第62話 死神憑
第62話 死神憑
どうして
お父さんは正義の味方だった。
刑事として犯人を捕まえ、悪を倒してきた。
間違ったことなんかしてなかった。
どうして
犯人はわかってたのに
あと少しで捕まえられたのに。
お父さんは正しかったんだ。
どうして
捜査は打ち切りになった。
お父さんはやめなかった。
当たり前だ。
お父さんは正しいから。
お父さんは遠くに飛ばされた。
正しいことをしていたのに
正義だったのに
あんなにヘラヘラ笑って。
負けちゃいけないのに
正義は必ず勝つんだ。
負けてない
負けてない
負けてない
私はまだ
「正義」だ。
間違えなんて起こしてない。
私の戦いは正義で
私は正しい。
負けない
負けてはいけない。
この手に
正義を執行する力を。
何者にも負けぬ強い強い力を。
そのためなら私はー
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ドゴォオッ!!!!!
奈美の方を見ていたアルリエスがけたたましい音とともに後ろへ吹き飛ぶ。
奈美が突き出していたのは折れたはずの右腕。
「奈美…お前」
愛羅の呟きが聞こえないかの如く
真っ赤な目で
ドス黒いオーラを放ちながら
「アァァァァアアァァァァアァ!!!!!!!!!!!!!!」
そう吠えると奈美はアルリエスの方へと跳躍する。
(体制を整えなくては)
ドゴン!!!
アルリエスの思考をかき消すように
空に浮く彼を叩き落とす。
(!?!?なっ…このおんn)
ドン!ドゴォ!ドグシャ!グシャァッ!!!
何度も何度も足で踏みつける。
ガッ
ボロボロになったアルリエスの頭を掴み持ち上げる。
(この…)
すでに擦り切れた脳で反撃を試み蹴りを放ち奈美の脇腹が裂け血が吹き出るも
ドゴォッ!!
意にせず腹に拳を叩き込む。
「何だあれ」
愛羅が犬歯をむきだして呟く。
「強い…いやそれ以上に」
士郎が冷や汗を垂らしながら頷く。
(一番嫌な予想が…)
「死神憑」
イレズマがポツリと呟く。
「死神憑…?」
霧子が聞き返す。
「本人の…何らかの強い気持ちに応えて…普段かけられているリミッターを外した神憑変化…そんなバカな」
「強い気持ちによって…限界を超える」
「ただ…引き換えに…理性を失う!」
そう言いながらイレズマが走り出しそれぞれが後に続く。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
イマノワタシハ
ツヨイ
ツヨクッテハヤクテ
イタクナイ
サッキケラレタキガ
アレ?
ケラレタッケ?
ソンナコトモ
ワスレチャッタ
デモイイ
アイテハモウ
ボロボロダ
ザマアミロ
ワルモノメ
キサマガアクダ
ワタシノマエニ
セイギノマエニ
シネ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
アルリエスの意識はすでに遠い彼方へあった。
流石の魔王子、奈美も先ほどよりもいくらか傷を増やしている。
しかしそんなことは関係無い。
奈美はアルリエスの首を掴んで
力を込める。
「ま、待って奈美!!」
霧子が声を上げる。
ピクリと、首を傾げ光のない目で霧子達の方を振り返る。
ドサリ、と動かなくなったアルリエスが落ちる。
ドッ
地面を蹴り
霧子達に拳を構える。
咄嗟の事態に体が反応しない。
ドゴォ
霧子の眼前に拳が迫ったその瞬間、空中で愛羅の足が奈美を捉える。
「強い気持ち…ねえ、それがあんたの本性かあ?」
舌なめずりをしながら愛羅が向き直る。
岩に突っ込んだ奈美も砂けむりの中から首を鳴らし立ち上がる。
「ま、待て天海さん!あんたが本気でやったら!!」
大声を上げる士郎の方に目をやる。
その声に反応し奈美が士郎に飛びかかる。
「っ!!サン!ルナ!」
『太陽の欠片』と『月の欠片』が集まり防御する。
も
バリィ!バリン!バリッ!!
「なっ!?」
その3つを叩き割り
「がっ…はっ…」
腹に拳が刺さる。
しかし
「戻ってこい…霜村…奈美…!!」
その拳を掴み、口から血を吐きながら訴える。
「…!!」
奈美の目から黒い靄が抜ける。
そして、膝をついて士郎に倒れかかる。
「私…私…?」
状況がつかめず、ガタガタと震える。
「大丈夫…大丈夫だから…」
その肩を支えながら、士郎がなだめる。
その足元には気を失った狗神・疾風が横たわっていた。




