16話 拓哉の部屋の大掃除
夏希と別れて、優と2人でマンションに到着する。
優は3階で手を振って降りていった。
今回はやけに素直に家に戻っていくな。
俺は5階で降りて、自分の家の鍵を開けて玄関で靴を脱ぐ。
朝、優がゴミを片付けてくれているので、ダイニングが通りやすい。
そして自分の部屋へ入って制服を普段着のスウェットの上下に着替える。
そして、そのままベッドに倒れ込む。
先ほどの校門での一件を思い出してしまった。
あれほど自分が短気になるとは思ってもみなかった。
最近、優が転校してきてから調子が狂う。
自分でも柄にもないことをしている自覚はある。
何をムキになっているんだろうか。
今まではチャラ男達と事を構えることなんてなかったのに……
転校生は目立つ。
その転校生が金髪美少女ギャルなら、チャラ男達が声をかけてくるのは当たり前だ。
それを避けて通ることはできない。
優が普通の女子だったら目立たなかったのに……
俺の知らない中学の間に、あんな超美少女に変化するなんて。
幼馴染の俺が守ってやるしか、仕方がないじゃないか。
転校生の優にはまだ知り合いが少ないんだから。
優……立派な胸になったよな……
スタイルも抜群になって……
近くにいると良い香りがして……
本当にあれは俺の幼馴染の優なのだろうか。
しかし気の強い面や無鉄砲、無邪気な性格は変わっていないなー。
無邪気で明るくて元気の良い優……
小学校の時は散々からかわれたけど、憎めなかった。
ただ女子が苦手にはなったが……
ピンポーンとインターホンの音が鳴る。
俺はのっそりとベッドから立ち上がって、玄関のドアを開ける。
すると私服に着替えた優が立っていた。
そのまま玄関を閉めようとすると、優の左足が挟まってドアを閉めることができない。
俺は諦めてドアを開けて、優を玄関の中へ入れる。
玄関で靴を脱いだ優は、エプロンを着て、髪をポニーテールに結う。
「今日はたっくんの部屋の掃除をするからね」
「えー! ちょっと待ってくれ。今、良い感じの部屋になってるんだ」
「何を言ってるの。部屋は片付けて使うものです」
肩に手を置いて、優を止めようとするが、それを無視して、一直線に俺の部屋へと入っていく。
「キャー! 汚い! 汚い! 汚い! 足の踏み場もないじゃない」
そうだろう1か月は掃除をした記憶がない。
部屋の中でカップ麺を食べたり、お菓子を食べたりしているから、食べカスもそのままだ。
優は手際よく、散らかっている本を1つの場所へと積んでいく。
そして、脱衣所からカゴを持ってきて、着替えてそのまま使わなくなった衣類をカゴの中へと放り込んでいく。
「キャ――! たっくんのパンツ!」
指で汚そうに摘まむな。
まだ1回しか履いていないはずだぞ。
優の顔が真っ赤に染まっている。しかしパンツから手を離すつもりはないらしい。
「どうして部屋のテーブルの上がカップ麺やコンビニ弁当のゴミで埋まってるのよ」
「ダイニングで食べるのが面倒だったから、部屋で食べただけだ」
「そんなお行儀の悪いことしちゃダメでしょ。食べ物はダイニングテーブルで食べなさい」
優に怒られてしまった。
お前は俺の母親か!
俺には母親はいないから親父か!
洗濯機が全力で駆動している。
洗濯機を動かしたのは確か1か月前だな。
優がダイニングに置いてあった掃除機を持ってきて、掃除機を駆け始めた。
俺は自分のベッドへ避難する。
ベッドの下まで掃除機をかけていく。
あ……掃除機が止まった。
掃除機の先が詰まったようだ。
優が掃除機の先にあるものを手で取ると、18禁のアダルト写真集だった。
優はそれを手に取り、熱心にページをめくっていく。
「キャ――! たっくんのエッチ! こんな本はポイよ。私という者がいるのに! 不潔!」
それは俺がお宝にしていた本じゃないか。
ああ……目の前でゴミ袋の中へ入れられていく。
部屋を掃除機で一周すると、優は俺に向かって、豊かに育った胸を突き付ける。
「これからベッドの布団を干すから、たっくん邪魔!」
とうとう部屋から追い出された。
俺はダイニングテーブルの椅子に座って様子を見る。
布団を無事にベランダに干せたようだ。
そういえば、ベッドの下にアダルト本を隠していたんだった。
「キャ――! エッチな本がこんなにいっぱい! 全部ポイ! 全部ポイ!」
ああ……俺の大事なコレクションが全てゴミとして捨てられていく。
俺は優が掃除している間に、こっそりコレクションを取り返そうと自分の部屋へ戻る。
すると顔を真っ赤にした優が目を吊り上げている。
「何をしにきたの? この部屋は掃除中。邪魔なたっくんはダイニングで座っていなさい」
「……はい」
掃除をしている時の女性は怖い。
目が本気だ。
冗談が通じるように思えない。
俺の部屋からゴミ袋3袋分のゴミが出てきた。
優はダイニングのゴミ袋と一緒に、俺の部屋のゴミ袋を置く。
合計で6個のゴミ袋がパンパンになっている。
そして優は使い古されたタオルを持って洗面所へ行き、タオルを水で濡らして、絞って部屋へ持っていく。
何をしているのだろうと思って、覗いてみると、机の上からタンスの上、床まで拭き掃除をしている。
ミニスカートを履いたまま床掃除をしているので、優のパンティが丸見えだ。
形の良いお尻がフリフリと動いている。
これは良いものを見せてもらった。
時々、掃除を手伝ってもらうのも悪くないかもしれない。
「たっくん。どこ見てるの? 私のパンティ見ないで。後ろから覗くのはナシだから」
また怒られてしまった。
しかし、可愛いお尻は俺の目に焼き付いた。
そして、俺の部屋の掃除を終えた優は、トイレ、風呂場へと掃除に向かっていく。
その度に悲鳴が聞こえてくる。
優がこんなにきれい好きだとは思っても見なかった。
少し見直した。
ギャルと言えば、汚い場所でも住んでいけるイメージがあったけど、優は違うらしい。
優が掃除を終わらせて、汗をタオルで拭っている。
「お疲れ様……優……ありがとうな」
「もう……たっくんを1人にしているとダメね。これからは毎日チェックしに来るから」
「毎日は大丈夫だろう。1週間に1回でいいと思う」
「ダメ! 部屋はすぐに散らかって、ゴミが散乱するに決まってる。これからは私が掃除をします」
優は大きな声で宣言する。
これは止まらない。止めても無駄だ。
ここは優の好意に甘えておこう。
「ありがとう……優。それじゃあ毎日の掃除は任せたよ」
「ヤッター! これで毎日、たっくんの家に来れる」
あ……優に毎日家に来る口実を与えてしまった。
優は嬉しそうにニッコリと微笑んでいる。
このことによって、これからは毎日、優は俺の家に来ることになった。
段々と優に上手く操られているように思うのは俺だけだろうか。