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11話 優と美緒

 優と一緒に高校の校門を潜り、校舎に到着する。


 優は昨日持って帰ったラブレターを靴箱に入れなおしている。

封筒に『お返事書きました』と書かれてあった。

すごく嫌な予感がする……



「おい、優、どんな返事を書いたんだ?」


「えっとね『たっくんとお付き合いしてるから、あなたとはお付き合いできません。ごめんなさい』って書いておいた」


「俺と優は付き合ってないだろう」


「もうすぐ、付き合うことになるからいいの」



 俺を巻き込まないでくれ。

これから男子生徒達の視線が怖くなるじゃないか。

女子の嫉妬も怖いが、男子の嫉妬も同じぐらい怖い。



「これからは『たっくんとお付き合いしてるから』っていう部分を消して書いてくれ」


「それは絶対にダメ。皆にきちんと報告しないと嘘になっちゃうでしょ」



 だから……俺と優は付き合ってねーって言ってるだろう。

なぜ、それをわかろうとしてくれないんだ。



「もうラブレターに返事を書くのは禁止」



「それじゃあ、これからはラブレターは全部、ごみ箱へ捨てちゃうもんね」



 優は頬を膨らませて、靴箱に入れたラブレターを手にもってゴミ箱へ捨てる。

変な噂が飛び交うよりもゴミ箱に捨ててくれたほうがいい。


 優がラブレターをゴミ箱に捨てていると、黒髪のロングヘアーの美少女が同じようにラブレターを捨てている。

同じクラスの参堂美緒サンドウミオだ。


 美緒は少し目尻は吊り上がっているが、和服が似合いそうな和風美少女だ。

常に寡黙で1人で読書をしている姿はとても画になる。

上級生から下級生にまで人気があり、優が転校してくるまで学年NO1美少女と言われていた。

これまでの間に美緒に告白して振られた男子生徒の数は二桁を超える。


 美緒は誰とも話そうとはしない。

孤高の美少女と呼ばれている。

その冷たさが良いという男子も多く、男子生徒達からのラブレターが毎日のように靴箱の中に入っている。

上履きを出すために、邪魔なラブレターをゴミ箱へ捨てていたのだろう。



「うわー。この子、超きれいなんですけど――! きれーい!」



 優はラブレターをゴミ箱へ捨て終わると、美緒に向かって抱き着いた。

細身の美緒は優に体を圧されて倒れそうになる。

とっさに美緒の背中を受け止めると、美緒は俺と優に挟まれた形となった。

そして優は美緒へ嬉しそうに抱き着いている。



「あの2人共、私を離してもらえないですか」


「悪い……ごめん」



 俺は美緒の背中から慌てて離れる。

しかし、優は美緒に抱き着いたまま離れない。



「あの……これ……どうにかしてもらえないですか?」



 優は好き嫌いがハッキリした性格だ。

そして好きとなったら、とことんまで追いかけてくる。

美緒……優に気に入られたのが不運だったな。


 俺は鞄を持って、美緒に背中を向けて廊下を歩き始める。

美緒から焦った声が聞こえる。



「ちょっと待ってください。私をこのまま置いていくつもりですか。助けてください」


「優も今は興奮しているだけだ。興奮が治まれば、優も離してくれる。それまでの辛抱だ」


「こんなのあんまりです。学校の玄関で、なぜ女子に抱きしめられているんですか。変な噂が立つのは嫌です」



 振り返ると美少女2人が抱き合っているように見える。

登校してきたばかりの生徒達が2人を見ている。

たぶん明日には新しい噂が学校中へ流れることだろう。

しかし、このままでは美緒が不憫すぎる。



「優……美緒のこと離してやれ」


「ヤダ……こんなにきれいな子、初めて見たもん。絶対に友達になるまで離さない」



 優のワガママが始まった。

優は1度言い出したら止まらない。

ここは美緒を説得したほうが早いだろう。



「美緒……優と友達になってあげてくれないか。お前も知っていると思うが優は昨日転校してきたばかりなんだ」


「お断りします」



 流石は孤高の美少女、断りますよね。

俺も断られるとわかっていて言ったのだが……



「このままだとHRのチャイムが鳴るまで、優は美緒に抱き着いたままなんだが……美緒がそれでも良かったら、美緒が断ればいい」


「そんな……HRのチャイムまで、まだずいぶんと時間があるじゃないですか。その間、女子2人で抱き合っているなんて嫌です。なんとかしてください」


「だから俺は最善の提案をしている。優と友達になるというだけで、優を引き離すことはできる。美緒よく考えてくれ」



 美緒は美しい顔を険しくして考えている。

そして諦めたように肩を落とす。



「わかりました……優と友達になります。だから私を離して」


「本当? 本当に本当? 本当に友達になってくれる?」


「私は嘘は嫌いです。離れてくれたら友達になります」


「わーい!」



 優は美緒から手を離す。

そして自由になった美緒は自分の鞄を取ると、一目散に廊下を逃げようと走る。

しかし、残念だったのは、美緒の走る速度が非常に遅かったことだ。


 優は嬉しそうに美緒の手を握りしめる。



「せっかく友達になったんだから、手をつないで教室まで行きましょう」



 美緒は複雑な顔をして俺を見る。

俺は何も言わずに美緒の視線から、自分の視線を逸らせた。


 美緒は諦めたように、優と手をつないで階段を上がって2階の廊下を歩く。

2人の美少女が手をつないで歩いているのだから、廊下にいる生徒達が注目する。

美緒が時々、戸惑ったような視線を、後ろにいる俺に送ってくる。

何もしてやれることはない……

その後ろを下を向いたまま、俺は歩いていく。


 教室に入った。

すると美緒と優の組み合わせに驚いたクラスの生徒達が一斉に振り向く。

美緒は顔を真っ赤にして俯いて歩いている。

優は嬉しそうに自慢気に歩いていく。



「私の席、ここだから」



 美緒は自分の席に座る。

すると美緒の隣の席に優も座る。



「美緒って綺麗だけど彼氏っているの? 男子に興味ある?」



 優の質問攻めが始まった。

美緒は顔を真っ赤にして、両手で口を押さえている。

こうなったら優を止められるのは夏希しかいない。


 俺は優を止めてもらうように、夏希に頼みに行った。

すると夏希はクスクスと笑っている。



「美緒のために優を止めてやってくれないか」


「美緒にも優にも友達ができて良かったわね」



 クラスの良心。

 クラスのお姉さん的存在である夏希は、優と美緒を温かく見守るつもりでいるらしい。

美緒……優は元気で明るい無邪気な女子だ。

是非、仲良く友達になってくれ。


 自分の無力さを感じながら俺は自分の席へと向かった。

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