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29話 ハイキングコース

 登山といってもハイキングコースと書いてあるだけに、少し緩い丘を登るだけだと思っていた。

しかし、現実にハイキングコースを目の前にすると、それが間違った認識だとわかる。

目の前には大きな山があり、その山を登っていくのがハイキングコースだ。



「へえ……本当に山を登るんだ……」


「たっくん……山の上に登ったらスマホのカメラで写真撮影だね」



 優は嬉しそうな顔をしてハシャイでハイキングコースを登っていく。

夏希と美緒は体力に自信がないらしく、少し落ち込んだ顔をする。


 道端に落ちていた2本の枝を拾って、2人に杖代わりに渡す。

夏希が額から汗を流して微笑む。



「杖を持ったら、さっきよりも少しだけ歩くのがマシになった。ありがとう」



 美緒と夏希は歩調を合わせて、ゆっくりと登っている。


 その後ろに淳とエロ博士が昇ってくる。

淳はこれぐらいのハイキングコースは平気だろうが、エロ博士のことを気にして一緒に歩いている。

エロ博士の体は小太りで、登山には向いていない。

普段から運動をしていないこともあり、歩みが遅い。



「しっかりしろ博士。これぐらいのハイキングコースぐらい頑張れ」


「私の体の構造は、登山にはむいていないのですな」


「そんなことを言ってる場合か。頑張って頂上へ着かないと、昼食が食べられないぞ」


「それはいけません。なるべく早く参りましょう」



 淳の言葉に反応して、エロ博士は少しだけ足を速めるが、すぐに体力切れで、ハァハァと息を荒くしている。


 その後ろから引率の茉奈先生達も登ってきているから、そのまま放置しておいてもいいだろう。


 俺はなるべく夏希と美緒の近くを歩くようにして見守る。

先を歩いていた、優がハシャギながら戻ってくる。

とても元気だ。



「たっくん……もう少し上に湧き水が壁から出てたよ。あれって飲めるのかな? きれいな水だったし飲めるよね」


「それはわからない。ありま変な水を飲むとお腹を壊すぞ。やめておいたほうがいいと思う」


「飲んでみたけど美味しかったよ」



 ……もう湧き水を飲んだ後か。

美味しいと言っているのだから、大丈夫なのだろうか。

こんな時、どうすればいいんだろう。



「なるべく飲むな。水分を補給しすぎると体力の減る原因になる」


「はーい。美緒と夏希にも飲ませたいなー」



 笑顔で友人達にも水を分けたいという。



「水筒に水が入っているだろう。美緒と夏希は水筒の水で我慢してもらおう」



 優は元気そうにしているが、湧き水を飲んでいいという許可を教師からもらっていない。

だから夏希と美緒には勧めないことにした。



「あ……」



 後ろから声が聞こえてきて、振り返ると、美緒が倒れている。

倒れている美緒の足首に触ってみると、少し痛い表情をする。

捻挫でもしたようだ。

このままだと、山頂まで歩いていくことは無理だろう。



「大丈夫……少し足を捻っただけだから……」



 気丈にも美緒はそうっ言って立ち上がり、片足を引きずって歩き始める。

しかしよろよろと危なっかしい。



「俺の肩に捕まれ。俺を支えにして歩けば少しはマシなはずだ」



 美緒は俺の顔を見て、顔を真っ赤に染める。

恥ずかしがっている場合じゃない。

これ以上、怪我が増えれば、困るのは美緒だ。


 強引に美緒の手を取って、肩に担いで、美緒を体を支える。

これで痛めたほうの足への比重は軽くなったはずだ。



「……ありがとう。拓哉……少し歩きやすくなった」



 そう言って、美緒は俺と肩を組んで歩いていく。

するとハイキングコースの上から戻ってきた優が頬を膨らましている。



「なんで美緒をたっくんがイチャついてるわけ?」


「イチャついてるんじゃない。美緒が怪我したんだ。だから俺が支えているだけだ」


「そっかーそういう手があったんだ。私も怪我すれば良かったなー」



 バカなことを言うんじゃない。

美緒1人だけを支えているだけでも大変なのに、優に怪我でもされたら大変だ。



「優……知ってて怪我するなよ。これ以上は俺も支えられないからな」


「わかってるわよ……美緒は私の親友だもん。親友とたっくんが仲良くしててもヤキモチなんて焼かないわよ」



 そう言って優はにっこりと笑う。



「たっくん……美緒のことお願いね」


「ああ……このままゆっくり進めば山頂には到着できるだろう」



 後ろを見ると、エロ博士がハイキングコースの真ん中に座り込んでいる。

疲れがピークに達したようだ。

普段にからダイエットをしておけばよかったのに……

小太りな体型が仇となった。


 淳が必死にエロ博士の体を持ち上げようとしているが、体重が重くて持ち上がらない。



「淳……博士のことは後から来る先生達に任せよう。淳まで体力がなくなってしまう」


「なんと……それでは私を置いていくということですかな……仕方ありますまい……私は茉奈先生と一緒に参りましょう」



 その言葉を聞いて俺は淳と顔を見合わせる。

エロ博士の奴、最初から茉奈先生狙いだったな。

茉奈先生が登ってくるまでの間、座って体力を温存しておくつもりなのだろう。



「淳……博士は放っておいて、夏希のサポートについてあげてくれ。俺は美緒を支えていくから」


「わかった……夏希、荷物を俺に貸せ。少しでも軽いほうが歩きやすいだろう」



 淳は夏希から荷物を取り上げる。

夏希はそんな淳を見て、嬉しそうに微笑んでいる。



「ありがとう淳……さすが男子ね」



 ずいぶん前の方まで歩いていた、優がまた俺達のところまで戻ってくる。

そして、俺達を見てニッコリとを笑う。



「もうすぐ山頂だよ。もう少しだから頑張って」


「優は山頂で皆が休める場所を確保しておいてくれ」


「はーい。山頂に着いたら、皆で昼食を食べようね」


「……ああ」



 そう言って優は山頂まで走っていった。

とても楽しそうだ。

優の体力は皆よりも相当に高いように思える。

前を行ったり来たりしても全く疲れた様子もない。



「美緒……後少しだ……頑張れ」


「ありがとう拓哉……」



 後ろを振り返ると、淳が杖をついて、夏希を支えている。

夏希の顔が何だかピンク色に染まっている。


 エロ博士の姿はもう見えない。

後方の先生達の合流していればいいんだけどな……


 山頂に着くと、そこは展望台になっていた。

展望台を囲むように芝生の公園になっている。

皆で芝生の上に座って、疲れを取る。


 芝生の公園の中央に小さな建物があり、そこで昼食のお弁当を配っている。

優は人数分のお弁当を取ってきてくれて、みんなに配る。



「優……ありがとうな」


「大丈夫だよ……この中で体力が余ってるのは私だけだし……任せて」



 皆で芝生に座ったまま、弁当箱を開いて昼食を食べる。

ハイキングコースは幅3mほどあり、軽自動車なら登ってくることができる。

昼食のお弁当も軽自動車で運んできてくれたのだろう。



「空気も美味しいし、お弁当も美味し……登ってきて良かったわ」



 夏希は嬉しそうに微笑む。

美緒も嬉しそうに頷いている。


 するとハイキングコースを軽自動車が登ってきた。

軽自動車の中には茉奈先生と博士が乗っている。

2人とも途中でリタイヤしたらしい。


 お弁当を食べて、展望台に登って、皆で撮影会を始める。

皆、それぞれに嬉しそうだ。

優はハシャギながらカメラのシャッターを押しまくる。


 展望台での撮影会には、ちゃっかりエロ博士も一緒に参加していた。

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