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24話 夏希に相談

 中間考査のテストが始まった。

俺は机の上にある問題用紙に向むかう。

そしてこの1週間の成果を出すように答案用紙に答えを書き込んでいく。


 この1週間、猛烈に勉強したのは覚えている。

優の勉強の教え方も丁寧で親切で覚えやすかった。

そして勉強が終わった後のマシュマロのような柔らかい感触。

漂ってくる甘くて良い香り。

潤んだ瞳が……


 いかんいかん……テストに集中しろ。

優とのことは今は考えてはならない。

覚えていたモノが全て頭から飛んでいきそうだ。

今はテストの集中するんだ……


 やっと中間考査のテストが終わった頃には俺は燃え尽きていた。

真白になっちまったぜ……

頭の中では優が両手を広げて、俺を迎えてくれる。

これは夢だ。

幻だ。

段々と優に心を侵食されているのがわかる。


 思い出せ拓哉。

あの幼稚園の日々を

思い出せ、あの小学校の時の日々を


 相手は凶暴な野獣。

甘い汁を飲ませておいて、後から俺を罠にハメるつもりかもしれない。

警戒警報MAXだ……



「中間考査のテスト終わちゃったね……優との約束もこれで終わりなの……優は少し寂しいな」



 そう言って、優は俺に体を寄り添わせて、間近で目をウルウルと潤ませる。

ホワッとした柔らかい唇が俺の視線を釘付けにする。

優とキスをすると気持ちが良くて、頭の中が真っ白になる。

この1週間によって、俺の意思とは関係なく、俺は優とキスしたくなる体に染まってしまった。


 このままではイカン。

優中毒になってからボロ雑巾のように捨てられるに決まっている。

そして優は高笑いを浮かべて、俺を見下すのだ。



「たっくん……これかも時々、勉強教えてあげてもいいかな?」


「お……おう……俺は勉強はあまり成績が良くないからな。優が教えてくれるなら助かる」


「キャー! ヤッター! たっくんにまたご褒美をもらえるんだー!」



 何?

勉強を教えてもらう度にキスしないといけないのか……

これでは俺が優中毒になってしまう。

どうにかしないと精神衛生上、非常に悪い。


 テストを終えてフラフラと歩いていると服の袖を引っ張られた。

振り向くと夏希が優しくニッコリと微笑んでいる。

とても優しい笑顔が似合う女子だ。



「どうしたの? 中間考査のテストも終わったのに、そんなに暗い顔をして……」



 夏希はクラスでお姉さん的存在の女子だ。

信用もおける。

夏希に相談したほうがいいのか……



『え……優と毎晩のようにキスしてたの。拓哉なんて不潔よ』



 こんな感じで言われたら、俺の心は砕けてしまう。

これは相談しないほうがいいのだろうか。

しかし、誰かに相談したほうがいいだろう。



「夏希……相談したいことがあるんだけど……聞いた後に俺のことを嫌わないか?」


「私に嫌われるようなことを拓哉はしているの? 是非ともその点を聞きたいわ」



 しまった。

質問の持っていき方を間違えた。

これだともう後戻りができない。

夏希はニッコリと微笑んでいるが、瞳の奥が笑っていない。

そして俺の袖をギュッとつかんで離す気もないようだ。

これは捕まってしまった。



「拓哉……1人で抱え込んでいても体によくないわよ。私に相談して、スッキリしなさい」


「はい……相談させていただきます」



 俺は中間考査のテスト1週間前から優に勉強を教えてもらっていたことを素直に白状する。

そして勉強が終わると、優とキスしていたことも素直に白状した。

そしてキスの感触が忘れられなくて困っていると頭を抱える。


 それを聞いた夏希はクスクスと笑っている。



「拓哉はいつも優に振り回されて大変ね……それじゃあ、テスト勉強の内容を忘れちゃうでしょう」



 実際、キスの感触のほうを覚えていて、テスト勉強の内容はうろ覚えとなっている。

今回の中間考査のテストも飛躍的に点数が上昇したとは思えない。

テスト中も優とのキスが頭から離れなかったからだ。



「だから、このテストが終わるまで優はあんなに嬉しそうだったのね……これで辻褄が合ったわ」



 最近の優はキラキラと輝いていて色っぽく見える。

俺の目の錯覚ではなかったようだ。



「拓哉は優のことをどう思ってるの?」


「猛獣」


「猛獣?」


「夏希達に話していなかったが、俺は幼稚園と小学校の時に優に弄ばれ、からかわれ続けてきた。それがトラウマになって女子が苦手になったんだ」



 夏希はそれを聞いてクスクスを微笑んでいる。

そして優しい瞳で俺を見つめてくる。



「よほど拓哉のことがお気に入りだったのね。好きな子を虐めたい衝動って誰にでもあるでしょう。優もそれよ。幼稚園の時から拓哉のことを独り占めしたかったのよ」



 確かに他の男子達から虐められていた時は助けてくれた。

優がガキ大将だったから他の男子達からは虐められなかった。

俺は優だけの玩具になっていた……


 それは優の俺に対する愛情だというのか……

俺は稲妻に打たれたように全身を固まらせて、何も言うことができない。

そんなことを考えてもみなかった。

優から逃げることで必死だった。



「優は小さい頃から拓哉一筋なのね。これで優の行動も納得できるわ。愛されているわね拓哉」



 何?

俺が優に愛されている……

それじゃあ、テストが終わった後のキスも、優は本気だったのか?

俺のことが好きって、優はいつも言ってるけど、それは本気なのか?



「夏希に聞きたい。それじゃあ、優は本気で俺に惚れているということか?」


「あれだけ迫られているのに、自覚がないの? 拓哉って鈍いの?」



 俺って鈍い……

夏希の言葉が俺の心の突き刺さる。



「優が本気だとして……俺はどうすればいいんだ? どこかへ逃げたほうがいいのか?」


「どうして拓哉は優から逃げようとするかな?」



 それは相手は獰猛な野生動物だからだ。

逃げなければ俺がハントされる。



「もう少し、大きな視野を持って、優を受け入れてあげたら。優は本気なんだし」



 優は俺に本気……優は俺に本気……優は俺に本気……

あの甘いキスは本気のキス……


 夏希は少し真剣な顔になって俺を見つめる。



「キスの責任は取ってあげてよね……拓哉は優のファーストキスも奪ってるんだから」



 ファーストキスを奪われたのは俺なんですけど……

そんな言い訳が通じるはずないよな。

ファーストキスの責任か……

どうやって責任を取ればいいのだろう。

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