14話 美緒と拓哉
優との約束どおりに、すぐに学食から戻ってきた俺は夏希の席へと向かう。
夏希の席ではお弁当を食べ終わった夏希、優、美緒の3人が楽しそうに談笑していた。
「楽しそうだな……夏希、美緒、優のお守りをしてくれてありがとう」
美緒は俺の顔を見て、すぐに視線を逸らせる。
「あなたのためにしたのではありません。優が強引だから、一緒にいることになっただけです」
「だって美緒って、強引に誘わないと一緒に遊んでくれないんだもん」
「私は1人でいるのが好きなのです。好きで1人でいるのです」
まだ美緒は優に心を許していないようだ。
1人でいるほうが気楽、この点については俺も美緒と同意見だ。
「だって私、美緒のこと気に入ちゃったんだもん。必ず友達になるんだもん」
「優がしつこいことはわかっています……だから一緒にいるではありませんか」
美緒は美しい顔で優を見る。
優はそれだけで嬉しそうに、美緒の手を握って離さない。
「口では色々と言うけど、美緒って優しいから大好き」
「優……あなたという人はまったく……」
美緒は少し頬をピンク色にして困っていた。
その姿が非常に愛らしく、優が好きになった理由がわかる。
夏希はそんな2人を微笑ましく見守っている。
優は無邪気に美緒に答えた。
「私……きれいで可愛い女子って大好き。見ているだけで幸せになる。だから美緒と一緒にいると幸せ」
「な……何を言ってるんですか。私達女同士ですよ。変な言い方をするのは止めてください」
「全く変じゃないよ。美緒がモテるのわかる。美緒って魅力的だもの」
「わかりましたから……あまり恥ずかしいことを大声で言わないでください」
恥ずかしそうに美緒は体をモジモジとさせている。
優は手を離して、美緒に抱き着く。
美緒は諦めたように優に抱き着かれている。
夏希がクスクスと笑う。
「はいはい……これで美緒に抱き着くの何回目。もうそろそろ美緒を解放してあげたら」
「美緒が友達って認めてくれるまで嫌。絶対に友達になりたい」
「もう優と美緒は友達になってるわよ。一緒にお弁当を食べてるでしょ。それが証拠よ」
「仕方がありません……優を友達と認めてあげます。だから……抱き着かないで」
美少女同士が抱き着き合っている姿は画になるな。
いつまでも、この光景を見ていたい。
美緒が不思議そうに俺を見てくる。
そういえば2人のやり取りを聞いているうちに、無言で立ったままだった。
「俺の名前は拓哉。このクラスの男子だ……よろしく」
優が美緒から離れて、次に俺の腕にしがみつく。
「たっくんはね……私の彼氏なんだよー」
「優とは付き合った覚えはない。ただの幼馴染なだけだ。美緒が勘違いするだろう」
「家も近くてね……もうすぐ同棲状態よ」
「こら……美緒が勘違いするだろう。家が同じマンションなだけだ」
美緒は優と俺を目で追って、俺に同情した視線を送ってくる。
「拓哉も大変なのですね……少し拓哉に同情します」
おお……美少女からの好感度アップは嬉しいな。
「美緒でも拓哉はあげないよ。私の彼氏にするんだから」
「誰もいりません……そんな冴えない男子」
冴えない男子……冴えない男子……冴えない男子……
美緒の言葉が俺の心の柔らかい部分に深々と突き刺さる。
どうせ俺は淳みたいにイケメンじゃない。
しかし、面と向かって冴えないと言われると心が痛い。
また1つトラウマが増えそうだ。
「目元まで伸びている髪の毛が不潔です。カットハウスで髪の毛を整えることを提案するわ」
「いや……これはダメだ。あまり他人から顔を見られるのが嫌なんだ」
俺は目付きが悪い。
しかし顔全体を表に出すと女顔だと言われることがある。
自分の顔があまり好きではない。
優は俺を見てニコニコと笑う。
「たっくんはね、本当はとっても顔が可愛いの。それが嫌で昔から顔を隠しているんだよ」
こら……誰が人の秘密を話していいと言った。
美緒が驚いた顔をして俺の顔を覗いている
夏希は楽しそうにクスクスと笑った。
「そんなに顔がきれいなら、余計に髪の毛が不要です。伸びた髪を切ったほうが良いでしょう」
「それはダメなの。たっくんが恰好よくなったら、女子の競争率が高くなっちゃうから。私だけの秘密なの」
秘密と言いながら美緒に教えているけどな。
美緒は無表情で手をヒラヒラとさせる。
「私の趣味ではありませんね。優の趣味を疑います」
そこまで俺の髪の毛って酷いのか。
髪の毛だけで趣味じゃないまで言われてしまうのか。
すこし落ち込んできた……目に涙が……
「たっくんを虐めないで。美緒もたっくんに優しくしてあげて」
「私は優の友達にはなりましたが、拓哉の友達になったつもりはありません。男子は嫌いです」
確かに俺は美緒の友達ではない。
でも少しぐらいは融通を利かせてくれてもいいじゃないか。
これは美緒にきちんと伝えておいたほうがいいだろう。
「優の友達ということは、俺にとって美緒はもう友達ということだ。だから、よろしく頼む」
「嫌です……男子は野蛮で粗野で嫌いです」
どこかで美緒は男子恐怖症にでもなったのか。
男子を嫌うにしてもこれは少し敏感すぎないか。
「私はずっと中学の時から男子に付き合ってと言われ続けました。どれだけ断っても男子は止めてくれません。だからももう嫌なんです」
なるほど……モテすぎるのも考えものだな。
淳もそんなことを考えたことがあるんだろうか。
淳は誰にでも優しい平和主義者だ。
そして女子達に特に優しい。
淳の奴は何も考えていないな。
夏希が仲裁に入る。
「拓哉は女の子が苦手なの。だから美緒を追いかけるような男子とは違うわ。それに優がいるから安心して」
「夏希がそこまで言うなら信用します。それに優がいれば安心でしょう。拓哉……よろしく」
「ああ……これからよろしくな」
何とか美緒とは仲良くなれそうだ。
美緒はシッカリ者だからチャラ男達も近寄ることができないだろう。
その点については夏希も一緒だな。
今日の学食での一件はこの3人には言わないでおこう。
俺だけが注意して、優を見守っていればいい。
チャラ男達の目標は優だからな。
優は不思議そうな顔で俺を見つめる。
「今日……学食で何かあった?」
「いや……別に問題ない。悩むことでもない」
「それならいいけど……」
「優が追いかけてこないからリラックスして定食を食べることができた」
そういうと優は頬を膨らませる。
優のそんな顔も愛らしい。
美少女はどんな顔をしてもきれいで可愛いから見ていて飽きない。
それでも女子は苦手だが……段々と薄れてきたような気がする。