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フォーカス 一番暑かったあの夏  作者: 貴名 百合埜
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海  1

大きな音を立てて、フェリーが着岸した。

乗組員達が慣れた様子で、初めて見る太いロープで船を岸壁に固定する。

船頭がゆっくりと開き、船内に溜め込んだ乗り物を追い出すための通路が開いた。


最初にバイクが次々と上陸していった。

次に俺達だった。

ほぼ、先頭付近に停車していたので早めに下船になった。

フェリーと岸壁のつなぎ目で大きく揺れながら、船から出る。

バックミラーで後方を見る。こんなに入っていたのかと思うほど、次々と車が出てきていた。


「さっきさー、フェリーで同級生と会ったわ。これから合宿らしい」

運転している、ゆき兄に話しかける。

「運動部か?3年なのにまだ部活あるんだな」


俺の通っている県立高校はほぼ全員が進学希望なので、3年になると受験に備える為に夏休み前には一部を除いて部活を引退していた。

野球部やサッカー部なんかもすでに大会を終えていて、引退していた。

サッカー部だった俺も試合中の怪我の影響で、他のメンバーよりも早い時期に引退していた。


「写真部だった。なんでも8月の終わりに大会があるらしい」

「幸太の学校の写真部は有名だったよな、何度かローカルニュースで見た気がする」

「そうみたいやわ。毎年誰かが賞とか貰ってるはず。前に全校集会で表彰されてたかな」

「幸太には縁遠い話だな、そういうセンスを全て運動神経にステ振りしたからな」

「ほっとけっちゅうの!」


言われた通り、俺は芸術センスは皆無に近かった。

楽器の演奏や絵を描く才能とか自分でも笑えるくらいに無かった。

小中学の頃の音楽や美術の時間は俺にとっては拷問に近かった。


それに比べてゆき兄はオールマイティーというか、何をさせても一定以上の成果は出していた。

スポーツにしても、学力にしても。

学生時代は水泳の選手として全国大会の常連だったし、今はシナリオライターを主にしてクリエイターとして活躍していた。

どんな人生を送ればゆき兄の様になるんだろう。

何度も人生をやり直して生きて来ている。そんな風に思える事もある。

そんなゆき兄に俺は憧れを抱いていた、またそれと同時に目標ともしていた。


「そういやさ、さっき写真部のやつから俺が同級生の名前を覚えていなくて責められたわ。なんか一人うるせーやつがおるんよね」


ゆき兄が吹き出す。

「幸太、お前は…当たり前だろ。もう3年になって何ヶ月経ってんだよ」

「同じような事を言われたわ。」

「幸太は一つのことに集中フォーカスしすぎなんだよ。俺は正直そこは幸太の長所でもあるって思ってんやけどな。でももっと広く視野は持てよな。大事な物が見えない時がでてくるぞ」

「はいはい。いつも言わてるんでわかっていますって。あ、ゆき兄スーパーこの先っぽい」

車は国道から側道へと入る。そして目の前に現れたスーパーマルナカの駐車場へと入った。

広い駐車場には俺達と同じ様に、レジャーの為に買い物に寄った家族連れが何組もいた。

時間的はオープンしてそう経っていないけど、割と賑わっていた。


店頭でカートに買い物かごを乗せ、俺は食肉コーナーに向かった。

さすが観光地のスーパーだけあってバーベキュー用コーナが広く設けてあった。

カルビやハラミ、ミノ、ロースそして牛タン。鶏ももに豚トロ。

目についた物をどんどんカゴに入れる。そしてソーセージ各種も!


「ほんま幸太は肉食やな。見てるだけで腹がいっぱいになりそうやわ。野菜も忘れんようにな」

「若い証拠やから!ゆき兄こそ、もう年じゃね?体が肉を受け付けなくなってきたんじゃ」

「うるせーよ、肉食だから体力ばっかり育つんやで」

軽く頭を叩かれ突っ込まれる。

手痛い返しを食らいながら、俺達はレジへと向かった。


カートごと車に向かい、買った食材達をクーラーボックスに移し替えた。

氷も購入して一緒に入れた。こうしておけば余裕で夜まで痛むことはないはずだ。

飲み物も2リットルのペットボトルで色々買っておいた。

正直、こんなにもいらないかも。


「これで準備は整ったっけ?」

ゆき兄に聞く。

大げさにゆき兄はうなずくと親指を立てた。

「それ、そういうとこが親父臭いねんで」

「うそ!かっこよくね?」


訳のわからない事を言うゆき兄を尻目に俺は助手席に乗り込んだ。

続いて、ぶつぶつ言いながらカートを返し終わったゆき兄も運転席に乗り込んできた。

「まあいいや、とりあえず目指すは海さ!」

妙に気合いが入って芝居かかった声で宣言するゆき兄。

なんか面白くて俺は笑いだした。

「安全運転で宜しく!」


車は海へと向かい、再び走り出した。







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