第80話 埋まらない穴
第80話 埋まらない穴
「っと、これで終わりか」
「相変わらず大して戦わせてくれねえな…」
柊が文句を言いながら愛羅に歩み寄る。
「あ?なんか言ったか?文句あるなら無理に一緒に来なくたっていいんだぜ」
「そーそー」
後ろから健もやってくる。
「すっとろいお前が悪い」
「くっそー」
「俺の取り分も全くなかったんだが…」
そう言ってさらに遠くにいた陽太が戻ってくる。
「んーやっぱり4人いるとあぶれるなあ」
(((人数というよりお前のせいだ)))
3人の男が同時に同じことを思っていた。
「せめて誰か霧子のチームに移るか?どうせ1人足りないんだし」
「1人足りないって…」
「霜村さんのことか…軽く言うじゃないっすか」
陽太と健が苦笑しながら言う。
「だって事実だろ。その方が戦うのがだーいすきなお前らにとって都合いいだろ?」
「戦うのが大好きって…」
「取り分云々言ってる時点でお前らも『こっち』に足突っ込んでんだよ、気づけや」
じっとりとした目で愛羅が睨む。
「まあ、奈美も間違いなく『こっち側』なんだけどな」
「霜村さんが…?」
柊が意外そうにつぶやく。
「まーな、とりあえず帰るぞ。チームのことは霧子に相談してみよう」
「「「はーい」」」
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「一郎太くん大丈夫ですか?」
「あぁ、全然平気だ」
「士郎くんは」
「こっちも片付いたぞ」
霧子たちも仕事を終えたところだった。
「なんだか張り合いがないくらいだな」
「このくらいの敵でいてくれることが、1番の平和よ」
「そりゃそうなんだけど」
霧子の頭からはとある人物のことが離れないでいた。
「とはいえ、たまーに3人だときつい部分があるなあ」
「…それは、そうですね」
霧子も同じことを思っていた。
そもそもは愛羅、雅信には及ばないものの3番手としてかなりの実力を持つ奈美と士郎を2人とも入れ、総合力で戦うことを目論んだチームであった。
士郎の神器は日に日に数を増やし、精度、威力ともに上がっている。
一郎太はこのチームの性質上、拳の衝撃を飛ばす攻め方に磨きがかかっている。
霧子自身、愛羅とのトレーニングを重ね強くなっている気はする。
それでも少しだけやはり、物足りなさ、不安、そして
寂しさを感じていた。
「…愛羅さんのチームと話してみますね」
「…悪いね、頼むよ」
そう言いながら神社への帰路に着いた。
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「2人とも怪我はないですか」
「すみません、足をくじいてしまって…」
「それはいけない、真春さん」
「たまにはついてくるもんね、伊有さんここ座って」
とある県の山奥、雅信たちもまた仕事にきていた。
「すみません…」
「いいのよ、これが仕事だもん。痛くない?」
「ええ…」
「おーい!終わったよー…って大丈夫!?」
彩香が森の奥からかけて来る。
「うん、軽くくじいただけだから」
「そっか…」
ホッと胸をなでおろす。
「流石にこういう足場の悪いところですと、戦うのが難しいですよね」
「雅信くん、さっき派手に転けてたでしょ。怪我は」
「バレてる…もう治っちゃいました」
「だろうとは思ったけど」
「雅信くんでも転けるんですね」
笑いながら治療を受ける伊有。
「とはいえまあ、私があまり無理しなくても2人が強くなってるおかげで大丈夫なんですけど」
「本当!?」
「ええ」
「私から見ても、すごく良くなってると思うわ」
「それは…よかった」
「はい、終わり。とりあえずこれで走っても大丈夫だと思う」
「ありがとう、じゃあ」
「帰りますか」
そういってその町の神社へと歩き出した。




