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3話 優との再会

 体が変だ。

体が動かない。

嫌な汗が背中を流れる。


 茉奈先生はそんな俺の状況など知らずに転校生である優を紹介する。



「峰岸さんは窓際の5番目の席ね。隣の中谷ナカタニくんは峰岸さんの相談相手になってあげてね」


「はい。わかりました」



 淳が大きな声で茉奈先生に返事をする。

窓際の5番目の席……

俺の後ろの席が優の席というわけか。

絶対に俺の正体はバレてはいけない。

小学校の時の記憶が蘇える。


 それにしても変われば変わるものだ。

小学校の時は男子みたいだった優が……あんな素晴らしいスタイルになっているなんて……

顔も美形になっちゃって……名前を聞くまでは優だとは気づかなかった。

一生気づきたくなかった。

気付かなければ、超美少女として、その豊満なスタイルを楽しむこともできたのに……


 優が教壇を下りて、俺の方へと歩いてくる。

スタイルを見ていたいが、このままではマズイ。

俺はとっさに顔を伏せて寝たフリをする。

絶対にバレないように……


 俺の横を通り過ぎていく気配がする。

そして俺の後ろに座った音がする。

後ろから、すごく良い香りが漂ってくる。



「俺、中谷淳ナカタニジュン。よろしく。茉奈先生にも頼まれてるから、何でも相談してくれ」


「私、峰岸優ミネギシユウ。隣の男子が超イケメンなんて私ツイてるー」



 そうだ淳のほうへ意識を向け続けるんだ。

そして俺のことは永遠に忘れてくれ。



「前に座っている男子。私が転校してきたのに寝てるんですけど……超態度わるくない?」


「ああ……拓哉のことは放っておいてくれ……こいつは女子が苦手なんだ」


「拓哉……上の苗字は何? 何?拓哉なの?」


沢村拓哉サワムラタクヤだ。女子恐怖症だから、放っておいてやってくれ」



 淳の馬鹿野郎……なぜ俺の名前をフルネームで教えてるんだ。

優に見つかってしまうだろう。

俺は額から汗を流しながら、必死に目をつむる。

気づくな……気づくな……気づくな……



「沢村拓哉くんね……たっくんか……懐かしいなー」



 やめてくれ。

気付かないでくれ。

本当に許して。


 急に俺の背中に柔らかい2つの何かが押し付けられる。

そして後ろから手が伸びて俺の首を絞めつける。



「やっと見ーつけた。たっくんー」



 やめろ。

首が絞まる。

息ができない。


 俺は仕方なく、起き上がって後ろを振り返る。

すると優が俺の目元まである髪を、手を伸ばしてかきあげる。



「やっぱり、その目付きの悪さはたっくんだー。私よ、優よ。覚えているでしょう?」


「知らん。誰か似た人と間違えているんだろう。よく間違われるんだ」


「そんなこと言うのはたっくんしかいない」



 優が手を伸ばして、両手で俺の首を絞めあげる。

よせ……苦しい……苦しい……

俺は机を手の平でパンパン叩く。

すると優が首を絞めている手を緩めた。



「優……わかったから止めてくれ……ギブ……ギブ」



 淳が不思議そうな顏で俺の顔を覗き込んでいる。

そして、周りから注目されている視線がいたい。



「これ以上、私を無視したら……昔のことを話すわよ『小さいたっくん』」



 最悪だ――

それだけは誰にも言わないでくれ。



「わかったよ優。俺が悪かった。もう無視しないから首から手を外してくれ。苦しい」


「はじめから素直に私のことを歓迎していればいいのよ」



 皆が歓迎しても、俺だけは歓迎できない。

せっかく忘れようと努力していた過去が……

悪夢だ……


 淳が横から能天気に聞いてくる。



「お前達どういう関係?」



 俺は関係ない……俺は関係ない……俺は関係ない



「私とたっくんは幼稚園の時に結婚を約束した仲よ」


「え! 拓哉にもそういう相手がいたんだ!」



 皆、俺を見ないでくれ……頼むから皆、見ないで。

クラス全員の目が今、俺に集中している。

優はそんなことを全く気にしていない様子で、俺を見て嬉しそうに微笑んでいる。

確かに超美少女だ……

その微笑みを他の誰かに向けてあげると、きっと他の誰かは喜ぶぞ。


 淳が立ち上がって茉奈先生に向かって手を挙げる。



「どうしたの中谷くん?」


「拓哉と峰岸さん、昔の幼馴染みたいなんです。だから俺が相談役をするよりも拓哉が適任だと思います」



 何を勘違いしたことを言ってるんだ。

俺がこんなに逃げたがっていることが、淳にはわからないのか。



「あら、そうだったの。じゃあ、沢村くん、中谷くんと席を変わって、峰岸さんの相談役をお願いね」



 なぜ……俺が優の相談役になるんだよ。

淳の奴、いらんことを……



「拓哉、やったじゃん。うまくやれよ」



 淳はニヤニヤと微笑んで、親指をあげてサムズアップする。

この野郎……後で絶対に仕返ししてやる。



「ヤッター! たっくんが隣だ! 茉奈先生ありがとうー」



 優が嬉しそうに俺の首から手を離して、立ち上がって茉奈先生に頭を下げる。

淳は立ち上がると俺の隣へ来て、俺の腕をツンツンと突っつく。



「やったな! 拓哉!」



 淳には幼稚園の頃の話をしていない。

だから淳が幼稚園からの出来事は知らない。

親友だからといって、言えることと、言えないことがある。


 俺は立ち上がり、淳と席を交換した。

すると優が自分の席を俺の席を隣へと移動させる。

そして茉奈先生に向けて手を挙げる。



「茉奈先生……教科書持ってくるの忘れました!」


「あら、そうなの。じゃあ、沢村君、峰岸さんに教科書を見せてあげてね」


「よろしくね。『小さいたっくん』」



 そう言って、優が俺の左腕に手を回して、身体を寄せてくる。

俺の腕に柔らかい胸が当たる。

それはとても柔らかくて、弾力のあるものだった。

優は満面に笑みを浮かべて嬉しそうに俺に微笑んだ。


 こんなことで俺は騙されないぞ。



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