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アルバイターズ  作者: 野方送理
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第56話 ハンマー&シールド

第56話 ハンマー&シールド


「い、伊有ちゃん!大丈夫!?」


「えぇ、なんてことはありません」


左腕に螺旋状の傷を受け、血を流している伊有が笑いながら並みに答える。


「すみません、真春さんからもらった薬取ってください。それ塗ったら次行きますから」


「いや、交代だ」


次戦へと備えようとする伊有を士郎が止めた。


「…?私はまだまだ大丈夫ですよ?」


「どうせ天海さんがいるんだ、結構な怪我をおしてまででる必要はない」


「か、勝ち抜き戦なんですよ!?せっかくアドバンテージを取れたのにそれをこんな傷で」


「刀は両手で振る物だろ?無理をしちゃいけない」


「で、でももし万が一!」


その瞬間


伊有たちの背筋を、いや、反対方向で待機していたアルゼンたちベンダーニアの戦士たちの背筋をも


恐ろしく冷たい衝撃が走った。


愛羅が静かな声で伊有に問いかける。


「…私が信用ならない、と?」


「い、いや、そう言うわけじゃ」


全員の額から汗が垂れる。


「ならいいんだ。ほらほら無理するな休め休め」


先程までの形相を崩し、愛羅は奥の椅子へと伊有を押し込む。


「別にこっちが勝ち抜きにこだわる必要はないさ、やりたい奴はやればいい。目標は一人一勝。負けそうになったらすぐ降参して次に任せる。怪我をしたら無理をしない…いいな?」


愛羅の言葉に全員が首を縦に振る。


「よし、じゃあ次出る人を決めよう」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「なんだ今の殺気は…」



アルゼンはこの魔界に生まれて3000年。

魔人として、この国の王として自分の強さにはある程度自信があった。

1000年前の大国との戦いで「脅威である」と知らしめたからこそ、ベンダーニアは小国ながら、平和に、平穏に反映することができた。


それなりの戦いも経験している。

修羅場もいくつもくぐり抜けてきた。


そのアルゼンが今、人間の放った殺気に


汗を垂らしていた。


自身の手が少しばかり震えていることにも気づいた。


「…ルゼン様、アルゼン様!」


部下の言葉にすら気付けなかったほど。


「あ、あぁ、どうした、アランテイル」


「次は私が行ってまいります」


アランテイルと呼ばれた若き魔人はそう告げた。


「あぁ…」


軍の兵士の中でも若く、しかしその実力で王直属の部隊に配属されたアランテイル。


その目を見ながらアルゼンは先程の殺気を思い出す。


「アランテイルよ」


「はっ!」


「…決して無理はするな」


「…は、はっ!」


戸惑いながらアランテイルは戦場へと赴いた。


アルゼンは残り7人となった戦士たちの顔を眺めながら、あることを考えていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「お、俺が行くよ。俺が」


柊が手を挙げた。


「…大丈夫か?あいつ強そうだぞ?」


「わ、分かんねえ、ま、負けたらごめん」


「嘘だよ。無理だけはするな。行ってこい」


茶化しながら愛羅は柊の背中を押した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「お前が俺の相手か」


アランテイルの脳内を先程アルゼンにかけられた言葉が頭をめぐっていた。


「正々堂々、いいバトルにしようぜ」


そういうとアランテイルの手に、


大ぶりのハンマーが現れた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「おー?相手ハンマー使いか。相手は違えどリベンジマッチだな」


士郎が健の方を見ながら話す。


「あいつもあいつで新しい戦い方を探していた」


健が思い出すようにつぶやく。


「盾を振るスピードも速くなってたから、攻撃もできてたもんね」


特訓に付き合っていた彩香もつづく。


高校生の少年少女が、自身の生きる世界をかけると言うあまりにも理不尽かつ異常な事態にもかかわらず、アルバイターたちは落ち着いていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「2人とも準備はいいかな?」


イレズマの声にアランテイルと柊の2人が頷く。


「それでは…はじめっ!!!」


その声とともに



両者が同時にスタートを切る。


「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」


「おおおらぁあああああああああああ!!!!」



ゴォオン!!!



槌と盾がぶつかる。



両者同じ距離だけ後ずさる。


「っ!!やるなぁ!」


まだまだ魔人としては若いアランテイルが嬉しそうに話す。


「そっちこそ…!」


答えつつ柊がまた盾を持ち直す。


アランテイルが駆け出すとともに柊も足を踏み出す。


アランテイルがハンマーを振りかぶる。


ゴン!!!



先程よりもいくらか軽い音と共に激突する。


しかし


「!!?」


全力で叩きつけたハンマーは


激突の瞬間に傾けられた盾によって


その威力をそらされ


アランテイルはバランスを崩した。


(まずい!!)


ドォン!!


思った時にはすでに遅し。


アランテイルの脇腹に

盾を用いた一撃が叩き込まれた。


ゴン!



壁にめり込むアランテイル。


柊は肩で息をしながら、内心で少しホッとしていた。


(うまくいった…!)


自身が少し前まで不思議に思っていたにもかかわらず


命のやり取りの中で


特訓の成果を発揮したことを喜んだ柊は


笑っていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「さて、と」


致命傷を叩き込むために犠牲にした右腕を再生させながら


「残るはあなたです」


雅信はエヌリエスと呼ばれた魔女に目をやる。


「よくも…よくも…」


何か呟いたのが聞こえたかと思うと。


ドスッ


無数の黒い光が


雅信の体を貫いた。


「よくも私の娘ををおおおおお!!!」


エヌリエスが両手にまた光を貯めながら雅信に向かって走り出す。


「おお怖い」


いつまでたっても慣れない、全身を貫く魔法の痛みをこらえながら雅信はすでに向かえうつ構えをとった。


「娘」という言葉に若干の引っ掛かりを覚えながら。








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