18話 倉庫跡地での決闘①
東郷に会ってから1週間が過ぎた。
あれからチャラ男達はピタリと優に手出しをするのをやめた。
そして俺にも因縁をかけてくることはなかった。
しかしチャラ男達は集団になるとしつこい。
まだ警戒しているほうがいいだろう。
放課後になり、勉強道具を鞄に詰め、帰り支度をすませた俺は、優の姿を探す。
いつも俺の傍を離れない優の姿がどこにも見当たらない。
「トイレにでもいったのか?」
別にトイレぐらいは声をかけ合ってなんてしていない。
もう少し、優を待ってみよう。
15分ほど待ってもまだ優が帰ってこない。
これは変だ。
俺は淳。夏希、美緒に声をかけ、優を探してもらうことにする。
3人はバラバラに散らばって優を探しに行ってくれた。
そして夏希が顔を青ざめて、封筒を手にもって戻ってくる。
嫌な予感がする。
「拓哉の靴箱の中に1枚封筒があったの。嫌な予感がしたから持ってきたわ」
急いで封筒を破って、中の手紙を取り出して内容を確かめる。
『優と美奈穂は預かった。
大人しく指示に従え。
まだ2人には手を出していないが、
遅ければ2人ともどうなるかわかっているな。
学校の近くにある倉庫跡地までお前1人で来い』
淳は手紙の内容を見て焦っている。
美緒と夏希は目から涙を流している。
「淳、悪いけど、この手紙を翼の元へ持って行ってくれないか。力になってくれるはずだ」
「私達はどうすればいいの? 優が大変なんでしょう。私達も役に立ちたい」
夏希が大きな声で叫ぶ。
後ろで美緒が頷いている。
「悪いが何もしないでくれ。家で俺達からの連絡を待っていてくれ。お前達まで一緒に来たら、人質に取られる可能性がある。ここは俺を信じてくれ。優と美奈穂は必ず俺が無事に連れて帰るから」
「でも……拓哉1人だと危なくない? 大丈夫なの?」
「だから淳に手紙を預けるんだ。翼なら来てくれるはずだ」
「わかったわ。家で待ってるから、必ず連絡をちょうだいね」
「俺は翼に手紙を渡して、翼と一緒に行くからな。喧嘩は強くないけどさ」
淳はそう言って空手部のほうへと走っていった。
チャラ男達は複数人いるだろう。
1対1なら負ける気はないが複数人相手だと、ヤバいかもしれない。
しかし、優と美奈穂を助けるためには1人で行くしかない。
俺は鞄を持って、夏希と美緒を一緒に校門を出て、指定されている倉庫跡地に向かう。
昔は大企業の貨物倉庫だったが、今では廃墟になっている場所だ。
この辺りの高校生なら誰でも知っている。
しかし誰も近寄らない場所だ。
俺の鞄は夏希に持って帰ってもらった。
これから喧嘩をするかもしれないのに鞄は邪魔だ。
いつかチャラ男達が動き出すとは思っていた。
高校内では先生達の目もあって、チャラ男達も思うように優に手を出せない。
だから連れ出したのだろう。
しかし、おかしい……
優がチャラ男達の後ろを簡単について行くはずがない。
まずは美奈穂を人質に取って、優に言うことをきかせたのだろう。
チャラ男達も馬鹿ではない。
すぐに無茶なことはしないはずだ。
倉庫跡地へ歩いていくと、1つの倉庫の扉が開いていた。
倉庫の中へ入っていくと、東郷聡がドラム缶の上に座っている。
そして、優は座れないように手首を縛られ、縄で吊るされていた。
上半身のシャツは剥ぎ取られ、ブラジャー1枚の姿になっている。
ミニスカートは何か刃物で切られ、スリットのようになっていた。
意識は失っているようだ。
東郷は俺の顔を見てニヤリと笑みを深める。
そして周りにいたチャラ男達も大声で笑いだす。
「やっぱり来たか……お前なら来ると思ってたぜ」
「期待通りってわけだな」
「あの転校生は暴れたから、少しだけお仕置きをしただけだ。まだ体には触れていない」
「優のことは見ればわかる。美奈穂は大丈夫なのか?」
東郷は美奈穂の名前を聞いて腹を抱えて大声で笑う。
「お前もお人好しだよな。美奈穂が転校生を連れてきたんだぜ。美奈穂は俺達の協力者ってわけだ」
東郷の後ろから美奈穂が姿を現す。
美奈穂が暗い目をして、薄ら笑いを浮かべている。
「なぜ優を騙した。優はお前の友達だっただろう」
「こうでもしないと、いつか優が淳を取っちゃうから。私……淳のことが好きなの。誰にも渡したくないの。だから、こいつらに協力することに決めたの。優が邪魔だった。優がきれいだから」
優はここに連れてこられるまで、美奈穂のことを友達だと思っていただろう。
だから、美奈穂を助けるために自分から捕まったのに……
「俺達はお前への手紙を書いて封筒へ入れただけさ。転校生は自分から、この倉庫に1人で乗り込んできたというわけさ……笑えるだろう」
優の気持ちを考えると全然笑えない。
最悪の裏切りだ。
「俺達はお前をボコれれば良かったのさ。後は俺が転校生を口説くだけでいい。これほどの超美人だ。絶対に俺のモノにしてみせる。お前は転校生の前で無様に倒れてろ」
「ふざけんな。優は俺の彼女じゃねーけどさ、絶対に優は渡さねー」
「お前等、こいつと遊んでやれ」
チャラ男達が一斉に飛びかかって来る。
俺は一人の腕をつかんで、足を引っかけて、相手の体を倒すようにして体を回転させて振り回す。
飛びつこうとしていた、チャラ男達が後退する。
そのまま1人を投げ飛ばした。
チャラ男達が3人1組になって俺に向かってくる。
俺対策はできているようだ。
下半身から全身に捻りを加え、それを解放するように正拳を突き出して1人を倒す。
その間に2人が俺の顔と腹に拳を入れる。
しかし、力が乗っていないので、さほど深く拳はめり込まない。
俺は次の相手に正拳突きを放つ。
正拳突きをもらった相手は吹き飛ばされて倒れるが、もう1人がドロップキックの要領で全身でキックしてくる。
それを右手で受け止めるが勢いを殺すことができずに、俺も相手と一緒に床に転がる。
俺が床に転がった所をチャラ男達が顔面めがけて蹴りを入れてくる。
腕で防御するしかない。
時には鳩尾を狙って蹴りが入ってくる。
それを肘で防ぐ。
チャラ男達に蹴り回され、防戦一方で立ち上がることもできない。
「何だ? 拓哉、空手を辞めて体が鈍ってんのか。その程度なら簡単に立ち上がれるだろうが」
翼の声が倉庫内から聞こえた。