第89話 文化祭に落ちる影
第89話 文化祭に落ちる影
「とりあえずグループLINEに送って…!」
走りながらスマートフォンを操作する奈美。
非表示にしていたグループLINEに自身から発言をするのはいつぶりだろうか。
「人が多い…!」
文化祭の一般客でごった返す廊下を抜けながら霧子が溢す。
一体誰なのか、もしや…
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「!?」
「おい士郎、どこ行くんだよ!」
「お前らもスマホ見ろ!いくぞ!」
士郎が柊と一郎太を立たせる。
「ちょっと!この料理どうすんですか!」
「ラップかなんかしといてくれ!後で必ず食う!」
雅信が後ろから飛ばした声に士郎が返す。
「ごめん雅信くん私らも行きます!」
「たべきったので!美味しかったです!ごちそうさまでした!」
「お粗末様でした…」
シフトを外れられない雅信は呆然と、机に置かれた置かれた代金を掴みながら厨房に戻った。
「あれ?お友達どうしたの?」
2年生が声をかける。
「なんかイベントが始まるの忘れてたみたいで…ラップとか使わせていただいてもいいですか?」
「あ、いいよ。はい、坂上くんも少し休憩どうぞ」
「ありがとうございます」
お言葉に甘えて雅信もパイプイスに座り、スマホを開き、目を見開く。
慌てて立ち上がり体育館の方を窓から見やるが、慌てて出て行った5人を思い出し、深く坐り直す。
「今回は任せて仕舞いましょうか…」
ピンチになったら出張れば良い、そう思いながら雅信はエプロンの紐を後ろ手に縛りなおした。
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「いらっしゃいませ〜、迷路ゲーム楽しいですよ〜」
楚とした雰囲気で教室入り口で集客を行う。
その美貌と笑顔に絆された多くの人で廊下はごった返していた。
「あぃ…天海さん!」
その人混みをかき分けて真春が声を張り上げる。
「あら、門矢さんどうしたのですか?」
「これ!見て!」
そう言って画面の「魔力反応あり、可能な人は体育館の二階に!」という奈美のLINEを見せる。
その瞬間
ゾクン
その場にいた人間全員の背筋に悪寒が走る。
「な、なんだ今の」
「いきなりゾクゾクって」
「え、怖いんだけど…」
しかしそれも一瞬、愛羅が微笑むとともに、緊張が溶ける。
「すみません、門矢さん、いま私手が離せませんのでお願いできますか?」
小首を傾げて真春に問いかける。
「え、で、でもあなたがいてくれないと…」
「大丈夫ですよ、あ、いらっしゃいませ。入ったら右手に説明があります」
心配していないと言った様子でお客に対応する愛羅。
「正義の味方が先に行ってるんですから」
閉じた瞼の裏には奈美の姿が映っていた。
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「まさかのこのこ私たちの高校にやってきてくれるとはねえ…」
体育館2階、トレーニング機器が置かれた部屋にいたのは
「な、なんなんだお前ら!」
「あなたは…水泳部の」
一郎太からきいていた先輩の特徴と一致した。
「おやおやこれは…」
そしてそこにいたのは
「兄さんの…姿を使うな!!!外道が!!」
霧子の兄に瓜二つの姿をした、魔道具を流した張本人であった。
「そうですか…」
喉に手をやり、2、3度咳をする。
『霧子、大きくなったな』
その声に霧子の方がピクリと震える。
その一瞬をついて、伸ばした手から
パン
「霧子!!」
『便利な魔道具ですね、この小口径でなかなかな威力』
胸に魔力弾を喰らい、霧子が後ろへ吹っ飛ばされる。
「カハ!ご、ごめん奈美」
霧子の肩を後ろから奈美が支える。
『霧子、友達ができたのか、よかったなあ』
わかってる、こいつは偽物、私の兄を騙る最低最悪の化け物…
『そんな怖い顔をするなよ、兄さんはお前の笑った顔が好きだな』
その言葉に、もう二度と聞けないと思っていたその声に、なんら変わりのないその姿に
「…ふざけるなァァァァァァァァァァ!!!神憑!変化ァ!!!」
爆発しそうな怒りとともに変化をするも、その目からは涙が溢れていた。




