13話 学食のチャラ男達
昼休憩のチャイムが鳴った。
「それじゃあ、私は美緒と夏希と一緒にお弁当を食べてくるね」
「ああ……そうすればいい。俺は学食へ行ってくる」
優は元気よく美緒を引っ張って夏希の元へお弁当を食べに行った。
美緒には申し訳ないが、3人で仲良く教室でお弁当を食べてもらうのが優にとっては安全だ。
お姉さん的存在の夏希が一緒にいるから、美緒と優も仲良くお弁当を食べるだろう。
俺は教室を出て食堂へ向かう。
隣からポンポンと肩を叩かれる。
振り向くと淳が隣を歩いていた。
そういえば淳もいつも学食組だ。
淳はいつも女子と一緒に学食へ行くから、俺とは行動を別にしていた。
「あれ? 今日はいつもの女子達は?」
「今日は誘って来なかったから、俺1人なんだよ。だから拓哉と一緒に食堂に行こうと思ってね」
「そういうことか。それなら一緒に行こう」
淳と2人で学食へ向かって歩いていると、前に小太りな男子が歩いている。
「おーいエロ博士、待ってくれよ。今日は淳も一緒なんだ。皆で一緒に学食で食べようぜ」
「おおーこれは、いつもリア充の淳ではありませんか。私は構いませんが女子達がうるさいのではないか?」
「今日は女子達は抜きだってよ」
「おお……それは残念な。私も学食で女子に囲まれてみたいものですな」
俺にはそれは無理だ。
女子が多いと思うだけで苦手意識が前に出る。
エロ博士は嬉しそうに淳と話している。
いつも思うが、案外とこの2人は仲が良い。
「女子に笑顔を振りまくのも、時には疲れるもんなんだよ」
「女子はイケメンの笑顔が大好物ですからな。ご苦労が偲ばれます」
食堂の発券機の前で、きのう優に倒されたチャラ男達が人数を4人増やして待っている。
「先に行ってくれ。たぶん俺に用事があるんだろう。エロ博士や淳を巻き込みたくない」
「私では力不足ですな。淳と一緒に先に列に並んでまっています」
エロ博士と淳は発券機で食券を買って、トレイを持って列に先に並ぶ。
俺が食券を買いに行くとチャラ男達が声をかけてきた。
「昨日の転校生は一緒じゃないのか。昨日は一発もらったからな。今日、決着をつけようと思ったんだけどな」
「おあいにく様。優は女子達と教室でお弁当を食べてるよ。お前達には用はないそうだ」
「お前1人で偉そうに何を言ってんの? お前が俺達の相手をしてくれるわけ?」
「別にそれでもいいぞ。お前達に負ける気なんてないからな」
「舐めてんじゃねーぞ」
昨日、優にやられたチャラ男がトレイを上段から縦に振り下ろしてくる。
1歩前にでて、チャラ男の腕を受け止め、同時に胸に一発拳を入れる。
「グハァ」
チャラ男は俺の一発を胸に受けて後退する。
すると他のもう1人のチャラ男が俺の顔面めがけて拳で殴ってくる。
足を1足分後退させて、足に力を溜めて、身体を捻じって、その勢いを解放するように拳を突き出す。
チャラ男の顔面に俺の拳が命中する。
チャラ男は鼻血を出して尻餅をつく。
「その辺でやめておけ。お前達、拓哉とやり合って勝てると思ってるのか。拓哉は元空手部だぞ」
後ろから声をかけて来たのは翼だ。
「うるせー! やられたまんまで帰れるか。今日こそボコボコにしてやるぜ」
「ほう……面白い。俺も参加させてもらうわ。4対1だからな。拓哉に加勢するわ。これで4対2な」
翼はニヤニヤと笑って、喧嘩に参加してくる。
「なるほど……チャラ男達との喧嘩に拓哉も巻き込まれてるってことか」
「まあ……そういうことになる」
「俺は空手部の部長だが、多勢に無勢の喧嘩は嫌いだ。訳を言えば先生も許してくれるだろう」
翼はニヤニヤと笑って、喧嘩に参加してくる。
喧嘩がしたくてウズウズしているのだろう。
遠藤翼は空手部の部長をしている。
拓哉が中学の時に空手部に誘ってくれた友達だ。
高校に入って拓哉が空手部をやめてからも、時々翼の空手の相手をさせられている。
小学校の時からガキ大将で喧嘩っ早い。
そのため両親が空手部に入部させた。
それからはピタリと喧嘩をしなくなった。
空手一筋で頑張っているが、喧嘩は嫌いではない。
「空手家相手にチャラ男が4人で大丈夫か? 俺達は準備できてるぜ」
チャラ男達は顔を青くして退いていく。
チャラ男といっても格闘技をしているわけではない。
本物の格闘家、空手家相手に普通のチャラ男が勝てるはずがない
「クソ! 絶対に覚えてろよ! お前もあの転校生もグチャグチャにしてやるからな」
そう言ってチャラ男達4人は逃げるように食堂から去っていった。
「逃げてくれて助かったぜ。顧問の先生に怒られずにすむ」
「助けてくれてありがとうな……翼」
「ああ……」
翼が俺の隣に立って発券機で食券を2枚買う。
そして1枚を俺に渡す。
日替わり定食の食券だ。
「拓哉に連絡をもらってから、空手部の全員に聞いてまわったが、やはりチャラ男達はお前のクラスの転校生を狙っているらしい。気をつけたほうがいいぞ。何かあったら呼んでくれ。いつでも手を貸すからな」
やはりチャラ男達は優を狙っているようだ。
チャラ男達が何を企んでいるのかは知らないが、優に手を出すようなことは全部俺が止めてやる。
俺は女性は苦手だが、女性のことを嫌いではない。
それに優は幼馴染の転校生だ。
あの純真な笑顔を曇らせない。