第85話 神業を撃て
第85話 神業を撃て
文化祭の準備が続く中、アルバイトの方は驚くほど平穏に行われていた。
○×県の山神へのお供え物、□□府の神社での行事、魔獣の駆除…
戦争、魔道具の流布といった大事件が続き7月初旬、新たな特訓が始まった。
「みなさんには神業を身につけてもらいます」
「…唐突ですね」
奈美を除く10人を前にして霧子が神業、とやらの要点をまとめたプリントを配る。
「『業に名前をつける』?あほらし、敵にむざむざ今から何を出すって宣言しながら攻撃仕掛けんのか」
愛羅がその仕様に不満を漏らす。
「神業とは人と神様が力を合わせて放つ業です。ある程度憑神様からの力の借用に慣れてきたこの時期に毎年やっているみたいです。書いてある通り、名前を皆さん自身で業につけてもらいます。確かに愛羅さんの言う通り、叫びながら攻撃することは不利かもしれません。しかしこの名前を冠すると言う行為自体に意味があって出力を上げたり、特殊効果を増やしたりすることができるんですよ」
そこで言葉を切る
「それに、常に神業だけで戦うわけではなく、ここぞと言う時に必要な場面での一撃使用のためにいくつか種類を作っておいて欲しいと言うことです。それでもやはり名前を言う不利な戦いは怖いですか?愛羅さん」
最後の言葉に愛羅からビキリという音がする。
「あぁ?なんなら攻撃全部に名前つけて叫びながら戦ってやろうか?」
「いえ、ですからそこまでする必要は」
満足げに霧子が首を振る。
(((神城さん扱い上手くなったな…)))
2人を除く数名が冷や汗を垂らしながらその様子を眺めていた
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「神業…かあ。どんな名前をつければいいのかな」
肘を伸ばしながら彩香が呟く。
「私のネコパンチも神業にするつもりですけど…そうですねえ」
膝を曲げ伸ばししながら霧子が答える。
同じ獣神、武器を用いぬタイプということで合同訓練をすることにした2人であった。
「主にやはり拳や脚…○○パンチや○○キックと名付けるのが多いみたいですね」
「ベアパンチ…いいかもしれない!ちょっと出してみるね」
「ええ、来てみてください…!」
「「神憑変化!!」」
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「どんな名前をつければいいんですかね…」
「そういうの考えたりしたことないしなあ…春近さんはなんかある?」
「…今、剣という文字の入った四字熟語を検索しています…」
「あーでもいいかもな」
逆に武器を使う健、陽太、伊有が共に声を唸らせる。中でも…
「盾で攻撃する手段考えないととは思ってたけど、どんな名前にすりゃあいいんだ…?」
特性上扱いの難しい柊が頭を悩ませていた。
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「めちゃくちゃ血を流した時とかに、視界がやたらスローモーになったことがあるんですが、それを神業として平時に発動させるってのはありなんですかね」
「それ走馬灯じゃねーか」
他の人が相手できない、という理由で組まされた愛羅と雅信。
「可能かと思われます」
アリスが答える。
「ふーんなるほど身体強化に振ることもできる…か、まあいいや私は身体動かして考える方が好きだから付き合えよ」
「また私もどちらかといえばそういう頭なんで、今日はしかたありません」
「とりあえず変化しないで軽め、な」
「ええ、軽め、ですね」
ゴゴンッ!!!
言うや否や愛羅の肘が雅信のガードに刺さる。
「軽め」のトレーニングが今始まった。
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「おや、珍しい」
「…こんにちは」
士郎の元を訪ねたのは
「あなたも神業は作るべきなんですかね、急速治癒みたいなことができたら非常に助かるんですが…」
「ええ、それは考えてる所なんだけど…」
「ふむ」
「何か私にも武器を作ってもらうことって可能かしら」
「武器、俺が?太陽と月の欠片をいじったのは確かに俺だが…『製造』の神様とかには助力してもらえるってイレズマ様も言ってたな」
ブツブツと呟く。
「にしてもなんで武器なんか」
問題はそこである。
「まさかあなたが、戦いたいわけじゃないだろう?『治癒』の神様の力で戦うなんて」
そう、アルバイターズ保健室担当、真春に尋ねる。
「…違うの」
「え?」
「キュラソイドは…『治癒』の神様じゃあないの…」
ー2人の間に沈黙が流れた。




