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25話 拓哉の葛藤

 いつもの帰り道。

今日は淳も夏希も美緒もいない。

3人は揃って用事があるという。

夏希が気を利かせて、俺と優を2人だけにしたのだろう。


 優と2人だけの帰り道。

嬉しそうに優は俺に寄り添ってくる。


 俺は優にきかねばならないことがある。

それは俺のトラウマに拘わる問題だ。



「優……幼稚園の時、俺としか遊ばなかったじゃん。なぜなんだ?」



 不思議な顔をして優が俺の顔をキョトンと見る。



「それは優ちゃんが好きだったからよ」



 これは想定通りの答えだ。

問題は次……



「小学校の時さ……虐めっ子から俺を守ってくれてたじゃん。それは嬉しかったけどなぜだ?」


「だって……たっくんと遊んでいいのは優だけなのに、たっくんを虐めて遊ぶなんて許せないじゃん」


「助けてくれたのはありがたいが、その後に優は俺をからかったり、虐めてたりしていただろう。それは何故なんだ?」


「それはたっくんが私を無視するからじゃん。私はたっくんと遊びたいのに、たっくんは私を見ると逃げようとするんだよ。だから追いかけてお仕置きしてたんじゃん。私から離れないようにしようと思って」



 その言葉を聞いて俺の体が震える。

夏希の言ったとおりだ。

ということは……今でも優は俺のことを好きなんだろうか。



「優……真剣に聞くがお前は俺のことをどう思っているだ? お前の本心が聞きたい」



 俺が真剣な顔でそういうと、優は顔を真っ赤にして、俯いて体をモジモジとさせている。



「しゅき……大しゅき……将来のお婿さんだもん。今でも幼稚園と時の約束を私は覚えてる」



 何ということでしょう。

優は俺のことを本気で好きだったのか……

それも将来のお婿さん。


 既にファーストキスもしている。

毎日のようにキスもしている……

俺に逃げ場なんてないじゃないか。



「俺は優が冗談を言ってると思ってたよ。いくら何でも幼稚園の時のことなんて覚えてないって思うじゃん」


「私……中学になって、たっくんが何を言わずに転校した時、泣いたんだから。運命の人じゃなかったって……でも転校した高校にたっくんがいた……これは運命の神様が会わせてくれたのよ」



それを運命の悪戯とは思わなかったのか……



「本気で俺のことが好きなの?」


「大……大しゅき……大大しゅき……キャー……恥ずかしい」



 これは困った。

優はマジで俺に惚れているようだ。

既成事実はできてしまっている。

もう後戻りはできないのか……



「何かの勘違いということはないか? やっぱり高校になってから違う男子がいいなって思ったことはないか?」


「バカにしないでよ。私は幼稚園の時から、たっくん一筋なんだから」



 夏希が言っていた通りだ。

幼稚園と小学生の優の行動によって、俺はトラウマを持っていたのに。

優は全くそのことを知らずに、俺を追いかけていた。


 寄り添って歩いていた足を止めて、優が顔を近づけてくる。

目がウルウルと潤んで、グロスを塗った唇が色っぽい。



「たっくん……返事は待ってるから……絶対に私を悲しませないでね」



 俺に選択肢はありませんよね。

優が転校してきたから、優との距離を縮めすぎた。

これは何を言い訳しても通じないレベルだ。


 いつの間にか俺と優はマンションの1階まで帰ってきていた。

俺は頭の中が混乱していて、あまり周囲を見ていなかったようだ。

優がマンションまで誘導してくれたんだろう。


 1階のエレベーターに乗るが、優はボタンを押さずに、俺の胸に飛び込んでくる。

そして一瞬の隙をついて、俺の唇に自分の唇を重ねる。

頭が真っ白になる。

マシュマロのような、柔らかい感触が唇から全身に伝わってくる。



「大しゅき……たっくん。愛してる。返事待ってるから」



 そういうと3階でエレベーターは止まっており、優は顔を赤くしたまま去っていった。


 何?

もう返事をしなければいけないのか。

俺が今日、優に質問したことで、タイムリミットが縮まったような気がする。

これはなんとかしないとマズイ。


 友達というと優は悲しむに決まっている。

女子の夏希や美緒達の怒った顔も目に浮かぶ。


 優を受け入れる……本当に受け入れて大丈夫なのか?

俺は猛獣の調教師ではない。

優は今は美少女の女子高生だが……怒り出すと俺よりも怖い。

俺は上手く優と付き合っていけるのだろうか。


 気がつくとエレベーターが5階に着いていて、俺は自宅の前にいた。

そして玄関からダイニングの中へと入る。

ダイニングテーブルの椅子には、優が使うエプロンがかけられていた。


 優が夕飯を作ってくれるようになってからカップ麺、コンビニ弁当生活は卒業している。

今では優の絶品料理に舌が慣れてしまっている。


 いつの間にか、俺の胃袋は優の料理を欲するようになっていた。

完全に胃袋を掴まれている。


 優がいないと、家の掃除、洗濯、家事の全てが止まってしまう。

全て優に依存していたことに気づく。


 俺は一体どうしてしまったんだ。

優が転校してきてから、優に世話にばかりなってたんだな。


 そして勉強の後のキス……

これは決定的だ。


 俺は心を開いて、優を受けいれることができるだろうか。

今となってはできる、できないではない。

心を開けて、優を受け入れるしかない状況になっている。


 後は俺が優のことを好きなのかどうか……

今まで優のことを美少女と思ってきたが、猛獣とも思ってきた。

俺は優のことを本当はどう思っているのだろう。


 自分の部屋へ戻って、ベッドの上に寝そべって、天井を見上げる。

後は俺の心ひとつで決まる。

俺は優をどう思っているのだろう。

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