1話 プロローグ
「はーい。皆さん、お外で元気よく遊びましょうね。危ない遊びは禁止ですよー」
シスターの声がひまわり幼稚園のグラウンドに響き渡る。
優ちゃんは僕の手を引っ張ってグラウンドへ走っていこうとする。
本当は部屋の中でお絵かきをしたかったのに……
僕は優ちゃんのお気に入りだ。
優ちゃんはどんな時でも僕の手を離さない。
優ちゃんは元気な笑顔で僕の方を向いて笑っている。
いつ見ても嬉しそう。
どうして僕と一緒にいるのが、そんなに嬉しいのだろう。
ぞうさんクラスの中では優ちゃんと僕がいつも一緒にいても誰もからかってこない。
優ちゃんが怒ると怖いからだ。
僕も優ちゃんを怒らせるのは怖い。
だからいつも優ちゃんの遊び相手をする。
それだけで優ちゃんの機嫌がよくなるんだから、僕が我慢すればいい。
「たっくん、優のこと好き?」
「うん……好きだよ」
「大人になったらお嫁さんにしてくれる?」
「大人になったらね」
毎日、この約束をする。
毎日、毎日……
僕にはお嫁さんの意味がよくわからない。
でもこの約束をすると優ちゃんが嬉しそうに顔を真っ赤にして笑ってくれる。
それだけで1日平和に過ごせるから、僕もニッコリと笑う。
「たっくん鬼ごっこしよう……いつものように私が鬼だからね。背中にタッチしたら交代。10数えるからね……1、2」
優ちゃんは鬼ごっこが好きだ。
僕は優ちゃんの弱点を知っている。
優ちゃんは高い所が苦手だ。
だからジャングルジムへ逃げると優ちゃんは追ってこれない。
いつも、この手で僕は優ちゃんから逃げきっている。
「4、5……10」
「優ちゃん、数を数えるのをズルしちゃーダメだよ。ズルいよ」
「今日は絶対に捕まえるんだから!」
まだ僕はジャングルジムの1段を登った所。
早く登らないと優ちゃんが走ってきている。
僕は必死でジャングルジムの2段目に足をかける。
優ちゃんが僕の足を捕まえる。
「たっくん。捕まえたー!」
「まだ逃げられるもん」
必死でジャングルジムの2段目に登ろうとするけれど、優ちゃんが下から僕の足を掴んで、僕の体を登ってくる。
僕の半ズボンを優ちゃんがつかむ。
それと同時に半ズボンがズルリとずり落ちていく。
「優ちゃん、離してよ……ズボンがずり落ちちゃうよー」
「今日こそ絶対に捕まえるもん」
優ちゃんが半ズボンを下から引っ張る。
ああ……パンツまでずり落ちていく。
「それ以上、引っ張っちゃダメー! ずり落ちちゃうよ!」
「優ちゃんの半ズボン、落ちちゃえ!」
優ちゃんが力いっぱい下から半ズボンを引っ張った。
半ズボンとパンツが一緒にスポンと落ちる。
優ちゃんの目の前に僕のおちんちんが……
優ちゃんはそれを見て大笑いする。
「たっくん……パパのおちんちんより小さいねー……可愛い」
小さい……小さい……小さい……
僕の頭の中で優ちゃんの言葉が何回も繰り返される。
僕って小さいんだ……
思わず全身の力が抜ける。
ジャングルジムの2段目から体が落ちる。
そして頭を強打した。
小さい……小さい……小さい……
僕の心に優ちゃんの言葉が刻み込まれる。
そして意識を失った。