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廃病院のお掃除

ひょんな(?)事からイベントの担当になってしまった僕は、早速次の日から、イベントの準備に取り掛かった。


まずは、廃病院でバトル・ロイヤル(笑)と言うことで危険性ある物は全て病院から取り除かなければならない。


この病院は、つい最近、廃病院になったらしい。

廃病院になった経緯は知らないが、今は僕の勤める株式会社『菜廊』の管理下にある。


「じゃあ、行くか!」

先輩は言った。

三人で電車を乗り継ぎ都内某所の廃病院に着いた。



「◯×病院か」

「取り敢えず入ってみるか」


「行きましょう!」

僕は言った。


病院に入ると、中は真っ昼間だと言うのに真っ暗で、何も見えない。

事前に持ってきた懐中電灯を点けると、三人分のスポットでボォッと院内が照らされた。


「こっちが、受付であっちが総合内科か…」

先輩が事前に部長から渡された病院の資料兼院内図を見ている。

どうやら、地下1階、地上2階あるらしい。


「これなら、三人でなんとかなるな」

確かに何とかなるが、いかんせん不気味である。

一抹の不安を抱きながら、先輩の指示を仰ぐ事にした。

「……じゃあ、三人で一階ずつ…」

嫌な予感が的中した。

「あ、あの、良いですか?」

同期の経堂さんだ。

「三人で一階ずつ受け持って片付けるより、三人で一つの階を片付けて行った方がいいと思いますが…どうですか?」

普段から的確な意見を述べる彼女なら、先輩にも通用するはず。

「あ、あー確かにそうだけど……」


先輩は納得出来ていないようだ。

合理的な先輩の事だから三人で一階ずつやれば時間的に早く終わると考えたのだろうが、僕は、一人孤独に暗闇の中、廃病院を片付けるなんてゴメンだ。


『もう一押し!頑張れ経堂さん!』

僕は心の中で祈るように彼女を応援した。


「三人で一階ずつではなく、三人全員で一階を3つのエリアに分けて受け持つ、と言うのはどうでしょうか?」


『ナイス!代替案!!』

心の中で勝利を確信しガッツポーズを掲げた。


「あ、そうか。じゃあそうしよう!」


先輩は院内図を広げながら、各階を3エリア毎に分けていき、スマホで何やら会社と連絡をとっている。


「よし、じゃあ、経堂さんは一階の受付エリア、純介は連絡通路エリア、で、俺は総合内科エリアと、以上!」


一つの疑問が湧いた。

連絡通路エリアを僕が受け持つ訳だが、つまり、連絡する別館みたいなものがあるのだろうか?


「因みに純介、連絡通路の奥は立ち入り禁止だ。入院患者病棟に繋がっているからな、病棟はうちの会社の管理下に無いから、くれぐれも立ち入るなよ」


「あ、後、病棟と診療棟と境は床の色見れば分かるそうだから、それで判断してくれぃ」


「あっ、そうなんですか?分かりました(楽そう)」

と頷くと三人で一階の清掃を始めた。


あからさまに経堂さんが入り口に一番近い受付エリアだが、目に見えて、カルテやら、会計資料やらが散乱しており大変そうだ。

逆に自分は入り口から一番遠いエリアだが、連絡通路、つまり、通路なので全然散らかっていなかった。

「ヤバいもう終わったw」

思ったより遥かに早く片付いてしまった。

それはそうだ、受付から飛ばされてきたであろう紙と、一般ごみみたいなのしか見当たらなかったからだ。


「総合内科エリアの先輩大変そうだな…」


明らかに一番広い範囲をカバーしているのが総合内科エリアだ。

一番楽な場所を受け持ってしまった僕はちょっとした罪悪感を感じていた。


「先輩の所手伝いに行くか…」


このままサボるのもありだなと、思ったが先輩の所に行く事に決めた。


身体を病棟側から受付エリア側に向けると何か視界の隅で動いた気がした。


「ん?先輩…ですか?」


返事はない。


「きょ、経堂さん…?」


返事はない。


「にゃー!」


思わず叫びそうになったが、目の前にいる漆黒の毛並みをしたその黄色い瞳はとても愛くるしい猫であった。


「ね、猫かあー!ヨシヨシ」

安堵した僕は思わずその艶々した毛並みを撫でずにはいられなかった。

その猫は、人間にそうとう馴れているらしく、僕に撫でられると気持ち良さそうに目を閉じクシャッとした表情を見せた。


「何でこんな場所にいるんだろう、なでなで」


暫くすると僕に身体を擦り付け、「みゃー」と鳴き、『受付の方』に戻っていった。

僕はその猫を追うように受付に向かった。


猫の姿はすっかり見えなくなったが、そこにはもうじき受付エリアを片付けてしまいそうな経堂さんがいた。


「あれ、もう終わったの?」


「終わったよ、結構疲れたわ…」

全くもって疲れていないが一応疲れたふりをする。


「こっちももう終わるから先輩の所に先に行ってて」


「あ、じゃあお先に」

僕は受付エリアを後にして、総合内科エリアに着いた。

そこには、ドラマとかで注射器や薬を乗せて運ぶカートみたいな物を押す先輩がいた。


「お、終わったのかちょっと手伝ってくれ」

以外にも先輩は有能だったのか分からないが、既に結構片付いていた。

僕は先輩と一緒に危険そうな医療道具はカートに収納していった。

暫くすると、経堂さんも合流し、僕と先輩はカートに危険な医療道具を収納し、経堂さんはカルテや医学資料、安全な医療道具等を再配置していった。


「ふー、まあ、こんなもんだろう」

僕から見ても上出来である。

最後に一階を全体確認して、先輩は会社に連絡する。

時計を確認すると既に夜の8時を廻っていた。

「OK(オッケー!)」


電話を掛けながら指でOKサインをする。

僕達はカートをゴロゴロと押しながら玄関口に辿り着いた。

幾ばくかして、会社の車が到着するとカートをワゴン車に搬入し僕達は会社に向かう。


会社につくと、先輩は廃病院の事を説明しながら、今日の業務を進捗具合を改めて部長に伝えた。


やっぱり、三人で余裕だっただろみたいな事を部長は言っていたが、会社に着いた頃は夜の9時半と言う、実家通いの僕と経堂さんは終電コースである。


「お疲れ様でした!先に失礼します」

僕は言う。

「お疲れ様です。」


「お、お疲れ、」

先輩が本当に疲れた様な頼りない声で言う。

「気を付けて帰れよ、最近ヤバいやつが多いからな、お疲れ!」

部長と先輩はまだ残業していくらしい。

経堂さんと僕は、エレベーターに乗ると会社を後にした。


「イベント成功するといいね」

唐突に経堂さんが言う。

「あ、ああたぶんダイジョウブデショ」

片言の日本語のようなぎこちない言葉を発する。

「でも、これ入社数年でやることじゃないよな、流石ベンチャーっ感じだわ、後よく残業させられるし…」

声が少し裏返りそうになりながら、少し大きめの声で言う。


暫く沈黙が続くと経堂さんが徐に言う。

「何でこの会社に入ろうと思ったの?」


こんな事聞かれたの就活以来だ…と感じながらも少し待ってこう答えた。

「実はお化け屋敷とテーマパークが苦手なんだ」

意味不明のカミングアウトに経堂さんは困惑して表情をこわばらせている。

「え?じゃあ、この仕事向いてないじゃん!」

的確な突っ込みだ。

今でも僕はこんな仕事向いていないんじゃないかと思う、しかし、続けてこう返した。


「ちょっと、話が長くなるけどいい?」


「いいよ。まだ駅まで時間かかりそうだから」

経堂さんが頷きそして呟く。




~むかし、小学生の頃なんだけど……遠足でとあるテーマパークに行ったんだ…そのテーマパークにはお化け屋敷みたいなものがあってさ、各班で行動するんだけど…行くことになったんだよねお化け屋敷に…


経堂さんはうんうんと頷く。


それで、僕は嫌だったけど班行動だから仕方なくお化け屋敷に入場することになったわけ…で、そのお化け屋敷なんだけど迷路みたいになってたんだよね…で、案の定僕は班のみんなとはぐれちゃったんだよね…


経堂さんはマジかみたいな顔で見ている。


それで、心細くなってどこ行っても出口にたどり着かないから、もうほんと、泣きそうになってウロウロして、途方に暮れてたら、白い服を来たお化け役の女の人が来て「大丈夫?どうしたの?」って言われて…安心したんだね…その女の人に思わず抱きついたよ…「小学…校の班と…迷子になった」みたいなこと言ったけど、その女の人はすぐに察して、僕のてをとって、一緒に出口を探してくれたんだよね…


で?で?見たいな顔している。


その女の人…良い香りしてさ…手もひんやりとしてて美人だったなあ…(遠い目)


「おい!w」

思わずツッコまれる。


それで、そのひんやりとした手をとって、暫くお化け屋敷を歩いていると明かりが見えたわけね…すると、外のガヤガヤとした声がしてくる訳よ…で、出口まで来ると出口の係員の人が「お疲れ様!楽しかったかな?」みたいなこと聞いて来たから、手を繋いでるその女の人を見つめ「うんっ!」って頷いたのよ…そうしたら係員が「?」みたいな顔してけど気にせずに…外に出たわけ…で、その女の人にお礼言おうとして、振り向いたら、そうしたら…そこには出口の係員の女の人しかいなかったんだよね…本当はお礼言いたかったんだけど…気が付いたら班の人も先生もさがしに来ていて無事帰れたんだよね……~


「え?その女の人って?まさか」

経堂さんが言う


「いや、分からない、ただ…そのテーマパーク無くなっちゃったんだよね、経営不振っぽかったから」


「でも…ひんやりとした手の感覚とあの良い香りは今でも忘れられないな………」

「まあ、そんなこんなで、イベント運営に興味持っちゃってさ…なんか問いに対する答えになっていない気がするけど……この仕事選んだ訳」


「そうかぁ…そんなに綺麗だったんだその人w」


笑いながら経堂さんが言う


「あ、え、そういうことじゃないんだ、ただいんしょうぶかかったなって…」


経堂さんは笑う。

他愛ない話をしていると、最寄りの駅に着いた。

経堂さんとは路線が違うから、ここでお別れだ。


「じゃあ、お疲れ様」


経堂さんが言う。

「ああ、お疲れ様。イベント成功させよう。気を付けて」


少し男らしい言葉を言った僕は、自分自身少し恥ずかしかった。


電車はガタゴトと揺れる。

僕は人々を映す車窓を眺めながら、家路に着いた。

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