エスナ入社試験
「ふぅ~」
首領と書かれた扉の前で彼は一息吐いた。
彼は緊張した面持ちでドアを二回ノックする。
「どうぞ」
ドアの奥から返事が来る。
「あの、暗殺部隊希望の、え、エスナといいます」
緊張で声が震える。彼―エスナはマフィア、Dark Nightの暗殺部隊に入隊するためにDark Nightの首領―天夜の部屋に行っていた。
「暗殺隊ねぇ...暗殺隊は相手に気づかれずに瞬時に対象を殺すことが必要だが大丈夫か?」
天夜は肘を付き手を組み手の甲にあごを乗せた。
「しゅ、瞬間ですか?は、はい。いけると思います。」
そういってエスナは深呼吸をした。
「私と話すだけでその緊張だったら、現場では役たたずになりかねんぞ?」
天夜が微動だにせず言った。
「そ、その点にか、関しましては、僕の異能力で補うつもりです」
「異能力...?君は異能力を所持してるのか?」
天夜は申請書を見たときに知っていたがあえて聞いた。
「は、はい。異能力【雪舞】という異能を持っています。」
「では、見せてもらおうか?」
「わかりました。」
エスナがそういうと部屋にどこからか雪が降ってきた。
「異能力、雪舞 雪鋭槍!」
エスナの後方から雪の鋭い槍が出現した。そしてその槍は無防備な天夜に向かった。
「不意打ちとは、面白い!!」
天夜がそういうと睨みひとつで雪鋭槍を止めた。
「なかなかの異能力じゃないか。君は異能力を使うと人が変わったように恐ろしい目になる。」
「あ、ありがとうございます。」
異能を解除したエスナはとても汗をかいていた。
「仮だが、暗殺部隊に入れ。戦績によって正式に入るか否かを決める。暗号名は夜雪だ。」
天夜が先ほどの体勢を変えずに淡々と言った。
「あ、ありがとうございます!」
「とりあえず暗殺依頼だ。」
天夜は依頼書を渡すと、エスナ―夜雪は部屋を出て行った。
* * * * * *
依頼の場所は山奥にそびえる塔の主だった。
主の名を―バベルという。
「ここか...」
夜雪は依頼書に書かれた地図を見て独りごちた。
夜雪は迷うことなく搭へと正面入り口から入っていった。―異能を発動して。
搭の中はとても暗かった。照明もなく窓もあるがそこからは日が差さず、ただ階段の形しか見えなかった。
しかし、異能力【雪舞】のおかげで階段の段程度は見えるようになった。
夜雪はばれないように足音をたてず、息を殺して階段を登った。
「ん...?」
夜雪が後ろから人の気配を感じ歩みを止める。
「なかなか大胆な方法できたな、新入りよ」
骸骨のマスクを被った男が手を広げて笑った。
夜雪は異能を用いて男の後ろに移動する。
「あなたがバベルですか。搭の主の。」
夜雪がそういうと男の首を渾身の力で絞めた。
「なかなか大胆で面白い。これが暗殺といえるのか。心配だ。」
男は何も苦しいそぶりを見せずたんたんと言った。
「っ!!」
夜雪が後方へ飛ばされる。派手に搭の壁に衝突した。壁が崩壊し粉塵が舞う。
「まるでお前の異能のように美しい搭の破壊の粉塵...長年搭の主として私を殺そうとするものを見てきたが君が一番私を楽しませてくれた。だが、これでは試験に不合格だ。さあ、"暴力"の効かない私をどうやって殺す?」
男―搭の主バベルは楽しそうに笑った。
「それは、心臓を貫いてひと思いに殺す!」
夜雪がそういうとバベルの心臓部を雪鋭槍が貫いた。
「ぐぬっ....」
バベルが苦しそうに倒れる、と思いきや雪鋭槍を自力で抜いた。
「これしきで私が殺せるとでも?」
バベルが平然と言い放つ。
夜雪は一瞬で感じ取った。この主は数多の修羅場をくぐりぬけていると。たくさんの暗殺者をことごとく返り討ちにしていそうなものも感じた。
その夜雪の感じたものは正しかった。バベルが右手を巨大化させ、夜雪に殴りにかかる。夜雪はあわてず冷静にかわす。
「鎌倉!!」
夜雪がそう叫ぶと搭の一階を囲むように鎌倉が形成された。
「この範囲内では僕のほうが有利です。形勢逆転ですね。」
そういいながらも夜雪は警戒していた。こんな状況何回もくぐりぬけているのはわかっているからだ。
「それは恐ろしい。でも、私の異能力【エ・テメン・アン・キ】に勝てるかな?」
当然、バベルも異能者だ。異能力【エ・テメン・アン・キ】は搭の中であれば自身を自由に強化できる異能だ。しかし、攻撃力、俊敏さなどのステータス系はあがらない。
「あなたの異能力と僕の異能力の勝負ですね。」
夜雪がバベルを見据え言う。
「私の異能に似ている...これは異能力のシンギュラリティが生まれるかもね...」
バベルが右手を巨大化させ、夜雪を襲う。しかしそれを夜雪が雪でふさぐ。
雪の壁は一瞬で崩壊したが夜雪はバベルの巨大化解除の隙を狙って一瞬で間合いをつめる。
が、バベルはそれを見逃さなかった。
「小癪なぁ~!!」
バベルが夜雪の後ろへ地面をすべり移動する。
「異能力、雪舞 雪鏡華!」
鎌倉の中に大量の鏡が夜雪らを囲むように出現する。「これで終わりだ、逃げられない!」
夜雪が雪弾を鏡に飛ばすと鏡がそれを反射し、別の鏡がそれをまた反射する。この繰り返しでどんどんどんどん威力と速さが増していく
「何っ....?!消えることのない雪弾か......面白い、とめて見せよう!!」
バベルが雪弾を交わしながら言うと雪弾のほうに向き両手を巨大化させ構えた。
夜雪はその隙を狙って雪の中に消えた。
「隙だらけなんだよっ!」
夜雪はバベルの頭上に移動して雪鋭槍を大量に構えた。
一方バベルのほうには大量に反射して強くなった雪弾が向かっていっていた。
「うぉおおおおおおおお!!!!!!!」
バベルがタイミングを合わせ両手でつかみにかかる。
雪弾をバベルがつかみ、両手の巨大化を解除しようとした瞬間、大量の雪鋭槍がバベルを頭から貫いた。雪鋭槍を抜くとバベルは倒れた。
「ふぅ~、なかなか厳しいな...」
夜雪は決して油断することなく雪に溶ける。
「なかなか強いじゃないか......いままでで一番楽しい相手で間違いではないようだな...暗殺者としてはこの戦闘の長さはアウトだな。」
バベルがそういうと鎌倉が崩壊した。「私は搭の頂上、50階へ行く。そこで再び対決だ。正面からどうどうとくることを祈ってるよ、君のことだからな。それまでにはたくさんの刺客と対決する必要がある。せいぜい死なないようにがんばれよ...」
バベルはそういうと一瞬で頂上へ移動した。
「一階一階登っていったら途方もない時間がかかってしまう、一番時間がかからず早く50階へ行く方法は...50階に飛び入ること!」
夜雪はそう独りごちると搭の外へでた。
夜雪が異能力を発動し一気に搭の壁を登る。すると夜雪が通ったところに次々と銃弾が打ち込まれた。夜雪が雪の防御壁を張りながら後ろを振り返る。
すると謎の女がマシンガンを夜雪に受けて撃っていたのが見えた。
―勘違いか。
夜雪が搭の壁を思いっきり蹴り、地上へ降り立つ。
「私は夜桜。あなたが搭の主、バベルかしら?」
和を感じさせる桜を彩った紫の着物を着た女が拳銃を夜雪の眉間に向けて言った。
―やっぱり勘違いだ....