第96話 操神・カラクリ
第96話 操神・カラクリ
「え?霧子まだ来てないんですか?」
霧子を探しに教室に行くと、そこに彼女の姿はなかった。
(やっぱり体調あまりよくないのかな、連絡くらいくれてもいいのに)
ふと窓の外を見ると、山の向こうに暗い雲が立ち込めていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ほんとに一人で来るとはなあ」
「…一人で来いと言ったのはそっちだろ」
「いつからそんな口を利くようになったんだ…お兄ちゃんは悲しいよ」
「お、お前は…!!私の兄じゃない…!」
肩を震わせながら、雫に、雫の顔を持つ怪物に言い放つ霧子。
「お前の目的は何だ」
「いいのかな?君が、交渉人である君が俺に盾ついて…」
「…っ!!やはり…」
「あぁそうだよ」
霧子が唇を噛む。
「俺が操神・カラクリだよ」
その名は、かつての雫の憑神であった。
「なぜ…!なぜ私の兄を…!兄の仲間を…!!」
「…雫は面白いやつだったよ、人間にしてはね」
「…お前は現在神界からも追放されている」
「やーそうみたいだな、困った困った…ま、俺は血族神だからな、その立ち位置に興味はないんだよな」
「っ…!あの事件の疑いですらあなたの父上はひどい罰を受けたのに…!」
「あー親父?苦手だったんだよなあほんと、そもそも、あの事件が起きたら真っ先に俺を疑うべきだろ」
「…疑われたのは私の兄とその憑神であるあなた。ただ何の証拠もなかった…!兄以外の何人かの体のパーツも無くなっていたから…!」
「あぁあれな!あれが一番スリルあったよ!!」
「何の話を…!」
「あれはなあ、無かったんじゃない、捜査隊が見つけられなかっただけなんだよ!」
「…は?」
「そう、捜査隊がいなくなる1週間、あの場所に俺はいたんだ」
「…なんで…!?」
「あの場で俺は捜査隊の視線を操り続けた、見つからなかったんじゃない、『見えなかった』んだよ、『見ようとしなかった』んだ」
「そんなっ…馬鹿な…」
「『ひん曲がってる奴こそ面白い』、それが雫の口癖だったよね」
「…そう言って、危険なあなたの一面を知る周りの反対を押し切ってあなたを選びました」
「…っばっかだよなぁ!それで結局制御できず仲間も自分も、果てには家族まで巻き込んで、カッコつけるのもいい加減にしろよって感じだよなぁ、そう思うだろ霧子?」
「…!」
ぷちん、と頭の中で何かが切れる音がした。
あくまでも冷静にいようと努めていた理性の糸か恐怖によって抑制されていた本能の糸か
はたまた強い怒りで切れた血管か
「…先程私がお前に盾つけるか、と言ったな」
「あぁ」
「答えはYESだ!」
シャツの襟口を開きグエンドリンを呼ぶ。
「神憑変化!!!」
霧子の体が光に包まれ、その姿が変質していく。
「…そうなんだ、いやルール的なことじゃないよ?そりゃ俺は今お尋ね者なわけだし」
変化した霧子を舐めるように見ながらカラクリが言う。
「その程度の力で、まあ人間の体を借りているとはいえ神たるこの俺に勝てると、死なないとでも思ったのか?」
ズズッとカラクリの体から黒い煙のようなオーラが立ち上る。
「来なよ、霧子」
「…ッ!その声で!私の名を呼ぶなァァァ!!」
霧子が兄を討たんと駆け出した。




