手合わせ
鳥の仮面を被った男に連れられ演習上のようなところへ行く。
あたり一面木々が生い茂っていた。そこにぽつんとした平地があるような感じだった。
「ルール説明をしよう。俺に攻撃できたら、または殺せたら合格だ。逆に戦闘不能状態になったら君たちの負けだ。」
仮面でくもった声で説明する。
「俺は【不死鳥】の異能者だ。死にはせん。とりあえず勝負!」
男は仮面を外す。第一印象はとても好青年っぽい。よくある髪型にきりっとした眉毛、いかにも暗殺のいろはを教えてくれそうな人だった。
「異能力、雪舞!」
夜雪が叫ぶと雪が降り始める。雪が降っている一帯はもう夜雪の異能範囲内だ。
「ほう、雪にでも消えて暗殺する気か」
「はっ!!」
夜桜が声をあげてナイフを喉元めがけ突き刺す――が、そこに鳥仮面の姿は無かった。
「すばらしいね!気配を殺せてるけど殺気だけはムンムンと伝わってくる!」
いつの間にか夜雪の後ろに鳥仮面男は移動していた。
鳥仮面男――夜不はすばやい動きで夜桜に接近する。
夜雪の雪鋭槍もなんなくこなし、夜桜の後ろに周りよくある人質の体勢になった。
「戦場では、か弱そうな女が狙われる。夜雪、君が守れなかったらこの子は死んでいた。」
夜桜の喉元にナイフを突きつけて云う。その声には感情が一切無かった。
「このっ!!」
夜雪が短く叫び殺意を夜不に向ける。夜雪がとてつもない殺気を放ちながら夜不に近づく。そしていつの間にか持っていた拳銃をつきだし、夜不を撃とうとした。が、夜不は夜桜と共に銃のあたらない方向へ側転するようにして転がる。側転したときの足でそのまま拳銃を蹴り飛ばす。拳銃は発砲されることはなかった。
夜桜は負けじと夜不のあごに肘うちをかます――が、それも見切られ夜桜は人質体勢から解除された。
夜不に向けてすぐさま拳銃を向ける。が、そこには夜不はいなかった。
「ぐわあぁっ」
夜雪が声を上げる。それは夜雪が夜不に蹴り飛ばされていたからだった。
夜不が蹴り飛ばされた衝撃で飛んでいるところを走って追いつき、さらに追い討ちをかけた。
夜雪が木に衝突する。すると、木に衝突したところから火が噴いた。
「ぐああああぁあ!!!」
夜雪は燃える背中を異能力で瞬時に鎮火させた。実際、この火は一瞬噴かれるだけで燃焼が続くわけではないのだが夜雪の行動は正しいと云えた。
「火を噴く仕掛け......」
夜桜はより気持ちを引きしめ、気配を、殺気を消し、夜不に向かう。
「できれば顔を傷つけたくはないのだが......」
夜不は悲しそうに呟くと、突進してくる夜桜の顔面をけりつけた――と、思ったがそれは空振りに終わった。夜不自身もまさか回避されるとは思っていなかったらしく驚きの表情を浮かべていた。
しかしそれは一瞬に終わった。夜不は瞬時に夜桜が頭を下げたのだと理解し、蹴った足を瞬時に高さを変えて軌道はそのままに後ろに振った。
見事に夜桜の顔に命中した。夜桜が衝撃で右方へ飛ばされる。木にあたらないように受身をとり、体制を整える。
「夜桜、君はどこかで武術を習ったか?近接戦闘に長けている。」
夜不が頭を搔きながら云う。
その直後、夜不のわきを雪鋭槍が通過した――正確には雪鋭槍の気配を感じ取って瞬時に左に移動したのだが。
夜不は雪鋭槍を素手で掴む。そして雪鋭槍を一種の柵のようにして勢いをつけて夜雪の方向を向く。
そして雪鋭槍を蹴り、加速して夜雪に飛び掛る。
「あたると......いいですね。」
夜雪がそう云って笑うと雪化して夜不の攻撃を受け流した――と油断してしまった。
夜不の腕は異能によって蒼い炎が纏われており、異能力の弱点をつかれ、異能化が効かなかった。
「戦場では、油断は禁物だ。第一、異能で戦闘をすること自体ないのだがね」
夜不はすこし厳しい口調でそう告げた。
夜雪はまたもや木に衝突する。そして木が発火する。夜不は夜雪の首をつかみ木に押し付ける。
夜雪はずっと発火に晒されていた。とてつもない熱さ、呼吸がまともにできない苦しさ、夜雪の意識はどんどん薄れていった。
夜不は敢えて夜雪だけを狙って攻撃していた。夜桜を無視して。
―ヒュッ
空を切るような音がしたかと思うと、夜不の腕を夜桜の右腕が押し、右手に持っていたナイフを夜不の心臓めがけて突き刺した。
夜不の手は夜雪の首から離れた。そして心臓部に向かってくるナイフを瞬時に把握し、異能を使い、ナイフをとめた。
心臓部には蒼い炎が―ところどころオレンジの色の炎が―まとわり付いていた。
そしてナイフはそこを刺していた。夜不に刺さった感触すらない。
「なかなかやるじゃないか?」
夜不が夜桜をつかみ、木に向かって投げる。
夜桜の体が身軽だったため、すぐに木にとび衝突する。そして木が発火した。
「..........っ!!!!」
夜桜はうつ伏せに倒れる。背中が燃焼する。
「は.....」
夜雪はその光景を見、呼吸を引くようにして云った。
夜雪の体中に雪の結晶が浮かび上がってくる。
「う、うぅううおぉぉおおおああぁぁぁぁああああ!!!!!!」
夜雪が怪物のような声をあげると瞳の様子が普通とは明らかに異なり、猛吹雪が降る。
夜雪に雪の布が集まる。夜雪の瞳は紅く染まり、少しではあるが光が出ている。
「これは...異能力の暴走......」
夜不が驚きの表情を浮かべながら一歩下がる。
「はぁ、はぁ、ぐあああぁぁぁああああああ!」
夜雪が頭を振り回し、夜不に突進してくる――という残像だった。
「うっ」
夜不が短く声を出す。いつの間にか夜雪が夜不に接近し、殴っていた。その拳は強化されており大変重かった。
―この攻撃を無抵抗にくらえば確実に木に衝突する、異能含め抵抗すれば...木に残り1cmで衝突せずに耐えられる!
夜不が攻撃をくらいながら頭で分析する。
「応答せよ!こちら夜不!応答せよ!!」
夜不が耳に無線機をつけて云う。
<こちら無線応答室。コードナンバー3029。ご用件は?>
無線対応の人が出る。
「夜雪が異能暴走を起こした!!医療班の救援を求む!!」
夜不は夜雪の雪矢を交わしながら、木に当たらないように徐々に前へ出る。
<諒解。推定1分で到着すると思われます。>
相手が淡々と答える。
「ありがとう!通信終了する!」
夜不が無線を終了したころにはもう医療班が到着していた。
「おい、これはどういう状況だ!」
夜繧が背中に常備している剣を抜く。
「どうもこうも夜雪が暴走してるじゃないか。」
夜晶が愛用ナタを構え云う。
「異能力、死の病室!」
夜繧が異能を使い、異能空間を展開する。半円球状の空間が広がり、夜雪らを巻き込む。
「放射線刃!!」
夜繧の手に大量のレーザーが集まりナイフの形を作る。夜雪の脳にナイフを刺した。
夜雪は全身が痙攣し、異能暴走がとまり、気絶し、倒れた。
* * * * * *
「全く、迷惑かけるね。」
夜晶がため息を吐いた。
「原因はなんとなくわかった。」
夜繧が夜不のもとへ向かう。
「おい、夜不。夜桜に何をした?」
夜繧の口調は少し強くなっていた。
「どうした?急に。でも、夜桜が仕掛けによって燃えたときからおかしくなっていたな....」
夜不が顎に手をやり、考えるしぐさをする。
「それだ。おそらく夜雪は夜桜が好きなんだ。だから夜桜が傷を負うとどうしても怒りやすくなってしまう。」
夜繧の話を少し離れたところで聞いていた夜桜は顔を赤らめていた。
「なるほどね......」
夜晶が来て云った。
「おい、あいつがまた異能を渡したそうだ。」
医療班青服隊長が云った。
「何っ!?」
夜不と夜繧は声をそろえて云った。
各部に一話ってなってるんですが他の方の見てみると第一部に何話か、ってなってますね・・・・・・
第二部にまとめれないので各部一話にします!
そして一章完結です。次回から第二章が始まります。