹の世話をすることが身に染みているのだろう。

兄妹が多い長女も色々とあって大変そうだ。


 夏希は普段は落ち着いた、皆のお姉さん的キャラだが、美少女であることは間違いない。

クリクリ二重に茶色の瞳、整った鼻筋、少しぽってりした唇が色っぽい。

スタイルも抜群で、優には負けるが、胸も大きい。

全身から上品さと落ち着いた温かい雰囲気が漂ってくるのが印象的だ。


 優や美緒ほどではないが夏希もモテる。

夏希はしっかりと告白の相手のところまで行って、優しく穏やかに断ってくる。

だから告白を断られてた後でも、夏希のことを想っている男子は多い。


 夏希も美緒ほど頭は良くないが、成績は優と一緒ぐらいに成績優秀だ。

その代わり、少しスポーツは苦手にしている。


 優は俺の隣にきて、俺の手をギュッと握る。



「たっくん……淳の気持ちを聞いてみようよ。そうすればハッキリするじゃん」


「別に俺達が淳に聞かなくてもいいだろう。2人が好き同士なら自然とそうなるはずなんだし……」


「私は早く結果が知りたいの」


「テスト結果じゃないんだぞ。お互いの気持ちが重要だろう。もっと夏希と淳の気持ちを考えろ」


「だって……」



 建前上は優をいさめたが、やはり俺も少しは気になる。

淳が学校へ登校してきた時、それとなく話を聞いてみよう。

夏希が心配そうに俺達2人に声をかける。



「あまり問題を大きくしないでね。淳はイケメンでモテるから……」


「わかった。夏希が心配するようなことはしないよ」


「よかった……」



 確かに優を自由にさせておくと、淳に面と向かって夏希のことを聞きそうだ。

そうなれば、クラス中が注目することになる。

クラスの女性連中の視線を浴びるのは夏希だ。

それを避けたいという夏希の気持ちはわかる。



「優……お前は絶対に淳に質問するなよ。優の行動は目立つからな」


「たっくん……それは言いすぎだよ。私だって場所は考えるもん」



 そうだといいんだけどな。

優は突発的に行動する時がある。

それが一番怖いんだ。


 教室のドアから淳が登校してきた。

優の1つ前の席に座る。

優は淳に聞きたくてウズウズしている。



「どうしたんだ? 優も拓哉も様子が変だぞ」


「いや……最近、淳が夏希の家まで、帰りに送って行ってるってきいたからな」


「ああ……そういうことか。この間なんて、夏希の兄妹とも一緒に遊んだよ。とても可愛くて楽しかった」



 淳は嬉しそうに俺達2人にその時のことを話す。

淳の笑みからは淳の本心はわからない。



「淳……運命の彼女を探すのは止めたのか?」


「いや……止めていない。でも少し方向性を変えて、視野を広く持ってみようと思ってね」


「どういう意味だ?」


「もう運命の彼女に出会ってるんだけど、俺が鈍感でわかっていない可能性もあると思ってね」


「なるほど……」



 だから淳は今まで会ったことのある女子達に目を向けるようになったというわけか。

でも夏希だけ特別扱いしているのはなぜなんだ?



「なぜ、夏希だけ特別に一緒に帰ったりしてるんだ?」


「夏希と一緒にいるのが一番落ち着くんだ。心が穏やかになるし。悩み事の話も聞いてもらえるし……夏希って女神みたいな感じじゃん。いつも穏やかで、暖かくて、清楚で……とにかく一緒にいると心地良いんだ」


「これからも夏希と一緒に学校から帰るつもりか?」


「ああ……そうするつもりだよ。夏希とは話が弾むからね。それに兄妹達も可愛いし」



 淳は知らず知らずに夏希に惹かれている自分のことを気づいていないらしい。

身近に夏希という女神がいたことにハッキリと気づいていない。

優が後ろから淳の肩を叩く。



「運命の彼女って、女神のような夏希のことじゃん。そのことに気づいてないなんて……淳って鈍感?」



 2人で気づかせればいいことを……

優なら言うかもと思っていた。

止められなかったのは俺のミスだ。


 淳はアゴに手をかけて、何かを考えている様子だ。

ブツブツと独り言を言っている。



「運命の彼女……運命の女神……女神のような女性……夏希……」


「おい……淳大丈夫か? あまり考え込むなよ」


「いや……待ってくれ。俺はまた見落としていたのかもしれない。夏希ほど良い女子はいない。俺に安心感と穏やかさと、暖かさを与えてくれて、いつも見守ってくれている女子は夏希だけだ。そして俺も夏希に好意をもっている。だから友達だと思ってきた。でもそうじゃない」



 これ以上は深入りしすぎだ。

優が何かを言わないように俺は席を立って優の口を押える。

優は口を押えられて、俺に目で文句を言っている。

淳はまだ考え込んでいる。



「俺は考え過ぎていたんじゃないだろうか……好きな女子に好きと言えばいいだけの話だったんじゃないか。運命の彼女かどうかは、付き合ってみないとわからない」



 優が俺の手の指をガブとかじる。

痛い……

思わず手を離すと、優が淳に声をかける。



「淳はウダウダと考え過ぎだっつーの。夏希のこと好きか、好きでないか、はっきりしろっつーの」



 優……それは今の段階では言いすぎだ。

淳の目がキラキラと輝く。



「俺は夏希がいつも一緒にいてくれると思っていた。それは間違いだ。俺は夏希のお姉さん的な部分が大好きだ。夏希の性格が大好きなんだ。他の男子に渡したくない。俺……放課後にでも夏希に告白するよ」


「そうか……淳頑張れよ」


「うん……優、俺に理解させてくれてありがとう」



 別に優が急がせなくても、やがて夏希と淳は付き合っていたと思うけどな。

優は胸を張って、俺に向かって「私のおかげだね」と呟いた。


 放課後に尾行すると優は言い張ったが、それはダメだと断念させた。

どういう結果になったとしても2人の問題だ。

それに2人とも告白の現場を友達に見られたくないだろう。

2人がどういう答えを出したかは、明日になればわかるのだから。

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