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34話 優と映画

林間学校の次の日は代休だ。


 優が朝から来て、朝食を作ってくれている。

もう少し寝ていたかったが、優が遊びにきたのだから仕方がない。


 朝食を食べて、脱衣所で服を抜いてシャワーを浴びる。

汗ばんでいた体にシャワーが気持ちいい。

普段着に着替えた俺は、ダイニングテーブルに座って、朝食を食べる。


 こんなに早い時間に俺を起こすなんて、何かあるのだろうか。

優がチラチラと俺の顔色を伺っている。



「たっくん……今日はお天気いいじゃない。外へ遊びに行くには絶好の日和よ」


「そうか……天気も良くて、家で昼寝でもしていると気持ちよさそうだなと思っていたんだがな」


「たっくん……こういう日は外出よ。外出」



 ようするに優は俺にどこかへ遊びに連れて行ってもらいたいらしい。

実にわかりやすい。


 今から遊園地まで向かうと到着するには昼過ぎになってしまう。

水族館に行くにしても距離が遠すぎる。



「駅前のモールにでも行くか。ウィンドショッピングぐらいはできるだろう」


「私……決めてきてるの。今、シアタービルでB級映画が単館上映されているの。その映画がみたい」


「題名は」


「学校一の薄幸の美少女が、なぜか俺だけに心を許す!?」



 聞いたこともない名前だ。

B級映画だしな……あまり期待しないで優の話を聞いてみるか。



「どんな話だ?」


「公園で会った2人の男女が互いの不遇を乗り越えて結ばれるラブストーリーよ」



 ラブストーリー……俺の最も苦手とする分野だ。



「その映画は夏希や美緒達と一緒に見に行ったほうがいいんじゃないか?」


「ラブストーリーといえばカップルでしょ。たっくんと観にいかないと意味ないよ」



 ラブストーリーといえばカップルなんですか……

そんな決め事を誰が作ったんだろう。


 女子同士でも、けっこう皆で一緒に観に行っていると思うんだけどな……

ようするに優は俺とデートがしたいのだろう。



「どうせ今日は代休だし、付き合ってもいいぞ」


「本当! ヤッター! だからたっくんは優しくて大好き」



 優と俺はしばらくして、外着に着替えて、外出する。

外はもう、ずいぶんと温かくて、夏の日差しが照り付けてくるようだ。


 駅前のモールを過ぎて、繁華街に出る。

繁華街から少し離れてところにシアタービルがある。


 家から30分ほどの距離を優と俺は手をつないで歩く。

歩道が狭くて、対面から歩いてくる歩行者とぶつかりそうになるからだ。


 シアタービルに到着すると単館上映だというのに、チケットが完売していて、優と俺は2時間後の上映まで待つ

こととなった。



「すごい人気だな」


「主演女優が超美少女なんだって」



 超美少女……それは俺も見てみたい。



「たっくん……今、変なことを考えたでしょう」


「イヤ……何も考えていないよ。映画が楽しみだなと思っただけさ」


「うそ……超美少女の女優さんと聞いた時、たっくんの鼻の孔が少し大きくなってた。たっくん嘘をつくと鼻の孔が大きくなるから、すぐにわかるんだよ」



 俺にはそういう癖があったのか。

これから癖がでないように気を付けよう。


 まだ上映時間まで時間があるので、ポップコーンをコーラーを買ってくる。

そして2人でポップコーンを頬張りながら、上映時間を待つ。


 上映時間が始まる10分前になった。皆チケットを見せて上映室へと入っていく。

俺と優もポップコーンとコーラーの後片付けをして、チケットを見せて場内に入る。


 丁度、中央の中央に2つ席があった。2人でそこに座って、映画が始まるのを待つ。

15分ほどの予告が終わり、やっと本編の上映が始まった。


 星空が輝く公園で、ヒロインがブランコに乗り、主人公がベンチに座って、あまり話さないシーンから始まる。

ヒロインは黒髪のロングヘアーで輝くほどに美しい色白の肌の美少女だった。


 ヒロインの両親は交通事故を起こしてしまい、主人公はその交通事故の被害者という設定だった。


 重い話だな……これだとB級作品になる理由もわかるな。主演女優は美少女だけど……


 段々とヒロインと主人公が回りの友人達によって元気を取り戻していく姿は、とても微笑ましく描かれていた。

そしてヒロインと主人公が真実に直面する。

ヒロインは別れを申し出る。それを主人公が断る。


 俺も優から別れを言われたら、主人公のように断るだろう。


 しかし頑なに責任を取ると言って、主人公と別れようとするヒロイン。

主人公の心は失意のどん底に突き落とされる。


 すると、ただの喫茶店のお姉さんだと思っていた、瞳お姉さんも事故の被害者だったことには驚いた。

そしてヒロインの元へ行き、ヒロインを納得させるシーンは大人なシーンだなと思った。


 隣を見ると優が感激しているのか、涙と流れている。

俺はそっとハンカチを渡す。

優は嬉しそうに涙をぬぐう。


 同じ大学に合格した主人公とヒロインは1つ屋根の下で同棲を始めた。

ヒロインが妙に色っぽく女性らしく変わっている。

そして主人公との仲も進展しているようだ。


 大学生だし……やってしまっただろう。

そういう雰囲気が映画からも漂ってくる。


 映画はハッピーエンドで終わった。

優は感激で号泣している。

まだ席から立ち上がれそうにない。


 周囲を見回すと、優と同じようになっている女性達が多かった。

俺は優が泣き止むのを待って、映画館を後にした。



「たっくん……私、あんな恋愛をしたい。2人で大学目指して、都内で同棲しよう」



 優よ……映画に洗脳されるの早すぎじゃねーか。



「私もあの2人のように、たっくんと幸せになりたい」



 俺も優と離れるつもりはない。

できれば映画のようにハッピーエンドを迎えたい。



「それじゃあ……今夜から大学受験に向けての受験勉強を始めるね」



 何?

どうして俺がスパルタの受験勉強を受けることになっているんだ。

それは俺の成績が悪いからか……



「私……決めたの。絶対にたっくんと同じ大学に合格するって」



 勝手に俺の目標も決めないでいただきたい……

俺達はまだ高校2年生なんだぞ。



「優……俺達は俺達のペースで、2人で仲良くやっていこう。何も焦ることはないだろう」


「うん……わかった。たっくんが今日は勉強したくないのもわかってるし……」



 そう言って優は元気よく、俺の胸に飛び込んできて、体を寄り添わせる。

俺も優の背中に手を置いて2人で並んで繁華街を歩いていく。


 夕陽が西に沈み、ビルの隙間へ沈もうとしている。

陽光がビルの窓に反射して眩しい。



「たっくん……今日の映画良かったでしょう」


「ああ……それなりに観れた。良かった」



 俺の家まで道を、2人で寄り添って歩いて帰った。

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