第68話 交錯する正義
第68話 交差する正義
「あ!奈美!お疲れ様」
到着地であった神社に霧子が戻ると、すでに奈美が変化を解いて待機していた。
「霧子!…お疲れ様。ごめん、見つけられなかった…」
「あ、いいのよ。それにしてもなんでこんな魔界の道具が一般人に…」
霧子が特に疑うことなく、メンバーから回収したであろう魔道具を見せる。
「…誰かまた魔人が人間界に?」
「その可能性もあるわね…」
「よーう、なんか変な道具かっぱらってきたぜ」
そう言いながら愛羅が短剣を放り投げる。
「ちょ、ちょっと!投げないでよ!!」
言いながら霧子がキャッチする。
「なんなんだあいつら?道具使って正義の味方ごっこかよ」
「ご、ごっこ?」
愛羅の吐き捨てた言葉に、奈美が反応する。
「お疲れー。お、集まってる。俺もなんか変なの回収したぞ」
愛羅が反応するのを遮るかのように、士郎が戻ってきた。
「またすごい考え方の奴らだったなあ。誰がこれ流したんだろうな?」
その言葉にも奈美が少し反応する。
「さあ…誰なんだろうね」
何かを抑えるように答える奈美を、士郎は少し怪訝な目で見つめた。
「すみません、遅くなりました。申し訳ないけど見つかんなかったです…」
そう言って伊有が帰還した。
「いやいや、とりあえず3つあれば大丈夫。これが1つの団体によるものなのか、この道具がどこから来ているのか…黒田さんとイレズマ様と相談します。では帰りましょうか、お疲れ様でした!」
そう言って霧子たちは城波神社へ戻った。
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翌日、雅信が教室に入ると真春が席で勉強していた。
「おはようございま…真春さん…何かありましたか?」
「え、あ、おはよう坂上くん。何かって…
どうして」
「目、腫れてますよ」
「嘘、え」
確かに真春の目は少し赤みを帯び、腫れていた。
「…泣いたんですか?」
「…一昨日なんだけど…小学校の頃仲よかった友達が…」
そこで真春はまた少し瞳を潤ませた。
「亡くなったの」
「…そう、ですか」
「昔は仲良くて、たくさん遊んだりしたけど…ちょっと離れることになっちゃって。たまに連絡したりしてたんだけど、会おう会おう言ってる間に」
「それは…」
「私馬鹿だなあ…確かに少し遠いけど夏休みとかあったのに。ちゃんと会いに行っておけばよかったのに…」
「…どこに住んでたんですか?お友達は」
「隣の〇〇県のY市よ…急性心不全だったって」
「Y市…?」
「どうか…したの?」
「…いえ、昨日士郎たちがその辺に調査に行ったんですよ」
「…調査?」
「はーい席つけー授業始めるよ〜〜」
教室に先生が入ってきて声を上げる。
「続きは後で」
そう言って真春は雅信を後ろの席へ座らせた。
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「戦争やテロなど、世界に蔓延する危機。これらを止めるのは我々『力』を手に入れたものの使命。そうは思いませんか?」
「そう、ね。やれる人間がやるべきだとは思うわ」
「素晴らしい!!」
放課後、奈美は1人で吉凪と会っていた。
「取り急ぎはあの街で依頼のあった悪人を懲らしめる、という形にはなってしまうのですが」
「まあ、第一歩なんだからそういうのも大事じゃないかしら」
「おお…なんということだ。神はこの道具だけでなく、戦う聖女までお恵みなさるとは」
「その呼び方やめてくれない?で、今日はないの?依頼」
「早速あります。こちらの男なんですが…」
疾風の力を借りるまでもなく、現在の奈美は人間には敵なし、と言える強さに成長していた。
(これはアルバイトとは関係ない。私個人の正義活動)
どこか、自分でもなぜそう思うのかわからない後ろめたさを感じながら、奈美は吉凪とともに依頼書にあった男の元へ向かった。




