15話 チャラ男達のリーダー
放課後になり、優、美奈穂、夏希、淳、俺の5人で1階の靴箱に降りる。
優の靴箱にはいっぱいのラブレターが入っていた。
優はため息をつきながら、靴箱のラブレターをゴミ箱へと捨てる。
「ごめんなさいねー。私にはたっくんがいるから。たっくんがヤキモチ焼いちゃうから」
いつ俺がヤキモチを焼いた。
別にラブレターの相手に会いに行っても、俺は何も思わないぞ。
「たっくんって意外とヤキモチ屋さんだから、許してね」
だから……俺はヤキモチ屋ではない。
いつの間にそういう風に、優の頭の中で脳内変換されたんだ。
「モテるって大変だよね」
淳はそう言いながら、自分の靴箱の中に入っているラブレターを鞄の中に入れていく。
このイケメン男め。
大半の男子はラブレターなんてもらったことないんだよ。
淳の気持ちなど誰がわかるもんか。
夏希と美奈穂の靴箱にも数は少ないがラブレターが入っていた。
俺の靴箱の中は……0
世の中ってそんなもんさ。
夏希と美奈穂もモテるんだな。
夏希は男女平等に仲良い友達が多いし、夏希は皆から頼りにされるお姉さん的存在だ。
モテても当然だよな。
俺って……髪を切ったほうがいいのだろうか。
「たっくん。元気出して。ラブレターだけが人生じゃないよ」
そういう慰めは心にグサッと突き刺さるからやめて。
俺は胸に手を当てて、少しクラッとよろける。
すると優が腕を絡めて、寄り添って俺を支える。
「私はたっくん一筋だからね」
そう言って、俺に向けて花が咲いたような笑顔を見せる。
その笑顔を見ると何も言えなくなる。
校舎を出て校門へ向かうと、校門に黒い自動二輪車が止まっている。
その上に大柄な野性味のある男子が座っている。
高校1年までこの学校に通っていて、今年の3月に退学になった東郷聡だ。
高校に在学している時はチャラ男のトップに立っていた奴だ。
東郷の周りにチャラ男達が集まっている。
そして俺達が校門を通ると、優をみてニヤッと笑う。
「おい……ちょっと待て転校生。お前……きれいで可愛いな。俺の女になれよ。2人で楽しいことしようぜ」
「はあ? 何言っての? 顔見てから出直してきたほうがいいんじゃない! あんた女子にモテないでしょう。 あんたなんてウザいだけだから、早く消えて」
「ほう……チャラ男達が噂している通りの勝気な女だな。気に入った。お前を俺の女にしてみせる」
「うざいっつーの」
優は険しい顔をして聡の顔を見る。
聡は単車に座ったまま余裕の表情を見せている。
「チャラ男達から噂にきいてたけどよ……その気の強さ、本気で惚れちまいそうだぜ」
「どんな噂されてるのか知らないけど、チャラ男は大っ嫌い。別の場所で遊んでくれる。私に近寄るなっつーの」
「今度……俺と遊ぼうぜ」
優は嫌そうな顔をして、俺の背中に隠れる。
俺は前に出て、優を後ろに隠す。
「お前……誰よ……関係ねーなら、あっちへ行ってろ」
「俺は拓哉。本当ならお前と同級生だ。優は俺の友達なんだ。その優が嫌がってる。やめてくれないか?」
「お前に関係ないじゃん。ウザい奴だな」
「ウザいのはお前のほうだ。俺もチャラ男は好きじゃない。早くどこへでも消えろ」
するとチャラ男達が目をギラつかせて、俺達の周りを囲みはじめる。
優だけを助けるのは大丈夫だが、美奈穂と夏希が危ない。
それに淳は喧嘩が弱い。
喧嘩では淳は全くあてにできない。
「拓哉って言ったっけ。これだけの連中を相手にできんのかよ」
「友達がいなければ相手してやってもいいぞ。別に俺は喧嘩が弱いわけじゃない」
「強気な奴だ。俺は東郷聡だぞ。お前……俺のこと知らないのか?」
「お前のことは噂で知ってるさ。高校1年生で退学したチャラ男のリーダー」
退学という言葉を聞いて聡が険しい顔になる。
厳めしい顔がより一層キツクなる。
「俺に偉そうによく言ったな。拓哉だっけか……お前のことは覚えておく。お前は潰す」
「そうか……俺はいつでも相手になる。だから俺の友達に迷惑かけるな」
「そんなこと、お前に命令される必要なんてねーよ。俺は自分の自由にやらせてもらう」
聡が単車から降りて、俺に向かって歩いてくる。
校門の前で揉めていたら、先生達が見ていたら、飛んで騒ぎを止めにくるだろう。
それだけで美奈穂、夏希、淳、優は安全だ。
「チッ……ここは場所が悪い。また出直す。拓哉……お前の顔だけは覚えたからな」
「そうか……別に男子に顔を覚えてもらっても嬉しくないね」
聡は単車の位置まで戻って、単車に跨る。
そしてチャラ男達を見回す。
「お前等……場所を変えるぞ。校門の前にゾロゾロいて、また先公達がやって来たら、うるさい」
チャラ男達は拓哉達を囲むのを止めて、校門から去っていく。
「転校生……また会う時が楽しみだな。拓哉も覚えておけよ」
そう言って単車のエンジンをかけて、聡は去っていった。
聡が去ってすぐに淳が駆け寄ってくる。
「拓哉……お前……誰に喧嘩売ったかわかってるのか。この周辺のチャラ男達のリーダーだぞ」
「別に俺から喧嘩を売ったわけじゃねーよ。あいつが気に入らなかっただけだ」
「俺は喧嘩が弱いから、拓哉を助けてやることはできないぞ」
「それはわかってる」
淳は残念そうに唇を噛んでいる。
美奈穂と夏希が淳を慰める。
優は嬉しそうに俺の首に抱き着いてくる。
「たっくんに助けてもらっちゃった。嬉しいー! 愛されている証拠!」
「別に愛してねーし。優を助けたのは友達だからだ。勘違いするな」
「勘違いするもんね。全力で勘違いしますー」
そう言って優は俺にしがみついてくる。
俺も意外と短気になってしまった。
東郷聡か……いつかやり合うことになりそうだな。
それよりも皆の身の安全のほうが大切だ。
どうすれば全員の安全を確保できるだろうか……不可能に近い。
淳がポケットからスマホを取り出す。
「何かあった時に連絡が取れないとマズイ。皆でLINEアドレスを交換しよう。
それは名案だ。
何かあれば連絡がすぐに取れる。
俺は皆とLINEアドレスの交換を行った。
初めて女子のアドレスが俺のスマホに登録される。
優は俺とLINEアドレスを交換できたことが嬉しくてたまらないらしい。
「たっくん……嬉しい。これから毎日、たっくんへ連絡するからね」
そう言って優は俺の腕に自分の腕を絡ませて、寄り添って微笑んだ。