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アルバイターズ  作者: 野方送理
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第71話 怒りの行方

第71話 怒りの行方


伊有は急いでツキハの元へ向かっていた。


嫌な予感がしていた。

そしてそれはあのニュースを聞く限り的中していた。


暴力団員と同じ数の不審死者。

そんな芸当ができるのは、あの魔道具しか考えられなかった。


雨の降るY市の街を、傘もささず走り回る。


手にしたレーダーには近くに魔力反応。


そして見つけた。


車椅子の少女と倒れた男。


「ツキハちゃん!!」


「!!?」


いきなり名前を呼ばれ肩を震わせて驚く。


「お、お姉さん!?どうしてここに…?」


足元の男はまだ息があるらしい。


「はーっはー、つ、ツキハちゃん、そ、その道具渡してくれないかしら」


「ど、どうして。い、嫌よ!これで最後の1人なの!これで終わりにするから!お願い!」


苦しそうな表情でツキハも訴える。


「なーるほど、そういう訳でしたか」


「「!?」」


伊有にとっては聞き覚えのある。ツキハにとっては初めて聞く男の声がした。


「あれが犯人ですよ。真春さん」


そう呟く雅信の後ろには


「…門矢…さん…」


真春が泣きそうな表情で伊有たちを見つめていた。


「は、犯人ってなに。な、なによ!ヤクザの娘ってこと!?あ、あんな奴らし、死んで当然なのよ…」


ツキハの推測は外れ、語尾は弱まっていった。


「アリスさんが教えてくれました。そのツボ、魔界のとある国で死刑と、富裕層のギャンブルに使われてたそうです。使用者は効果を受けないそうで、死刑囚を1人選んで、広い監獄の中でそれを使う。もう1人はツボのマークがついて心不全で死ぬ。

もう1人死ぬのが誰かを賭けて楽しむ…怖い道具ですねえ」


「…な、なによ!何の話よお!?」


事情を掴めないツキハが叫ぶ。


「新聞くらいはチェックしてたらよかったかもですね」


その膝に一面に死亡事故の記事が載った新聞がのせられる。


「…う、嘘よ…なによ…これ…」


「あなたはこれで22人、っと、そこに転がってるのを今から殺せば24人の連続殺人犯。日本犯罪史に残る大悪党ですねえ」


あえて丁寧な言葉でツキハに話しかける雅信。


「私、そ、そんな…うぼぇ」


自分がやってしまった罪の大きさに思わず吐き気を催すツキハ。


「で、でも、私、知らなくて、こんなことしたかった訳じゃなくて、あいつらを殺したかっただけで、そんなルール知らなくて」


ガタガタ震えながら言い訳を垂れ流すツキハ。


「こ、これで最後なのよ!!こいつを!こいつを殺せば!!お、終わるのよ…」


涙と鼻水と雨にまみれて、ガラガラの声で叫ぶ。


「…好きにすれば」


「真春さん…!?あなた!?」


「その覚悟があるのなら、その罪を背負う覚悟があるのなら」


数秒間、誰も喋らなかった。








ーそれでも


「あいつを…殺して…!!!」


ツボを強く掴み、ツキハはそう宣言した。


伊有は止めようと走る。雅信と真春は動かない。


そして


「ガバァッアァッ!!ウボオァッ!!」


足元の男が苦しみ出す。


「もう…止められないよ…こいつは死ぬの」


虚ろになった目でツキハが呟く。


「そしてもう1人誰かがね」


真春がそう、ツキハを睨みつける。
















「カヒュッ」


真春の隣で乾いた音が響き。


ベシャリ


びしょ濡れの地面に、1人の体が崩れ落ちた。


「…坂上くん!?」


そして雅信の体の下から

夥しい量の血が溢れる。


「う、嘘、そんな!?まさか」


そう…ツボが選んだもう1人は


ツキハの目の前にいた坂上雅信だった。


「坂上くん!坂上くん!!」


真春が肩を揺らす。


しかし相手が雅信であるということはつまり…


「死ぬかと思ったあ!!!いや実際死んだのか」



「うわ!?あ、そっか…坂上くん…」


「ご心配をおかけしました真春さん、帰ってきました」


「な、なんで…生きて…」


「殺しておいてその言い草はないでしょう…さてと…」


伊有の方を見て血を拭きながら雅信が続ける


「どういうことが説明してもらえますね?」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「つまり」


真春が傘の下で腕を震わせながらいう


「あなたは理不尽に殺されたお兄さんの復讐のために」


ツキハは前を向くこともできずガタガタ震えている。


「理不尽に12人殺したわけね…?」


「正確には11人ですけど」


「死んでたじゃない!!!坂上くんだって!!!」


傘をとり落す。


その目はまたも腫れていた。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」


「私の友達は」


そこで雨ではない水が真春の頬を濡らす。


「あなたに殺された」


ツキハがハッと顔を上げる。


「ごめんなさい…ごめんなさい!!本当にごめんなさい、本当にごめんなさい!!」


車椅子から転げ落ち、土下座の様な体勢で地べたに頭を擦り付けるツキハ。


「真春さん」


雅信が声をかける。


「手のひら、血が出てます」


あまりにも強く拳を握り、震えたため、爪が真春の手のひらを貫き、血を流した。


「ねえ…私は、私は」


「何に怒ればいいの…?」


真春の顔は悲壮に満ち溢れていた。


ヤクザを殺す理由は、同情に値してしまった。でもだからと言って自分の友達がなんの理由もなく殺されたのを許せない。でもこの子の苦しみも理解できる、でもあの子がなんで苦しまなきゃいけなかったのかでも、でも、でもでもでもでもでもでも…


「簡単な話ですよ」


思考の堂々巡りから、雅信が現実へと引き戻す。


「そこで土下座してる女の子を殺せばいい話じゃないですか」



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