第92話 アルバイターの資格
第92話 アルバイターの資格
「いらっしゃいませ…って、お帰りなさい。大丈夫でしたか?」
模擬喫茶店に戻ってきた4人を雅信が迎え入れる。
「ただいま…さっき食べ損ねたやつ出してもらえる?」
「はいはーい、おや、士郎は?」
「あーっと、いま時間大丈夫?」
「…2時で上がりなので今度はお客さんになれますね、少し待っててください」
そう言って調理室に入った雅信は先ほど注文されたメニューを運ぶと自分の分のアイスティーを机に起き、エプロンを解いた。
「さて、すみませんシフトが抜けられなくて、大丈夫でしたか?」
「あー、うん、怪我とかは多分そこまで酷くないんだけど」
「霧子さんの兄の顔をしたあの男が現れて」
「なるほど…」
「霧子さん取り乱しちゃって…その」
「死神憑をしちまった」
「!?そ、そうですか、ってそれは大丈夫じゃないんじゃ、士郎はいま何してるんですか!」
「今帰ったよ…」
「鍵瓜くん!あの、奈美さんと霧子さんは」
疲れたと言った様子で席に着いた士郎が口を開く。
「神城さんは保健室で寝てる、霜村は付き添ってる。俺がついた時にはもう霜村が死神憑を解いておいてくれたよ」
「そうですか…霧子さんの様子は」
「あの人が兄との間に何があったのかは知らない、ただ死神憑が終わった後に、相当弱ってるみたいだったな」
「今日できれば城波神社に行ってイレズマ様に話を聞きたいですね」
「そうだな…あぁ、あと明日から霜村が戻るってよ」
「ほんとですか!」
暗い雰囲気だった中で伊有が声を上げる。
「嬉しいね、伊有ちゃん!」
「ええ!」
「よかったよかった」
「とはいえ、2人目の死神憑ですか。どうなんですかね、いいことには思えませんが」
「そうだな、まあデータの話になるが7年前に1人確認されたきりでそう何人も、何回も起こる話ではないみたいだが」
「とりあえず食えば?」
「あぁ」
そう言って5人は食事を始めるのであった。
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「ん…ここは」
「霧子!大丈夫!?ここは学校の保健室、とりあえずこっちに連れてきちゃったんだけど」
「私そういえば2時半からシフトだったわ…」
「いや動けないでしょう!?何か連絡しとくから今は休みなよ!」
無理矢理体を起こそうとする霧子を押しとどめる。
「ごめんね、心配かけて」
「いいんだよ、こっちこそ。それよりも…」
「うん…あの男が誰か、よね」
「あなたが、私の知る落ち着いた霧子があそこまで取り乱すなんて初めてみた。一体、その、何があったの…?」
「…今日だけでもいいから神社に来てくれるかしら」
「あ、うん。都合がいいようだけど、今日からみんなのところに戻るよ」
「そう…!」
霧子は意識を取り戻してから初めて嬉しそうにはにかんだ。
「ちゃんと、話すわ」
途切れ途切れになりながらも少しずつその目には光が戻っていた。
「たとえ何人か、仲間を失うことになっても」
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「今日は本当にごめんなさい」
文化祭2日目の準備のため来ることのできなかった伊有、彩香、柊と愛羅を除いた8人がいつも通り神社の地下ホールに集まった。
奈美がいる久方ぶりの「いつも通り」である
「敵の姿に取り乱し、自分を制御できず、皆さんにご迷惑とご心配をおかけしたことを謝ります」
深々と霧子が頭を下げる。
その後ろでイレズマが目を伏せる。
「今日わざわざ文化差の楽しい日の後に集まってもらったのは他でもない私と、あの男に関することです
そしてこの話を聞いた後に、みんなのうちの誰かがアルバイターをやめることになるかもしれません」
その言葉にそれぞれが反応する。
たっぷりと息を吸ってから、霧子の口が開かれた。




