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フォーカス 一番暑かったあの夏  作者: 貴名 百合埜
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出会い  1

2018年 (平成30年)7月21日


開けっ放しの窓の網戸越しに、容赦のない蝉の声が響いてきている。

夏の朝はいつも騒がしくて目が覚める。

窓を閉めて寝れば少しはマシになるんだろうけど、クーラーを付けたままで寝ると朝がどうも調子が悪くなってあまり好きじゃないから、寝る時はいつも窓を開けて寝ている。

それでも昔住んでいた大阪より寝苦しさは全然マシだった。


寝起き眼のぼんやりした視界のまま、枕元に置いてある充電コードを差したままのスマホを見る。

まだ7時前だった。小学生ん頃ならラジオ体操に行く時間だけど、さすがにもう高校3年になればそんなイベントはない。


アラームの設定時間より早く目が覚めた事に少し勝った気分になる。

今日はラッキーデーになりそうだ。そういや昨日ネットで見た占いも良かった。


大きく欠伸と伸びをしてベッドから起き上がった。


自室から出てバスルームに向かった。洗面台から歯ブラシを取り出し咥え、手早く着ていた服を脱ぐとそのままバスルームに入る。

歯磨きをしながらシャワーで水を浴びた。

別に低血圧てわけじゃないけど、それでも頭ン中はかなりスッキリする。


今日から夏休みが始まった。高校生活最後の夏休みだった。

だけど大学受験を控えている俺にとって、残念ながらのんびりと夏休みを満喫する余裕あまりなかった。

週明けの月曜日から予備校の夏期講習が始まり、どっぷりと朝から夜まで受験勉強に浸る予定になっている。


しかし高校最後の夏休みだ!しかも来年は元号も変わる為に平成最後の夏休みだ!

「そんな記念すべき夏休みを勉強だけで終わるのも虚しい」

と兄に真剣な眼差しで訴えた所、

「そうだな、じゃあ泊まりでキャンプくらい行こうか」

と、即答してもらえた。

勉強しろ!って言われると思ったが。

何でも言ってみるもんだ。


キヤンプ日時は夏休み初日の土日。その日ならまだ夏期講習が開始前だから時間も取れる。


本当は遠出して、四国カルストの絶景の中とか高知の柏島のエメラルドグリーンの海辺の近くとかでキャンプをしたかったけれど、それだと一泊だと日程が厳しい。それにもう予約が取れそうにもなかった。


それに今年は夏前に豪雨があり、四国でもあちらこちらでかなりの被害が出ていた。

その影響でキャンプ場も閉鎖している場所も多いらしい。


ネットでいろいろ調べ兄弟会議の結果、俺達は小豆島へ行くことにした。

俺達の住んでいる高松市からだと直行のカーフェリーが頻繁に出ていて、時間も1時間程で辿り着く。

移動で時間をかけるより、現地でゆっくり遊ぶ事ができる方を俺達は選択した。

宿泊施設も多くあり、なんとかコテージの予約を取れた。


昨日の夜の間に、大体の荷物は車に積み込んでおいた。

小豆島は瀬戸内では淡路島の次に大きな島で、完全離島としては瀬戸内では1番人口が多い島になる。

島にはコンビニやスーパーを何軒かあり。現地調達も容易い。

痛みやすい食料なんかは現地で買い揃えることにした。


後は俺の兄、幸彦ゆきひこ

通称「ゆき兄」が起きてくるの待つだけだけど、あの人は時間にきっちりしていて8時出発なら8時に間に合う時間にしか行動してこない。

頭をタオルでゴシゴシ拭きながらリビングに向かうと、コーヒーの香ばしい香りが漂っていることに気づいた。

「え?もう起きてたん?」

リビングの扉を開けると中でゆき兄がサイフォンで入れたホットコーヒーを美味しそうに飲んでいた。

「おはよう幸太。多分俺の方が先に起きてたぞ」

「意外すぎるんやけど…まさか今日のキャンプが楽しみすぎて眠れなかったとか?」

「あほ!俺はそこまでもう若くないし」

俺と12歳違いのゆき兄はもうすぐ30歳になる。

見た目は若くて、昔から全然変わっていない気がする。

言うことはけっこう親父臭いんだけどね。


「朝飯どうする?トーストくらいならあるけど」

意外そうな顔している俺を気にもとめず、ゆき兄がコーヒーを飲みながら話しかけてくる。

どうしよう食べれないこともないんだけど、後片付けするのがちょっとめんどくさい。

俺ん家ルールでは自分の食器は自分で片付けなければならない。

「フェリーで食べるからいいや」

「じゃあ俺もそうするか。着替えてくる」

コーヒーを一気に飲み干してからカップを濯ぐと、ゆき兄はリビングから出ていった。


15分程度でゆき兄の用意は終わった。むしろ俺のほうが用意に時間がかかった。

髪を乾かして、ワックスつけて、それからお気に入りの香水をつける。

そしてそれらを再び荷物に押し込んで……


幸先のいいスタートって感じだったはずなのに、いつの間にやらバタバタしている。

「慌てなくていいんやで。まだ時間はたっぷりあるんやから」

そんな俺をみてゆき兄は笑っている。

「そんな事言われてもさ…」


ようやく準備が出来て、車の助手席に乗り込む。

家の戸締まりをしてからゆき兄も運転席に乗り込んできた。

時計を見ると時間はまだ7時30分だった…

「早い出発ですこと」

兄貴が笑いながら嫌味を言ってくる。

そういや時間見てなかったよ俺…

「だから時間はたっぷりあるって言ったやろ?」

「時間教えてくれても良かったやんか…でも善は急げって言うやん」

「それ、意味が違うから。まあのんびり行こうか」

「遅れるよりは全然ましやんね。行こう!」


俺達を乗せた少し古いクロスオーバーSUVは静かに走り出した。

一路、高松港を目指して!


















ここから主人公の高校時代の話です。プロローグから10年前の平成最後の夏の香川県高松市が舞台の中心になります。

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