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アルバイターズ  作者: 野方送理
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第60話 魔王子・アルリエス

第60話 魔王子・アルリエス


「誰だ?おまえ」


愛羅が勝負を邪魔されたことで、不機嫌そうな声を漏らす。


「アルリエス、おまえどうして…」


およそ100年ぶりに見る息子の姿にアルゼンは驚きを隠せなかった。


抜け出せないような檻を作ったはずなのに。



「久しぶりです、とう様。寂しかったです。きっとあの場所を出ればとう様やかあ様達に会えると思っていましたが…」


あどけなさの残る声で、顔で、


しかしそこにとてつもない残虐さを浮かべた顔で


「本当に会えた



それどころかなんだかたっくさんの敵がいる。



たっくさん遊べる」



そう言い放つと、アルリエスは愛羅に飛びかかり、蹴りを放つ。



ゴォン!!!!


先ほどよりも大きな音が響く。


それを腕で受け止めながら


(こいつ…親父よりも…)


足をつかんで投げ飛ばす。


「…!!3人目だ!!僕と遊べる人!!」


またも愛羅に飛びかかろうと膝を曲げたアルリエスが何かに気づく。


アルバイターズが控えている、物陰に。


「…なんだあいつ…!?やばいこっちに!」


立ってフィールドを見ていた奈美が声を上げる。


と、同時に奈美達の視界から、奈美の体が消える。


ドォン!!!


遠く離れた岩に、健が叩きつけられる音で、我に帰る。


「…お前えええええ!!!!」


健がハンマーを構え飛びかかる。


ドッ


そのわき腹にアルリエスの脚が刺さる。


彩香と霧子も腕を振り上げて攻撃を仕掛ける。


ズドン!!



ドス!!



目にも留まらぬ速さで、ふたりがはじきとばされる。


「…!!」


傷を負った伊有、柊、気を失っている一郎太を背に、士郎が立ちはだかり『太陽の欠片』『月の欠片』を展開する。


今度は6つ。


一瞬、傍を見る。


「来るな!天海さん!」


蹴散らされたアルバイターを見て愛羅がフィールドを離れようとする。


「試合から逃げたことになる。そしたら負けだ」



「んなこと言うが、お前…」


新たな敵の乱入と言うイレギュラーをして、ルールを守る必要があるのかと士郎に問おうとした瞬間。



先ほど感じたものより大きな殺気。


(今度は誰だ!)


愛羅が振り返る。


しかしアルゼンの後ろには誰もいず、呆けて立ち尽くしているばかり。


視線を士郎達の方へ戻す。


「おい」


聞いたことのないような低い声で


「何不意打ちで勝ったと思ってんだ」


奈美がアルリエスの肩を掴む。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「あの子はちょうど100年ほど前に生まれたわ」


エヌリエスが口を開く。


その後ろにアズィールとセルネアが立ち、雅信に負け未だ意識の戻らない、スラパスダとシアニースが横になっている。


真春が座って、話を聞く。


その後ろに雅信が腕を組み立つ。


「初めての男の子で、とても喜んだのを覚えているわ」


複雑な表情をする雅信。


「そして数ヶ月は1つの部屋で、私とアルゼン様だけが世話をして、初めて城の家臣達に会う日に事件は起きた」


アズィールとセルネアが当時を思い出したのか苦い顔をする。


「あの子は私たち以外の魔人を見るや否や





片端から殺していったの」


「ど、どうして…?」


真春が声を上げる。


「あの子に問いただしても、血塗れの顔をニコニコさせるだけで、悪いなんてこれっぽっちも思っていない風だった。あの子は生き物を殺すことに快感を得ていたわ」


「おっそろし」


雅信が首をすくめる。


「そしてアルリエスはさらに悪いことに、私とアルゼン様の力を持ってやっとその動きを止められるほど強かった。その日、あの子が眠っている間に、私たちはアルリエスを国で一番強固な檻に入れ、日ごとに魔法で作った生物を入れてこの100年を過ごした」


「100年も…檻に」


真春が少しだけ顔を曇らせる



「だけど檻の強度が限界に近づいている、という報告がついに来て、いよいよアルリエスを出さなきゃならないという局面になった」


そこで言葉に詰まるエヌリエス。


「人間界にでも送ろう、と?」


雅信の言葉にバツが悪そうに下を向く。


「私たちでは相手にならない、かといって国の外に出せば流石のあの子でも敵わない怪物がいる。その時に、オッドベノンから聞いていた、人間という生き物の話をアルゼン様が思い出したの」


「そんな…!!」


「息子は殺したくないけど、殺せず、殺させてあげたい。さらに死んでも欲しくない。非力で数の多い人間という選択肢は考え方は別に、正解だったかもしれませんねえ」


雅信が皮肉を言う。


「…でも結局八方塞がりだったわけね。たまたまオッドベノンがいた日本のあなた達に戦争を仕掛けた訳だけど、こんなに強い人間がいるんだもの」


エヌリエスが雅信を見つめる。


「あなたなら、もしかしたら…。ねえ、あなたよりも強い人間はいるのかしら?」


「…少なくとも1人。魔界に残ったメンバーにいます」


「そう…」


諦めたような顔で、エヌリエスがため息を吐く。


「…どうして」


真春が口を開く。


「どうして、戦争を仕掛けたんですか?そ、そんな段階踏まずに、息子さんを人間界に送ることだってできたはずなのに…」


「…後ろめたかった…のかしら。戦争って形をとって、自己満足の正当性を自分たちに与えたかったのかもしれない。ふふ、理不尽に人間が殺されるという結末変わりはなかったのに。本当に勝手よね。いい迷惑よ」


自嘲気味にエヌリエスが答える。


どう応じていいかわからず、真春は声を上げられずにいた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



(あいつの…殺気かあ!!)


愛羅は笑う。


奈美も口角を上げ白い歯を、いや疾風の牙を剝きだす。


「!」


ドッ!


アルリエスの肘が奈美の胸を打つ。


しかし掴んだ手は離れない。


ドゴォン!!!!!


奈美の左拳がアルリエスの顔面に叩き込まれた。


アルリエスが士郎の脇を飛んでいった。


奈美はすでにその方向へ駆け出していた。



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