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20話 ファーストキス

 東郷と喧嘩をした次の日、東郷に殴られた痕が腫れあがっていたので学校を休もうとしていると、インターホンの音が鳴った。

今日は優も休むだろうと思っていた。

昨日、あれだけの目にあったのだ。

少しは心に傷が残っているだろうと思っていた。

しかし、玄関を開けると優が制服姿で立っていた。



「おっはよー。 たっくん、顔が腫れあがって、面白い顔になってるよ」


「お前こそ……制服破られていたはずなのに……その制服はどうした?」


「予備の買っておいた制服だよ。早く学校へ行こう……たっくん」


「ああ……今から用意するから、家に入れよ」


「お邪魔しまーす」



 いつも元気な優だが、今日はいつも以上に元気がいいな。

昨日のことも心の傷になっていなそうだ……よかった。

それにしても、この腫れあがった顔で学校へ行けというのか……


 優はダイニングのキッチンへ行って、コーヒーをいれて、椅子に座って、俺のことを待っている。

俺は脱衣所で着ていた服を脱いで、シャワーを浴びる。

そして、バスタオルで頭を拭いて、服を着なおして自分の部屋へ戻る。

その間に優は食パンを焼いてくれて、目玉焼きを作っていてくれた。


 自分の部屋に戻って、制服に着替えてダイニングへ行く。

ダイニングテーブルの椅子に座って、優がニコニコと笑顔で俺を待っている。

椅子に座るとコーヒをいれてくれた。



「パンと目玉焼き、ありがとうな」


「これぐらいは簡単よ。お礼なんて言わなくていいし」



 食パンの上に目玉焼きを乗せて、食パンにかじりつく

優が転校してきてから、そういえば毎日、朝食まで食べさせてもらっている。

優が起こしにくるから、学校をサボることもできない。

ずいぶんと優に世話になっているな……


 優が少し笑顔をなくして真剣な顔をして頭を下げる。



「昨日は私を助けにきてくれてありがとう」


「ああ……友達が大変になったら助けるのは当たり前だろう」



 そう……優は友達。

友達があんな目に遭わされたら助けるのは当たり前だ。

それよりもおかしい……あれだけ喧嘩が強い優がなぜ捕まったのだろう?



「優……聞いてもいいか? なぜ捕まっていたんだ?」


「美奈穂を人質に取られてた……美奈穂があいつ等とグルだって知らなかったの」



 そういうことか……美奈穂の演技に騙されていたのか。

それならば、捕まるのも仕方がない。

美奈穂のことはもういい……あいつは友達じゃない。



「まだ東郷が優に手を出そうをしていなくて良かった。本当に間に合って良かったよ」


「たっくん……ありがとうね……私本当は怖くて怖くて、いつ体を弄ばれるか怖かった」



 そう言って、優は大粒の涙をこぼして泣き始めた。

涙が頬を伝って、制服のブレザーを濡らす。

椅子から立ち上がるとテーブルを回って、俺の隣まで歩いてくる。

そして両腕で俺の頭を包み込むように抱きしめてきた。



「たっくん……助けに来てくれてありがとう……怖かった……怖かったよー……」


「ああ……もう大丈夫だ……もう大丈夫……」



 俺は優の細い腰を両手でギュッと抱きしめる。

優の体が震えている。

やっぱり怖かったのか……あれだけの目にあったのだから当たり前だよな。

優が喧嘩に強くても、心が普通の女子よりも強いはずはない。

ゆっくりと優しく優の髪をなでて落ち着かせる。



「たっくんが助けに来てくれて、意識を取り戻した時、本当は泣きたいほど嬉しかったし、安心した」


「……」



 優が俺の頭から手を離して、少ししゃがんで俺の首に手を回して抱き着いてくる。

俺も優の背中に手を回して抱き留める。

すると俺の唇にフワッとした柔らかいモノが押し当てられる。

目をつむった優の顔が間近にある。

これは俺達、キスをしてるんじゃないか?

一瞬……時間が止まる。


 顔を離した優が優しい眼差しで俺を見ていた。

しかし口元は嬉しそうに笑んでいる。



「お礼……私のファーストキス……たっくんとキスー……キャー……嬉しい」



 俺のファーストキス……優に奪われた……

胸の鼓動が激しくドキドキする……優の顔をまともに見ることができない。

しかし、もう少しムードのある場所で、ファーストキスはしたかった。



「たっくんとファーストキスできたから、私元気になれる。私頑張れる」



 優……急に元気になってないか?

元気になったのなら……これで良かったのかもしれない。



「たっくんとファーストキス……たっくんとファーストキス……たっくんとファーストキス……」


「歌うな!」


「たっくん学校へ行く時間だよ。早く一緒に行こう」


「ああ……部屋にある鞄を取ってくる」



 自分の部屋へ鞄を取りに行き、2人で玄関どドアにカギをかけて外へ出る。

空を見上げると青空に大きな雲が1つだけ、ゆっくりと流れていた。

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