37話 変った登校風景
2人で玄関を出て、エレベーターに乗って1階に降りて、学校へ向かう。
優は俺の少し前を歩きながら、クルクルと体を回転させて、上機嫌だ。
「たっくんが私にメロメロさんだったなんて……今日は嬉しくてたまらないわ」
「それは学校で言わないでくれよ。俺は夢と間違っていたんだから」
「ずーっと夢の中って間違えていればよかったのにー」
誰でも夢を見ていると思うと、無防備だろう。
まさか、隣に優が寝ているなんて思ってもみなかったし。
あれは不可抗力だ。
「誰にも言わないし。言うと幸せが減っちゃうじゃない」
「そういうもんか?」
「そういうもんです」
そう言って、優は俺の隣へ歩いてきて、俺に腕を絡めて、身体を寄せる。
2人寄り添って歩道を歩いていく。
最近では2人で寄り添って登校していることが多いので、誰にも驚かれることはない。
春の日差しと、通り抜ける風が気持ちいい。
「今度から時々、たっくんのベッドの中へ潜り込もうかな」
「やめてくれよ。それは禁止。寝ぼけているから優を抱きしめてしまうよ」
「私はたっくんの抱き枕にされてもいいよ。私もたっくんを抱き枕にするから」
「そういう問題じゃない」
誰かに見られているわけではないが、一緒のベッドで寝ているのはマズイ。
まだ優を抱き枕にしていた感触が体に残っている。
隣から優の甘くて良い香りが漂ってくる。
このままだと勉強したことが頭から抜けていってしまう。
どこかで歯止めが必要だ。
俺達は同棲しているわけではない。
一緒のベッドで寝るのは禁止だ。
優は俺のいうことを全く気にしていない様子だ。
それが優のマイペースなのだが……
「早くたっくんと一緒の家に住めるようになれればいいのに」
「俺達、まだ高校生だぞ。同じ大学に合格したら考えてもいいけど……」
「本当? 本当に考えてくれるの?」
「ああ……考えるだけな。今のままの点数だと、俺と優が同じ大学へ合格するのは難しいからな」
優は成績優秀。
俺は学年でも中の上。
学力差が違いすぎる。
「これからたっくんの勉強をもっと真剣に教えていくことにする」
「俺も大学には合格したいからな。優は丁寧に教えてくれるから、覚えやすい」
「私……頑張るからね」
俺より優のほうが勉強に燃えているようだ。
俺は俺なりに頑張っているんだけどな。
上位の点数まで、まだまだ遠い。
いつも行き帰りに寄っている公園へさしかかる。
いつものように公園のベンチに座って、2人寄り添って空を見る。
今日も空は青く、大きな雲が流れている。
晴天といっていい。
俺は立ち上がって自動販売機でコーヒーを買って、ベンチに戻って2人で1本の缶コーヒーを分け合う。
冷たくて喉の渇きが少しだけ潤う。
「たっくん……夏休みのうちに予備校を探しに行こう。私、たっくんと同じ大学へ合格したい」
「ああそうだな……同じ予備校なら優に教えてもらうこともできるしな。一緒に予備校を探すか」
「うん」
青空を見ながら、2人で平和なひと時を寄り添って楽しむ。
缶コーヒーを飲み終えて、2人でベンチから立って、ゴミ箱へゴミを捨てて、歩道へと戻る。
そして歩道を歩いて高校までの道をゆっくりと進む。
高校が近くなるにつれて、生徒達が集まってくる。
生徒達の中に淳と夏希を見つけた。
淳と夏希はお互いに顔を赤くして俯いて歩いている。
良い感じだ。
淳の中で何か変化があったのかもしれない。
「あれ? あそこ淳と夏希じゃない?」
「ああ……そうみたいだ。今日のところは見なかったことにしておこう。2人共良い雰囲気だしな」
「2人が引っ付いたらイケメンと美少女だね」
また学校が大騒ぎになるかもしれないな。
特に淳のことを想っている女子は多いからな。
「たっくんがモテなくて本当に良かった」
「……」
俺も目元までの髪を切れば、それなりの顔をしてるんだぞ。
目付きが悪い女顔だが……
しかし、この女顔を誰にも見せるつもりはない。
小学生の時に散々からかわれたからな……優に。
淳と夏希は一定の距離を取りつつ、2人で並んで校門を通っていく。
俺達は少し離れて、優と寄り添って歩いていく。
校門では数名の教師が立っているが、今は登校時間なので誰も声をかけられるものはいない。
俺と優も2人寄り添って歩いていく。
教師達は怪訝な顔をするが、俺達を止めるようなことはしない。
校門を通って校舎に入る。
俺の靴箱には何も入っていない。
上履きに靴を履き替えて、優の元へ行くと、優の靴箱の中にはラブレターが詰まっている。
まだ優のことを諦めていない男子が多数いるらしい。
俺を彼氏と認めていないのだろう。
優は超美少女ギャルだから人気があるのも仕方がない。
靴箱に入っているラブレターをゴミ箱へ入れていると、美緒もラブレターを捨てていた。
「おはよう美緒」
「優……おはよう。お互いに大変ね」
美緒も和風美少女であり、誰も射止めることのできない高嶺の花。
学校の中では優と美緒は学年でも競うほどの美少女だ。
「美緒も早く1人の男子と付き合っちゃえばいいのに」
「私は彼氏を作るつもりはないわ。私は1人で過ごしている時間が好きなの」
美緒は出会った時からスタンスは変わっていない。
ただ優と夏希と友達になったことで、俺と淳とも話すようになっただけだ。
「そういえば今日は淳と夏希が一緒に登校してたわね」
「美緒も見たんだ。良い雰囲気だから、私達も離れて見てた」
「楽しいことになるかもね」
そう言って美緒がうっすらと微笑む。
階段を上って自分達の教室へ到着する。
優と2人で夏希の様子を見るが、いつもと同じ感じだ。
淳も女子達に囲まれている。
もしかすると2人で秘密にしているのかもしれない。
もう少し様子を見てみたほうが良さそうだ。
優は不思議な顔をしている。
「淳と夏希が仲良くなればいいね」
「なぜだ?」
「だって2人がカップルになったらWデートできるじゃない」
なるほど優の考えはわかった。
デリケートな問題だけに、あまり気にしないようにしたほうが良さそうだ。
「優……2人のことは秘密だぞ」
「うん……わかってる。少しの間、見守りだね」
そう言って、優は楽しそうに微笑んだ。




