狼煙
「い、異能力......?」
ルイが聞き返す。
「そうだ。異能力だ。知らないのか?」
老人が顔を近づけてくる。
「君はいじめられてるんだろう?それもだいぶ酷い。いじめてるやつらに復讐したいとは思わないか?」
低く通る声で云った。
「い、いじめられてるけど...復讐なんてできないよ...」
「フッ。それができるんだな。」
老人が右手をルイの顔に向けてかざす。
「さあ、君にぴったりの異能だ。」
右手が激しく光る。ルイは眩しくて腕をクロスにして顔を塞いだ。
「......ん?何か変わった.....?」
ルイは腕を解除する。
「君は異能力者になった。【支配戦略】の異能力だ。詳細を説明しよう。異能力【支配戦略】は名の通り支配する異能だ。紙に『支配』や『服従』などと書き、相手にそれを見せる。すると相手はその書いた文字通りになる。とても復讐には強い異能だ。」
「そ、そんな、あるわけ...」
恐怖で言葉に詰まる。それは、老人にどこか、説得力があったからだ。
「どうした?否定しないのか?まあ、誰かで実験してみるといい。儂には見える。君のメールに偽物の告白文が届くことを。」
そう云って老人は去っていった。その後、ルイのスマホから通知音が鳴った。
スマホを確認してみるとそこには――「付き合ってください」とメールが来ていた。
ルイは背筋が凍るような寒さを覚え、帰宅路を走った。
―異能と引き換えに寿命10年とられていると知らずに―
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「ただいま」
ルイは扉を開けて云った。その声には、まだ震えが残っていた。
「おかえり!!」
母の返す声が聞こえる。父とは離婚しており、母が一人でルイを育ててきた。
「あの、お母さん。」
「何?」
「僕さ、学校でいじめられてるんだよね。それで―」
「え!!?なんでいじめられてるの?誰に?ねえ?なんでルイがいじめられないといけないの?何かしたの?ねえ?なんでもっと早く云ってくれないの!!」
くい気味に早口で云った。そして、涙を浮かべた。
「は、話最後まで聞いてよ...僕は大丈夫なんだ。でも、僕をいじめてくる人たちにさ、将来そんなろくでなし大人になってほしくないんだよね。だから、"つかまってしまったら"ごめんね。」
「え?捕まる......?」
母は信じられないように繰り返した。
「そう、復讐するから。けど、捕まらないようにするし大丈夫だよ。今の警察なんて異能力にかかれば弱いと思うし......けど、捕まったらごめんね。今までありがとう、大好きだよ、お母さん。」
ルイは自然と涙を浮かべていた。
「ねえ、ねえ、行かないでよ!まだ、できてないことたくさんあるのに...まだしたいことたくさんあるのに!!」
母は涙を流して必死に訴える。が、ルイには通らなかった。
「まだ捕まると確定したわけではないから!」
ルイはなんとか言葉を出した。
ルイはスマホを開き、告白の返信文を打っていた。
<今から送る文字を、よく見てね。>
ルイが送信する。相手から秒で既読が付く。
<うん>
<絶対服従>
そうルイが送った。そして続けて<正直に言って。>と送信した。
すると相手から嘘だというものと指示された旨の文が送られてきた。そして、通話がかかってきた。
「もしもし」
ルイが通話に出る。
<もしもし、あのね、今までずっと黙ってきたけどこんなことしたらだめだと思ってたの。でもね、私もいじめられるかもと思ってずっと謝れなかった。ごめんなさい。>
くらめの声で相手が云った。相手の名前は―ナナと云ったか。
「あ、うん。今から言うことをしてくれたら許すよ。」
<なんでもする。言って>
「死んで。」
酷く低く暗い声で云った。
<分かった。今ビデオ通話にするから死ぬとこみててね?>
ナナはすぐに諒解し、ビデオ通話に切り替えた。
ルイは驚いてすぐに「嘘だよ!」と伝えた。
「ごめんね。僕と正式に付き合ってくれるかな?そしたら許すよ」
ルイの口調は明るくなっていた。
<分かった。いいよ。これからよろしくね>
ナナはそういうと通話を切った。
「この異能......いつまで続くんだろう...」
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翌日
「おはよう。皆」
ルイは堂々とした姿勢で教室に入る。
「おい、何威張ってんだよ。ぶん殴るぞてめえ?」
リュウが胸倉を掴む。
「殴れよ。」
ルイは平然と言い放つ。ルイは登校中に自分に攻撃力アップと回避力アップの能力をかけていた。そのため全く物怖じせずにいる。
「う....んっ!」
リュウは一瞬躊躇ったが右手で左頬向けて拳を放つ。が、ルイは頭を後退させ、拳を回避する。
「な....」
リュウは驚きの表情をあらわにしながらもう一度殴りにかかる―が、それをルイに止められ、胸倉を掴んでいる手をルイが力づくで離す。
「その程度か?」
ルイが挑発をかける。
「このっ!!」
ジョウが蹴りをかます。しかしルイが瞬時に回避し、蹴りをよける。ジョウの蹴りは壁に衝突する。
すきだらけになったジョウの体をルイが突き飛ばした。
「イタっ!!てめっ」
ジョウが言葉のすべてを言う前にルイが腹に一発拳を打ち込む。続けざまに肘で背中を打つ。
「やめろ...!!」
ルイは紙に『支配』と書かれた紙をジョウに見せ付ける。ジョウの目は生気を失ったようにくらい目をした。しかしそれはルイにしか見ることができなかった。
「続きは全員揃ったときだ。それまでは争わない。」
ルイが言い放つ。リュウが殴りかかってくるが、ルイに支配されたジョウがルイを守った。
「友達を傷つけたくなかったら。の話だけどね。」
ルイはそう付け足して笑みを浮かべた。
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クラス朝礼
ルイはこのタイミングを待っていた。クラス全員が揃っており、また、いじめられる瞬間を。
「おい、菌ルイ。今日はやけに元気じゃねえか?」
この呼び方は・・・リュウタだ。
「ん?だって今から君たちが僕のいいなりになるんだもん。」
ルイはそう云って微笑んだ。今日のルイにはとても威圧を感じさせていた。
「お、おう....じゃあ、一発殴ってやる!!」
リュウが腕を振り回して拳を放つ。
「みえみえだよ。」
ルイは平然と言い放つと、下に避ける。そして、目の前を殴った。――金的だ。
リュウは悶絶する。
「て、てめぇ~~!!!」
他の奴等がルイに集団で攻撃を開始する。
「異能力、支配戦略 覚醒!」
ルイがそう叫ぶと紙に『覚醒』と書いて自分の顔に向けて翳した。
「何してんだ!」「気持ち悪い!!」
どんだけ罵声暴言を浴びようがもうルイにはどうでもいいように感じた。
そして覚醒された攻撃力で次々と倒していった。
「お前、なぜ...そんなに...」
ユウが云った。
「みて分かるとおりの異能力だ。それが俺の仕返しなんだよ!!」
ルイが叫ぶと女子たちがドアへ向かう。しかし、鍵の部分をルイが破壊しており、窓を開けて出るしか方法は無かった。しかし廊下へでる窓付近はルイとの戦闘でとても近づける状態ではなかった。
ルイが黒板へ移動して『絶対服従』とすばやく書く。
それを見たクラスメイト、担任が次々とその場で立ち尽くす。そして、放心状態となった。
「これで、一件落着。後は、僕がやりたいようにやるだけ。皆は黙ってて」
ルイがそういうと皆は頷いた。