第87話 文化祭だ!
第87話 文化祭だ!
その後も水泳部と弓道部で魔道具を使用する2人を止めることなく、かといってあの男への接触もないまま霧子たちが通う神無野高校は文化祭当日を迎えた。
「どうした、浮かない顔をして」
陽太がクイズ用紙を数える横でボーっとしている霧子に声をかける。
「…あっ!ご、ごめん!!」
慌てて景品のお菓子を正解数ごとの箱に仕分ける。
「…やっぱり犯人が見つからないのが気になるか」
「…うん。先輩は今どんな感じ?」
「調子はどんどん上がってるみたいだな。やばそうな感じはしないし、魔力反応が増えるとか、体にまで魔力が流れ込むとかのトラブルは今んとこない」
「そう…」
「ただ、このままいけば8月の県大会で団体戦のメンバーになる。その前にあの魔道具が外されたら…」
「本人はどんな気持ちになるかしら…」
それを使っている以上責任は生じているかもしれないが、彼らも被害者である。魔道具によって上がった身体能力はそれが外されて仕舞えば元どおりだ。
そして抑えてはいるものの、神に憑かれたものである自分たちは常日頃から強化された身体能力を備えている。交渉という大義名分の元にそれを認めて、恐らくは例の男から渡された魔道具を使用する彼らからは回収を目論む。
しかも現状その犯人への筋道を探るために、自分達の利益のために、使えば使うほど深みにハマるであろう魔道具の使用を野放しにしている。「正義」を信条とする奈美が聞いたらどんな顔をするだろうか。
「…文化祭が終わったら、なんとかして回収するわ」
「…大会は出さしてやれねえよな」
「……金谷くんはそのままにしたほうがいいと思う?」
「そんなわけはない!…が、先輩が努力してたのも知ってるから…かといって他の先輩やもちろん一年だって頑張って練習してるわけだし…」
「悩むところよね…」
「それにしても犯人は尻尾を出さねえな」
自分の、既に亡き兄に似た人物。自身が交渉人になった理由、自分が超えたい相手
そして、誰よりも憧れた相手
「必ず、見つけ出して報いを受けてもらうわ」
バキリ、と霧子の手の内で景品のチョコレートが砕ける
「…お、おう」
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「お化け屋敷いかがですかー!怖いですよー!!暑い日にぴったりー!」
柊が声を張り上げる横で
「ストラックアウトやりませんかー!どんな得点でも必ず景品差し上げまーす!」
彩香も負けじとお客を呼び込む。
「いやあっついぞ中は…」
脅かし役のシフトとなっている一郎太が苦言を呈する。
「ほんとよ…」
同じく幽霊役の真春が交代のためダンボールで作られた壁の裏に入ってくる。
「お疲れ様門矢さん!」
「いいえ、少し他のクラスを見てきます」
他の女子に白い衣装を渡し、教室の外に出て行く。
「あら!こんにちは!真春さん!」
自分の名を呼ぶ声に振り向くと
「愛…あっと、天海さんこんにちは」
猫かぶりモードの愛羅がそこにはいた。
「シフトは上がりですか?よろしければ一緒に回りません?」
違和感に笑いそうになるのを抑えつつ、頷く。
そして「そういう風」にしていれば凛としたお嬢様に見える愛羅の横に立つことによって集まる注目に肝の冷える思いがした。お化け屋敷よりよほど涼しく感じる。
「こちらは…1組ですね」
「さあらっしゃいらっしゃい楽しい楽しい縁日だよ〜〜!」
元気な声が廊下に響く。
「…寄ります?」
奈美と折り合いが悪いことを知りつつも念のため愛羅に確認したところ
「見るだけ見ていきましょうか」
意外にも愛羅はその教室へ方向を変えた。
「いらっしゃ…やってく?2人とも」
一瞬驚いたような表情をしたものの、すぐに笑顔になって奈美は客として2人を扱う。
「伊有ちゃんが中で射的に挑戦してるよ」
教室を覗くと、やけに真剣な表情で熊のぬいぐるみを狙い、そして外して落胆する伊有の姿があった。
「どうして当たらないんですか!!」
頭をかきむしる伊有に
「あいつ剣以外からっきしなんだな」
「愛羅、口調口調」
素に戻ってしまっている愛羅に真春がいう。
「おっと…まあいいや、割と混んでるみたいだし後でくるよ。御機嫌よう、霜村様」
「…その呼び方ぞくっと来るね」
「…無理はすんなよ」
少しだけ、奈美のことを思いやったかのような言葉をかける愛羅。その様子に奈美も真春も目を丸くする。
「後で必ずきてよー!!」
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「士郎、やめなさいってこんなところで大人気ない」
「いややめん、負けるまではここでは俺がチャンピオンだ」
「頼むから帰ってくれ…」
ディーラーの役をする健の泣き言にも答えず、
「クイーンのフォーカード、俺の勝ちだ」
トランプを机に並べ勝利宣言をする。
6組の模擬カジノのポーカーでは数十分前から士郎が様々なお客さん相手に勝利を決め、そのブースに居座っていた。
「誰かこいつを負かしてくれ…」
健の泣き言に答えるかのごとく
「こちらよろしくて?」
「おや天海さんと…真春さん!」
士郎の後ろで退屈そうにしてた雅信が現れた相手に驚く。
「…負けんぞ?」
「言いましたね?」
両者に健からカードが配られる。
異様な雰囲気を醸しだすブースに人が集まる。
そして手札を見ることなく愛羅は机にそのままカードを伏せる。
「これで私はいいですわ」
「あんたふざけてんのか…?」
士郎の頰に汗が垂れる。
「どうぞ鍵瓜さんは交換なさってください」
「当然させてもらうさ…!!」
10、10、クイーン、7、4という手札の7と4を健に返し、交換を促す。
「…来たぜ、これで俺も勝負だ!」
士郎の手札は
「…フルハウス!」
真春が声を上げる。
「さあ開けてくれよ天海さん」
「言われずとも」
おもむろに返した5枚のカードは
「ダイヤの3、4、5、6、7…!!?!?!?」
「これは…」
「ストレートフラッシュ、私の勝ちですね」
「うそ…だろ?」
ありえない、と言った顔で震える士郎。
「勝つために色々策を練るのも勿論大事ですが」
席を立ち
「今ある手札で勝負するしかない時もありましてよ」
そう言い放った愛羅に歓声と拍手が起こる
「…完全に悪者ですよあんた」
「うるさい」
「負けたことですし早く食品販売の屋台行きましょう、お腹空いちゃいましたよ」
落ち込む士郎に容赦のない雅信であった




