表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルバイターズ  作者: 野方送理
70/100

第70話 クロスワードのように

第70話 クロスワードのように


「ふう、こんなもんかしら」


「いやはやお見事!」


調子よく吉凪が奈美を褒める。


「それじゃ私帰るわね」


「ええ、今日もありがとうございました」


そう言うと奈美は吉凪に背を向けて歩き出す。


「…驚くほど信頼されてますね私」


「そりゃ僕お手製の魔道具だからね。洗脳まで行かずともこれぐらいの関係は出来上がるさ」


「ええ、それはそうなんですが」


「彼女にも原因はあるだろうね」


「と、言いますと?」


「あれだけ強くても、彼女には何かが欠けている。そしてそれが分からないでいる。だから拠り所が欲しい、自分が何か正しいことをしている実感が」


「正義に関してやたら敏感ですよね、あの子」


「何か思うところがあるんじゃないかな?まあ利用させてもらえるだけ利用しようじゃないか。さあ早く帰って続きをしないのかい?」


青年の言葉に吉凪は可逆的な笑みを浮かべる。


「その通りですね」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「変わった様子…ですか?」


廊下ですれ違った雅信の問いかけに困惑する伊有。


「ええ、Y市に行った際にこう…なんというか…変な感じというか」


「雨は降っていましたが…それ以外に…私は異変を見つけられなかったので…」


「そう言えばそうでしたよね、そっちの異変も残ってるんだった」


「そっち、とは?」


伊有の問いかけに雅信が連動する2つの連続殺人事件について答える。


伊有の額から汗が流れる。


(私は知っている、この原因を)


「どうか、しましたか?」


雅信が心配そうに顔を覗き込む。


「いえ…それは…怖い街に行ってしまったなあ、と。あ、授業始まりますね、それじゃ」


「あぁ、ごめんなさい引き止めちゃって。

じゃあまた」


そう言って駆け出す。


心臓が早鐘のようになる。


どうすればいい


私のせいだ


私が止めていれば


「…あんなに慌ててどうしたんだろ。体育ですかね」


呑気に雅信も教室に戻った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


6つも歳が離れていた。


いつも私の面倒を見てくれて、遊んでくれて、可愛がってくれた。


頭が良くて、皆んなから好かれていた。


そんなお兄ちゃんが交渉人に選ばれた。


家族みんなで喜んだ。


そしてお兄ちゃんはアルバイターズを自分の友達から選び出した。


周囲の心配をよそにお兄ちゃんたちは仕事をこなしていった。


そして全員死んだ。


やはり訓練生を使うべきだったと同業者のからの批判に、私たちの家は晒された。



頭が良くて、かっこよくて、頼りになるお兄ちゃんは自分の友達を危険にさらして死んだ。


大きな仕事をしに魔界のある国に行った時のことだった。


正体不明の敵にやられた、というのが大方の意見で、


表向きは夏休みの友達とのキャンプということだった。


旅行先での事故死、という形になっていた。


遺体は当然1つも見つからない。


お兄ちゃんたちは夏休みが終わっても、秋が来ても冬が来ても帰ってこなかった。


アルバイターの遺族はみんなみんな泣いていた。


遺族同士の集まりで私はその人たちを見ることができなかった。


「お兄ちゃんのせいかもしれない」


かもしれないではなく、間違いなくそうだ。


でもそれを言うことは禁じられていた。


それから私たちの家はそう言った業務から外されて5年が経った。


日本の交渉人を選ぶイレズマ様が今年選んだのは、交渉人史上最悪の事件を引き起こした一族の末っ子、私だった。



反対と非難の嵐だった。


それら全てを突っぱねてイレズマ様は私をえらんだ。


そして私は決意した。


兄と同じ状況で


1年間の仕事を完遂し


この家の名誉を取り戻すと。


そして


「異常と関わる者」の中で


出来損ないだった私自身を


変えてみせると。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「いっそのこと本拠地に直接行ってみない?」


「…本拠地ってのは」


「あれ以来魔力の反応はほとんどなくなったんだけど、ここ」


そう言いながらスマホの地図を指差す霧子。


「幸福の…雨?宗教かなんかですかこれ、怪しいなあ」


「表向きはNPO法人ってなってるんだけど…より精度をあげてこの辺を測ってみたら、この場所から『常に』微弱な魔力が出ているのよ」


「常に…なんにせよ行く価値はありそうだ。だが少し強引すぎないか?」


士郎が霧子に尋ねる。


「あんたのお兄さんと思われる人物を見て以来、あんたなんか焦って見えるぜ」


「っ、そんなことは…」


兄と思われる青年の姿が頭に浮かぶ。


「そんなことはない、わ」


それでも目を見ながら霧子は言う。


「…OK、明日にでも伺おう」


水をたっぷり吸ったスポンジのような雲が空を覆い、雨を降らせるのを今か今かと待っているようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ