第77話 20通りの結末
第77話 20通りの結末
次の日、奈美は至って普通の様子で学校に来た。
しかし
「おはよう奈美…」
「おはよう」
そういう霧子の横を、早足で通り過ぎていった。
返事をしてくれただけよしとしようか。
そう思いながら霧子は昨日のことを思い出していた…
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「『予測』がついてたって…どういうこと?」
本部に戻ってから、霧子は尋ねた。
「ベンダーニアに行った時、あいつ暴走したよな?」
「ええ」
「その時も、各々にサンサンとルナルナと立てた『予測』を渡してたんだよ」
「ええ、だから女王がいなかったことにも気づけたわけだし…」
「だが、霜村個人の『予測』に暴走なんて文字はなかったんだ」
「そ、そりゃあ、あんなイレギュラーが起これば…」
「…実は俺自身はあいつらの息子の存在を知っていたんだ。まさか出てくるとは思わなかったが、そこはイレギュラーだな」
「知ってたんだ」
「あぁ。そして『死神憑』も名前自体は把握していた。どうなることがそれを指すのかは見るまで全くわからなかったが」
「…一応書物とかにはありそうよね」
士郎は頷くとそこで言葉を切って
「そこまでの情報や要因を集めながら俺はあの事態を『予測』できなかった」
「それが…イレギュラーってことでは」
「いや、俺が1つ要因を抜かしていた」
「…要因」
そこで言葉を切ると
「あいつの本質だ。あいつにとっての『正義』がなんなのかを、何も考えていなかった」
「そんなの、分からないものじゃないですか?」
「いや、俺はある程度勘付いちゃいた。模擬戦の時、雅信と天海さんが戦ってる時、あいつは笑ってた。あいつの根には良くも悪くも好戦的な血が流れてる」
「そう、だったんだ」
隣にいたはずの自分が気づかなかったことが悔やまれる
「そう、だから今回、この事件の調査に参加するとき、あの暴走の記憶も含めてあいつのみの『予測』を立ててたんだ」
「どうしてそれを…!」
「悪い、ただ」
バツが悪そうに士郎は俯いた。
「様々な要因を取っ替え引っ替えしても、この事件に絡んだあいつは、暴走してしまうという結末だった」
「そんな…」
「『予測』自体をおよそ20通りぐらいは立てた。その内の15であいつは、俺たちから離れていった」
「残りの5は!?」
「天海さんに負けて霜村が死ぬ、雅信に負けて致命傷を負う、俺がやられて死ぬ、門矢さんがやられて死ぬ、そして
あんたがやられて死ぬ」
ひゅっ、と自分の喉がなるのに霧子は気づいた。
「だから俺はあいつと衝突しても、各自の傷を最も少なく済ませる方法を選んだ。信じれなくても仕方ないが、そういうことなんだ」
「とても、傷が少ないとは思えないけど」
薬箱を手に、真春が部屋に入ってきた。
「痛いところをつくね」
苦笑しながら腕を差し出す。
「まあ、あなたが一番怪我してるところを見る限り、私たちにとって最善を選んでくれたってのは分からなくもないけど」
消毒液を垂らし、ガーゼのような何かで広げていく。
「…そうかい」
少し驚いた表情をしながら、士郎が後ろを向く。
「上着あげて」
「はーい…ちなみに、あんたがやられるって予測もあったわけだが、気にならないのか?」
背中の傷が大きかったため、手をかざし、人間状態で使える程度のキュラソイドの能力を発動する。
「んー、まあそうね。その予測は外れたでしょうから気にしないわ」
「ほう?俺たちの予測が間違っていると?」
傷がほぼほぼ見えなくなったところで上着を下ろして立ち上がる。
「多分、あなたの知らない要因だから仕方ないわ。じゃあ今日は先に帰るわね」
「あ、お疲れ様…」
そう言ってにこやかに真春は部屋を去った。
「…あの人も変わったわね」
「…あぁ。…まあ、あいつとここで別れなきゃならなくなったことは、俺の責任でもある。だからどうにかして霜村が戻ってこれるような方法を考えるよ」
「鍵瓜くんのせいじゃないわ…」
(ある意味、私が、訓練を受けていない者からアルバイターを選ぶことに固執して、奈美に愛羅を、士郎を引き合わせたのが原因かもしれない)
(第1、私がみんなをこんな危険な目に合わせているから…)
そもそもの根源は誰なのかを思い出したところで、霧子は兄に似た、あの人物を思い出していた
「なあ神城さん」
「は、はいっ?」
士郎の呼びかけで現実に引き戻される。
「ちなみにどれが最も最悪な『予測』だったかわかるか?」
「さ、最悪な『予測』…奈美が、愛羅さんに負けて…死んじゃう…のですかね?」
「残念、正解は『門矢さんがやられる』だったんだ」
「ま、真春ちゃんがやられる?どうして…あっ」
「そう、俺たちの中で2番目に強くて、中身としては1番あぶねえかもしれねえ奴の虎の尾を踏むことになる」
「…なるほど」
「あれ、2人ともまだいたんですか」
そんなことを話していると、『1番危ない奴』が部屋に入ってきた。
「お前こそ何やってたんだよ。門矢さん帰ったぞ」
「今家まで送ってきたんですよ、もう外暗いんで。私は忘れ物しちゃって」
「見つかった?…私たちも帰りましょうか」
「そうだ…な」
「じゃあ帰りますか」
それぞれの胸中で、霜村奈美という女性がいなくなってしまったということは大きな損失となっていた。
しかしその日はそれ以上誰も何も言わなかった。
言っても「今は」どうしようもないから
久しぶりに雨のない空には星が浮かんでいた。




