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裏切り者

いつの間にか僕は会社にいた。

昨日の出来事が嘘の様に、プログラムされた行動をとってしまった。


先輩は来ていなかった、部長曰く風邪を引いたらしい、実は、部長も具体的には分からないそうで、兎に角、病欠との事。


その、部長だが、今日は課長と一緒に出張するので、午前中に出張の準備を済ませ、午後になったら会社を発つそうだ。


会社には経堂さんもいたが、特に会話する事もなく、社用車でイベント会場迄向かった。


まだ、イベント開始の時刻前なので、僕達以外は誰も来ていなかったが、先にイベント会場に入って準備することにした。


他の社員と一緒に早々と準備に取り掛かる経堂さんと目は合っても、一言も喋らず院内図と参加証、そして、同意書を受付に配置する。


ふと、先輩の事が気になった。

昨日の出来事が相当堪えたのか…

それとも、本当に病欠なのか。

だけど、今の僕にそんな事どうでもよかった。


『裏切り者…』


一瞬頭に過ったが、

生ける屍の如く、ただ、ひたすら仕事だけに集中する…

…………

出来ない。

集中する事が出来ない。


なんで、部長と課長がこんな日に出張なのか、なんで、先輩は今日に限って休むのか、なんで…


そうこうしている内に、準備が整り、イベントの開催時刻の20分前になっていた。


SNSやホームページで広報し、そして、メディアに取り上げられた事もあってか、会場には50数名の人達が集まっていた。


早速、受付にお客さんを案内する。

雰囲気を出すために、受付以外の電気は所々落としてある。


お客さんに懐中電灯、参加証、院内図を配布し、最後に同意書に同意してもらう。


同意書は不測の事態が起こったときの会社側の免罪符だろう。


バトルタグの説明や本イベントの勝敗条件、違法行為など一通り説明すると、経堂さんがお客さんを20人引き連れて案内する。


「こちらから、10時半迄に院内の何処かに隠れて下さい!」


「10時半になったらゲーム開始です!」


「トイレは予め地下1階で済ませておいてください!」


「後、院内図に連絡通路とありますが、その先に病棟があるのでそれ以上は近づかないで下さい。」


僕はぼーっとしていた。

ほぼ職務放棄状態の僕に替わって経堂さんがイベントの説明を全て終える。


気が付いたら、10時半になっていた。

僕達、運営スタッフは、受付で管理用カメラと院内放送用マイクの前に座りながら、次のグループの受付等している。


『早く、3日間終わんねえかなぁ』


そんな事ばかり、考えながら、第1グループが無事に終わるのを待つ。


ふと、管理用カメラ眺めていると、以外と面白いことに気付く。


トイレに行こうとしてバトルタグを奪われるもの。

スマホの着メロで場所を気づかれたと思ったら、複数人出会いバトルタグの取り合いになったり…色々な人間模様が垣間見える。


「あっ、ちょ」


隣に座っていた社員が焦った様に口走る。


「ど、どうしたんですか?」


と尋ねると。


「今、連絡通路側から逃げていた二人組がその先に行ったっぽい…」


「え?」

「おいおい」

「マジかよ」

「早く誰か行けよ」

「病棟側に行かれたら不味いぞ」

「ちょっと、行ってきます」

「俺もいくぞ、受付任せるわ」

「私も行きます」

社員達がざわめき、複数名の社員が連絡通路に向かっていった。


僕は管理用カメラで複数名の社員が病棟側に入っていったのを確認した。


昨日の出来事が蘇る。

僕は漠然と、連絡通路には行きたくないと思っていた。


「葉山君大丈夫?顔色悪いよ?」

経堂さんが横に座り今日始めて僕と会話する。


「あ、きょ、経堂さん、こんにちは…」

挙動不審な返答をした僕の顔はきっと死んだような顔してたのだろう。


「だ、大丈夫?いや、本当に?」


経堂さんが念を押して言う。


「いや、問題ないっす…」

そう言うと、経堂さんは「良かった…」と頷き、他の社員と会話を始める。


10分か暫く経ったのだろうか、病棟に向かった社員達は一向に帰ってこない。


相当別館(病棟)は入り組んでいるのだろうか?


それに、社員の中にはスマホを持っていった者もいるが、連絡すら来ない。

いや、病棟側が圏外なのだろう。

参加者の人も当然スマホを持っている筈だし、もっと言えば、院内図を参加者は持っているのだ。


他力本願にも程があるが、きっと戻ってくると信じて、待つことにした。



気が付くと、手にベッタリと汗をかいていた。

あれから、30分位経っているが誰も帰ってこない。

それに、心配になった社員複数が病棟の中で迷子になったであろう、社員と参加者を見つけに、病棟に向かっていったのに、誰一人帰って来ていないのだ。


そんな状況で、スタッフ達の慌てようを見ていた、高校生グループが有志で助けに向かってしまったのだ。


経堂さんと僕を合わせて4人しかいない社員が高校生の参加者達を止めようとするが

「スマホがあれば大丈夫です。」

みたいな事いって直ぐに病棟側に走り抜けていってしまった。

「ちゅ、中止にするべきでは?」


経堂さんが突然社員達に向けて喋る。


僕達はその言葉に驚いたが、もう、次のグループの開始時刻を過ぎているので、中止にするのは妥当だ。


経堂さんが今いる参加者を集め、中止の旨と、参加料金の返還手続きについて説明している。


参加者達は残念そうにしながら帰っていった。



「だ、大丈夫ですか?なにか手伝えることはありませんか?」


一人の男性が声をかけてくる。

聞けばその、男性は非番の警察官らしく手助けしたいとの事だ。

その後ろにいた、二人も同僚の女性警察官と男性警察官らしい。


経堂さんがこれ迄の経緯を話すと、三人で助けに行くから、僕達はここに留まるよう言われた。



しかし、数時間経っても誰も帰ってこない。


二人の社員が部長と課長に連絡している。

僕はウロウロウロウロしていた。

経堂さんは助けに行った社員達に片っ端からダイヤルしている。

それでも僕はウロウロしていた。

何て役立たずなんだ、と自分自身思いながら。


「誰も、電話に出ない…」

経堂さんが暗い顔で言う。

電話に出ないと言うことは、圏外では無いと言うことになる。

何故みんな電話に出ないのだろう?


「……後は所轄の警察に任せろって部長に言われたわ…」

「こっちもだ…任せたらもう帰っていいって…」

二人の社員が各々言う。


「……え、そうなの?」


僕は怖かった。早くこの場所から離れたかった。

正直安堵した。このまま帰って明日と明後日サボろう、そうすれば、こんな不気味な廃病院二度と来なくてすむ…そんな、考えが入り交じった返事をしていた。


早速、社員の一人が警察に連絡すると交番勤務の警察官らしき男性二人が廃病院に到着した。

警察官に事の経緯を説明すると、連絡通路に向かった。


「こちらから、皆さん行方不明になられたと……じゃあ、私共で探しますから。皆様は会社に帰られて下さい…あ、もし、発見した場合は連絡しますので、会社の番号控えさせてください。」


経堂さんがスマホを取り出し、会社の番号を警察官二人に教える。


「では、帰ってくれて構いませんが、会社に連絡するため、会社には誰か残っていてください。」


警察官は小走りで連絡通路を駆け抜けていった。


正直ほっとした。

これで帰れる。

明日と明後日休めば何も無かったことになる。

きっと、みんな探し出してくれる…


「疲れた…」


経堂さんが小さな声で言う。


他の二人の社員は警察官の連絡を待つため先に会社に戻ってしまった。


僕と経堂さんも帰ろうとしていたときの事だった。


「えっ?えっ、う、うそなんで。ど、どう言うことなの」


警察官に連絡通路封鎖用のカートを退かされた時に連絡通路の管理用カメラが動いてしまったらしい。


「あれ、病棟側にカメラ向いてる。」

僕は適当にそう答える。

が、次の瞬間、驚愕する。


カメラの前に人がいる!

薄暗くてよく見えないが、参加者の一人であろう。


「ちょっと、私行ってくる!ここで待ってて!」


経堂さんが一目散に連絡通路に向かう。


気が付くと、病棟側を向いたカメラの画面に人はいなくなっていた。


「あっ、経堂さん!」

僕が食い入るように見つめていた、カメラに経堂さんが映し出される。


経堂さんは誰もいない病棟側に向かって「待って!」と言って歩いて行く。


「え?経堂さん!!経堂さん!!!!!」


最早、誰もいなくなった院内に僕の声が木霊する。

経堂さんは僕の声に気付いていないのか、更に病棟の奥に進んでいく。


僕は急いで受付から離れ「経堂さん!」と叫びながら、連絡通路に向かった。

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