第95話 アルバイターの戸惑い
第95話 アルバイターの戸惑い
(アルバイターは…やめられる)
霧子の言葉が自分の中で反芻する。
(もうあんなに怖い思いをしなくて済む)
フープスピアにさらわれた時、エヌリエスの一味に襲われた時、命の恐怖を感じた。
(やめられるのならやめたいといつも思ってたじゃない)
ふと奈美や士郎の顔が浮かぶ
(あれ、どうして私…怖いんじゃないの?)
そして、雅信の傷だらけの背中が、あたりに撒き散らされた血とパーツが思い起こされる。
(私は…やめていいのかな)
真春は布団に潜り込んだ。
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キィ、キィとブランコが音をたてる。
「なあお前らはどうする?」
口を開いた健が尋ねる。
霧子の独白を受けた4人は公園に場所を移し、月明かりの下で話し合っていた。
「私はやめませんよ」
滑り台で遊びながら雅信が答える。
「戦う理由に後ろめたさがあったのは私も同じです、とやかくいう謂れはないですし」
自身も奈美に恩返しをするという理由で命をかけていた雅信。
「私は死ねませんしね」
「お前は…そうか」
自分だけは死なないということに安心感を得ているようにも聞こえるが、戦いのたびに雅信がおっている傷を知る3人はそれが無責任な発言でないことはわかっていた。
「俺もやめないな」
士郎が続ける。
「俺だって退屈な日常に刺激が欲しいなんていう、もっとどうしょうもない理由で戦ってんだ。神城さんの隠していたことは許されるとは言えんが、それがやめるような理由にはならんよ」
「そうか…2人とも」
「俺は、迷ってる」
一郎太が口を開く。
「俺は、俺がこの仕事を引き受けなければ誰かこの高校から別の人間が選ばれるんだと思ってた。それが嫌だった。でも本来は俺らみたいな一般人じゃなくて、訓練された人たちがいるんだろう?じゃあ…俺じゃなくても良かった訳だよな」
俯きながら一郎太が息を吐く。
「別に特別になりたい訳じゃないけどよ、俺にしかできない仕事があるっていうのはモチベーションになってたんだ。たしかに怪我もおったし、危ない目にもあったけどよ、それは間違いなく俺の戦う理由だった…だから、迷ってる」
「俺もまあ、迷ってはいる。どちらかといえば俺は俺の為に戦ってる。昔から金縛りやら、悪夢やら、変なものが見えたり、海に行けば足を引っ張られたりな、とんでもない目に遭ってきたよ。ただそれは…まあ命をかけてまで復讐するようなことではないかもしれない」
健も言葉を紡ぐ。
「それに、もしも、もしも俺が死んだら家族はどう思うかとか、度々考えちまって、怖くなるんだわ」
「それは…そうだよなあ。俺母さんが心配性なのに内緒でこんなことしちまって」
「うちも妹がいるんだよ、少し歳が離れててな」
「俺もまあ親は海外にいがちだけど心配してくれてるのは分かるよ」
「…なおさら危ないことしちゃダメじゃないですか」
『唯一』そういった心配が、残念ながらない雅信が悲しそうにつぶやく。
「…とりあえず帰ろう、明日も文化祭だ。せっかくだから楽しもう」
「おう、あーそーだ」
士郎が振り向きながら健と一郎太に言う。
「もしバイトやめても、仲良くしてくれよ」
2人が目を丸くする。
「こっちのセリフだわ」
「あぁ!また明日!」
4人は家路に着いた。




