一搭両断
バベルは左手を再生し、強重力を両手に張る。
雪護霊兵は巨大雪鋭槍を右手に持っている。
「いざ、尋常に・・・勝負!!」
バベルがそう声を上げると夜雪は巨大雪鋭槍を突き出した。
バベルが手で雪鋭槍をとめる。
「オモイ、...オ、モイ....」
「これが私の重力だぁ~!!」
夜雪は雪鋭槍を左手にも構え、バベルの顔を突く。
「なかなかやりおる、だが、きかぬわ!!」
バベルは魔法陣の中心から紫の布のような刃を夜雪にむけて放つ。
「アタラナイ!!」
雪護霊兵はかがみこみ、バベルに突進した。
バベルは「面白い!」となおも賞賛の声をあげながら、その突撃を止めた。
夜雪が押し込み、バベルが耐える。一子一帯の激しい攻防が続く中、夜桜は搭の50階で巻き込まれないように隠れていた。銃を構えて。
夜雪はバベルの重力の張られた右手を掴み、振り回した。
右手が中心となり、回転のスピードがどんどん上がる。
「目が、目が回るぅ~~~~」
夜雪がバベルを離す。
バベルが搭に衝突する。搭は崩壊することはなかったが、全フロアの窓ガラスが衝撃で割れた。
「モウスコシ、オマエ、コロス、ノ!!!」
夜桜はその夜雪の姿を見て、銃を構えるのをやめた。代わりに剣を抜いた。
「やってやる。」
夜桜は決心して50階から飛び降りた。
バベルは夜雪に掴まり地面に叩き付けられる。雪護霊兵の体を雪化粧でさらに強化する。夜雪の最大限の力だ。
「クラエ、メテオォオ!!!!」
夜雪はバベルの首を掴み上から下に突き落とすようにしてとび、下にぶん投げた。
夜雪は搭の頂上部から繰り出したのでバベルは搭を壊しながら地面についた。
「まさに....一搭両断...だ......」
搭を全壊させ、異能覚醒が終わり、人間体になったバベルが呟いた。これが、バベルの最後の言葉だった。
その後、夜雪は覚醒状態を維持できず、技を繰り出した直後、人間体に戻った。夜桜がうまくキャッチしたが、肩の痛みがまだとれずしっかり支えることができなかった。
「大丈夫だよ...夜桜さん...僕は一人でも立てます...」
夜雪は苦しみながら言うと立とうとしたが夜桜がそれを制した。
「無理しないで。がんばったんだから。暗殺成功だよ!」
夜桜はそういってうれしそうに笑った。
夜雪はバベルの言うとおり、ツンデレな場面があるのだなと感じたのだった。
「ほぉ~あのバベルを倒すとは...やるね、新入り!」
搭付近においしげる木に隠れながらひょっとこのお面を被った男が言った。
* * * * * *
Dark Night本社 首領室
「何?バベルを倒した?あの新人二人が?そんな馬鹿な...うそだろぉ?」
天夜の側近、蓮がおおげさにリアクションをとりながら言った。
「それが本当なのが驚きですよね~」
ひょっとこのお面を被った男がお面を外しながら口にした。
「蓮、彼らの可能性にかけてみないか?」
天夜が落ち着いた口調で言う。
「ちぇっ。つまんねーの。そこはやっぱり俺は2000万くらいあいつらに賭けるかな。」
蓮は指で2と0を作った。
「では、後はお二人で....」
お面の男が去ろうとしたが蓮に「君も賭けてけ」といわれその場に留まった。
* * * * * *
「おい、青服たち、早急に手当てをしろ。」
茶色のドット柄が特徴的な白のキャスケット帽を被った男が夜雪らを指しながら言った。
「了解しました!」と青服と呼ばれた青い服を着た集団が夜雪、夜桜の元へ行った。
「おいおい、なんで私は呼ばないんだい?」
髑髏の髪飾りに黒の手袋、黒のネクタイに白の服を着た女が口の周りを舌で一周なめて言った。
「きたか、ドS女医。お前の異能力はとても不便だ。俺が青服らのほうが早くて助かる。」
ドS女医と呼ばれた女はため息を吐いた。
「えぇ?お前の異能力もずいぶんと面倒だろう。異能発動中は体力が減るなんてなぁ~。ねえ夜繧。」
夜繧と呼ばれたキャスケット帽を被った男はドS女医の言葉を無視した。
「おい夜晶、夜雪というやつは異能力者なようだが、」
夜繧は急に名前で呼び出した。それに反応してドS女医―夜晶はさきほどまでの表情とは違い、真剣な表情になっていた。
「そうさ、夜雪は雪の異能力者さ。それがどうしたんだい?」
「異能力【雪舞】。あの異能には覚醒段階と暴走状態が存在する。そして氷の異能力とは上下関係にある。雪と氷の異能力者が協力すれば大変強いだろう。だが、敵対すれば一部の地域のみ氷河期になりうる可能性がある。異能力の格差点だ。」
「へぇ~氷の異能力ね~......ここを抜けていった彼しか思い浮かばないね~。」
「そうだ。彼はいま政府関係者になっている。情報屋からのリークだ。いまは敵対関係にある。それにBLAZEがばれるといろいろ厄介だ。マフィアと政府、どう考えても協力することはああなること以外考えられないだろう。」
「そうだな、とりあえずこいつらを治療しなくていいのか?」
「治療はする。いままで何人もの暗殺部隊希望者を返り討ちにしてきたバベルを倒すとはな....」
夜繧が誰にともなく独り言ちると青服らのもとへ向かった。
「まあ、あのバベルの特に強い覚醒状態を倒すのはいままでいなかったから優秀なペアだろうな」
夜晶も青服らのもとへむかった。
「異能力、死の病室!」
夜繧が手の甲を上に向け指を垂らすような形にすると手の中から半円の空間ができた。そこはまわりとは色が違い別空間だと一目瞭然だった。
「異能力、オペ開始!」
夜晶の手を囲むように異能の光が円を作る。
その円を夜桜の短剣がさされたところに当てる。するとブゥーンという音がしてすぐに治った。
続いて夜雪は夜繧が異能で治療を施した。夜繧と夜晶は医療系の異能力なのだ。
「さすがだね~夜繧。私の即治療にも負けない速さで治療しちまうなんてな」
「そんなことより目の前の患者に集中しろ。まだ治ったとは言えないだろう。」
夜繧らがそうしていると、夜雪と夜桜は意識を取り戻した。
「おや、元気かいお嬢ちゃんと坊主。」
夜晶が話しかける。
「ん・・・・ここ・・・は.....?」
夜雪がうっすらと目を開ける。
「病室だ。いま青服らが治療してたところだ。」
夜繧が伝える。
「とりあえず本社に戻るぞ。」
夜繧が全員を本社の医療班室へとテレポートさせた。
「とりあえず首領のところへ行きましょう。」
青服の一人が言った。
* * * * * *
首領室
「君たち、よくやった。」
天夜は夜雪が入社したときの姿勢で言った。そしてなぜか夜雪の隣にはバベルがいた。
「あ、あの~...なんでここに......」
夜雪が恐る恐る聞く。
「暗殺部隊試験相手だ。君たちはバベルを倒した。合格だ。これで君たちは晴れて暗殺部隊だ。」
一気にたくさんの情報が入りすぎて夜雪はオドオドしていたが夜桜は理解したのか冷静に「ありがとうございます」とだけ言うのだった。
「私をどんな方法でもいいから殺さないと暗殺部隊には入れないからね。まあ、僕は"彼"のおかげで無事なんだけど。」
バベルはとてもうれしそうな顔をしていた。まるで、自分を殺す者を久しくみたような。
「バベルはいままで暗殺部隊の試験相手として搭の主としてたくさんの暗殺部隊希望者と戦ってきたがその誰もがバベルに返り討ちにあっていた。そんな中で君たちはバベルを倒した。それもより強力な覚醒状態を。君たちはすばらしい。その能力を一瞬のうちに発揮し、対象を一瞬で暗殺できるととても良い。が、そうなるまではせいぜい13年ほどかかる。相手が抵抗してきたり強かった場合な。暗殺部隊のベテランたちは気配を殺し、相手が気づく隙も与えず一瞬で殺す。バベルも試験相手をやめれば1年くらいでそうなれるだろうな。君たちはこれから正式な暗殺部隊となる。先輩たちの指示、暗殺部隊のルールに従い努力せよ。」
夜雪と夜桜は「はい!」と返事をし、蓮に誘導され暗殺部隊拠点へと向かう。
「緊張するね。」
蓮が去った後夜桜が夜雪に向かって言った。
「う、うん......とても不安と恐怖が襲ってくるよ......」
「扉の前のお二人さん、入りなよ。」
扉の奥から声が聞こえる。
二人は扉をノックし、夜雪先頭に入っていった。
「あれ....誰もいない......」
夜雪が部屋を見回す。
「いた。」
夜桜が部屋の机の下を指差した。
「一人目発見!」
机の下に隠れていた暗殺部隊の人が言う。
「あとは机の上に乗っている。それと―」
夜桜は次々と隠れている場所を当てていった。
「すばらしい!!なぜそんなにわかるんだ?」
暗殺部隊の一人が聞く。
「私には感じる。あなたたちの気配が。微かだけどあなたたちから発せられるオーラや覇気、気配が見えるの。」
夜桜は淡々と答える。
「ふ~、びっくりした。」
夜雪が不意に声をあげる。それは夜雪の喉元にナイフが突きつけられていたからだ。
それを夜雪が触れる瞬間に回避した。
「君たち二人は一体何者なんだ?とても優秀な二人ではないか!」
暗殺部隊の一員が手を広げた。
「君たちはとても優秀なペアとなるだろうな。私は暗殺部隊隊長夜剣だ。これから暗殺部隊としての心得と技をできるだけ叩き込む。実際に任務に飛べるのは最速でも二年だろうな。夜桜、君は"霧"の能力がある。我々の気配を感じ取ることはそう易々とできるものではない。霧の能力をさらに高めれば"念"という能力になりえる。ここで霧と念について話をしよう。まず霧とは何か。これは気配や覇気を"感じ取る"ことができる能力。そして念は一種の念力のようなものでその気配や覇気を自ら使えるようになるというものだ。簡単に言うと霧は感じる、念は使用するというものだ。夜桜は霧の能力に長けている。それを私は伸ばしたい。そして夜雪、君は隠密能力が高い。君の場合は念をすぐに習得できそうだ。がんばれよ。」
そう云って二人の肩に手を置いた。
「まずは、俺を殺してみろ。」
鳥の仮面を被った男が云った。