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アルバイターズ  作者: 野方送理
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第84話 命をかけるために

第84話 命をかけるために


あの男にもらったミサンガをつけてから調子がすこぶる良い。あまりいいことではないのはわかっている。きちんと練習して、練習して、成績を上げるべきなのはよく分かってる。それでも一度あの感覚を味わって仕舞えば


「最近調子いいじゃないか!」

「先輩すごいですね!!」

「団体戦のメンバーにも入ってもらうからな」


…もう後戻りができないのだろうか。いや深く考えるのはやめよう。誰かを傷つけたわけでも迷惑をかけているわけでもない。あと少しは楽しませてもらってもいいだろう、せめて夏の大会くらいまでは


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


Y市にて魔道具をばら撒き、多くの人々に言えない傷を負わせたあの男が息を潜めている間に高校は文化祭シーズンを迎えていた。授業は午前中のみ、午後はクラスの出し物を準備する


「あの…霜村さん…」


久しぶりに聴くその声に懐かしさを覚えながら、伊有に向かって振り向く。


「久しぶり、伊有ちゃん。どうかした?」


「あ、えっと前夜祭係のお知らせを一年生に配って欲しいって」


いたっていつも通りの反応を見せる奈美に少し驚きながらプリントを渡す。


「ありがとう、係会明日だっけ?」


「うん、社会科教室でやるって…あの、霜村さん」


「うん?」


「戻ってきては、くれませんか?」


「…私がいないと忙しい?」


茶化すように奈美が言う。


「忙しい…ふふ。そうですね。もちろんバイトのシフトは他のみんなで埋めてますし、でも霜村さん自身単独で動いてもらってるので実際仕事が増えた感じはあんまり…でもそれは危険だと思います!それに何より…」


少しだけいい淀んでから言葉を続ける


「寂しい、です。みんなそう思ってます」


「…ごめんね、私の自分勝手で」


「いえ、霜村さんが追うものが何なのかは私もはっきりとわかりません。天海さんがかなり特殊な考えというのもすごく良くわかります」


「まあ…愛羅と衝突したからってだけではないんだけど…」


「それでも、この仕事は、私たちいつの間にか忘れがちですけど非常に危険です。いつ負けてしまうかわかりません」


「…そうだね」


「ならばせめて命をかける理由には納得したいでしょう」


およそ高校生が、お昼休みにするような話ではない。確かに給料はよく、神の力のおかげで骨折レベルの怪我でもすぐに治ってしまう。


それでも私たちがやっていることは、死と隣り合わせなのだと。


「伊有ちゃん」


「はい」


「嫌な質問だったら申し訳ないんだけど、復讐は命をかけるに値するの?」


一瞬大きく目を見開く。

少し考えるような仕草をしつつ


「…くだらないでしょうか…たとえ過ごした時間は少なくとも私にとっては大事な家族でした」


「くだらないなんて!戦う理由にくだらないもそうじゃないも、関係ない」


そこで奈美も気づく。自身の理由をくだらないものとされたのが、あの日の自分にはこたえたのだと言うことを。


「それでも本当に、異界の魔物や化け物のせいかはわからないのに戦っているんですけどね」


「いつか…見つかるといいね」


「どうなんでしょう。…犯人と対峙したら、私どうなっちゃうのか少し不安で」


「私みたいになっちゃわないでね」


ふざけたように、しかしどこかに暗さをたたえた表情で奈美が笑う。


「…とにかく、早く戻ってきてください。私、どんどん強くなってますよ。次、もしも暴れたら私に止められちゃいますよ」


あくまでそれが起こらないことを願いながらも、伊有も奈美を煽る。


「言ってくれるね、とりあえずプリントありがとう。また明日、ね」


「ええ、また明日!」


アルバイトを休み始めてから、彼らと会うたびに後ろめたい気分になっていた。しかし、霧子は毎朝話しかけてくるし、雅信に会い、伊有と話し少しずつ気持ちが楽になっているのを感じていた。清楚に振る舞う愛羅を見て笑いをこらえるのにもずいぶん慣れた。


「…みんなに会いたくなっちゃったな」


窓にもたれかかり、空をみる。午前中降り続いていた雨は止み、太陽が顔をのぞかせていた。




☆アルバイターズクラス表&文化祭イベント☆


1組 奈美 陽太 縁日風の出し物

2組 霧子 クイズ大会

3組 士郎 雅信 一郎太 柊 真春 お化け屋敷

4組 彩香 ストラックアウト

5組 愛羅 伊有 迷路ゲーム

6組 健 カジノ風の出し物






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