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アルバイターズ  作者: 野方送理
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第55話 ぶつかる刃

第55話 ぶつかる刃


(…いつの間に…!?)


赤く染まった腕の先をを見ながら、私は考える。


すれ違った瞬間、よけられたのは分かった。手に感触がなかったから。


ただこちらも斬られた感触が無かった。


避けた、と思ったが…。


(あの細い針のような剣のせいか…)


「…と、まあ小手調べはこんなところか」


クライズラ、と名乗る私の対戦相手が口を開く。


「いい太刀筋だ、もう少しで首を落とされるところだった。まだやれるか?」


「…この程度、なんの問題もないです」


「…よかろう」


ドッ


(っ!来た!)


次の瞬間、こちらに向かって突進を仕掛けてくる。


クライズラが剣を振りかぶる。


(右下から…!)


私も剣をそちらに振り、


キィンッ


金属がぶつかる音がする。


する


した


はずなのに



ピシッ


剣を握る手の甲に、切り傷が走る。


立て続けに暗いズラが剣を振るう。


キィン!キィン!


動きはある程度見える。


刃と刃は当たっている。


致命傷は無い。


なのに、なのに!


「ぐっ!!」


大きめに剣を振り、クライズラが引いた瞬間に私も距離を取る。


(1つ1つは大したことがない…ただそれが増えれば増えるほど…!!)


自分の腕を見る。


なぜか切り傷とは少し違った痛みがジンジンと疼く。


すでに変化した服の袖がボロボロになる程、傷まみれだった。


(…?)


その時ふと気づいた。


数が多く無かったため、先ほどまでわからなかったが


足にもいくらかの傷が付いている。


まるで何かが巻きついたかのように


ふくらはぎをぐるっと赤く細い線が囲っていた。


「…まだやれるか…?」


…確証はない。


でもやる価値はある。


「ええ…!!」


私は剣を構えて前を向いた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


私の目の前に


動かなくなった魔女が3人転がっていた。


三番目に出てきた魔女は、魔法で坂上くんの体を何度も何度も破壊したのに


彼は攻撃の手を止めなかった。


結局顎に膝蹴りを受けて、意識を失った。


そうして今は、女王の隣にいた最後の魔女と戦っている。


最後の魔女は両手に短い剣を持って


坂上くんを斬る。


私の目の前で腕や、指や、足が千切れては

霧のように消えて再生する。


たった1人になった女王はなぜか焦ったような、苦しむような、悲しむような顔で


2人の戦いを見つめている。


私はどんな顔をしているんだろう。


「うーん、なかなかいいスタイルしてますねえ。私がやりたいくらいです」


私の目の前に立っていてくれるアリス、という神様が何かつぶやいている。


「ってあ!こら!目をつぶっているように旦那様が言ったでしょう!」


アリスさんが私の目を手のひらで覆う。


「わっ、あの、ごめんなさ…」


「旦那様の戦いはショッキングですからね、あの人なりの配慮でしょう。ちゃんと目をつぶりましたか?」


たしかに、彼の戦い方は見ていて辛い。

愛羅ちゃんと戦った時もそうだけど、自分の体を囮にして相手に攻撃をする。


それは今、より強くなっている。


愛羅ちゃんの時には、守ろうとする動きもあったのに、今日は一切ない。


だから、彼の体は無防備にも千切れ、血を吹き、あたりに散らばる。


千切れた部分部分は消えても流れた血はそのまま地面を染める。


それでも


「あの、お、お願いです」


「んんー?何ですか?」


「み、見させてください」


「…そういうのが趣味ですか?」


「違います!た、ただ」


私は少し言葉に詰まる。


「目をそらしちゃ、いけない気がするんです」


少しの間アリスさんは黙ると急に視界が明るくなった。


「…いいでしょう。旦那様の勇姿、その目に焼き付けてください」


私はもう一度彼を見る。


「最初の2人は怒りで我を忘れていましたが、残り2人は厄介なことに冷静ですね」


アリスさんがつぶやいたかと思うと


坂上くんの手が宙に舞う。


「不意をついて半分減らせたのはいいにせよ、まだ女王もいると思うと気分が重くなりますねえ」


その時だった。


坂上くんのチョップが、魔女の腕を打ち、振られた剣がこちらに向かって飛んできた。


「あ」


呆けていた私に、剣の先端が迫ってきた。



ブスリ


「…私がいることをお忘れでして?」


「いやあ、わかっちゃいるんですが体が反応しちゃって」


私の顔の前に、アリスさんの手が。


そしてさらにその前に首に剣の刺さった坂上くんが立っていた。


「ごめんなさい、真春さん。まさかこっちに飛んでくるとは」


ズブリと剣を抜きながら、坂上くんは笑っていた。


「ちゃんと目をつぶっていてくださいね。もう少ししたら終わりますから」


言葉通り、振り返った坂上くんは魔女の腹に蹴りを入れて倒した。


私は目をそらさずにいた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「…いくぞ」


地面を蹴り、クライズラが駆け出す。


(左上から…!)


剣を降り出す方向を確認し


剣を右手に持ち替え


私は


左に向かって腕を突き出した。


シュルッ!ビシィッ!


「〜〜〜〜っ!!!!!」



痛い。


ある程度覚悟はしていたがここまでとは。


腕からぼたぼたと血が落ちる。


だが


これでわかった。


「…捕まえた」


ズキズキと、ジンジンと痛みが腕から送られてくる中で、冷や汗を浮かべながら笑う。


「!!?貴様…!!」


クライズラが驚きをかくせずにいる。


「あんたのは剣じゃない。鉄の鞭だ」


左腕にぐるぐると巻きつき、その先端を手にしっかりと握られている、銀色の細いものを見ながら私は告げる。


おそらく振りのスピードか、はたまた魔力なんていうもののせいかはわからないが、何らかの方法でこの鞭の長さすらコントロールしている。


だから剣で受け止めたところで、体には届き傷をつける。


ジワジワと相手の体力と気力を削る。


構えや動きからすっかり剣士だと勘違いしていた。


その常識が私自身を苦しめた。


「では」


右手に握った剣を振りかぶる。



「!」


クライズラが目を瞑る。


「これで終わりです」


私が剣を振るう。















…ゴォン!!


そして私は剣の柄で、クライズラのこめかみを思い切り殴った。


白目を向いて、どさり、とクライズラが倒れる。


と、同時に左手の鞭が縮み、自由になる。


「致命傷をあたえるスキはあったでしょうに、毎回毎回続行するか確認までして…」


そう、この男は本気で私を殺そうとしていなかった。


「お人好しが災いしましたね」


だから私も殺そうとは思えなかった。


「勝負あり!!」


腕は痛むものの、イレズマ様の宣言が清々しく耳に入り、心地よかった。










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