第51話 開戦
第51話 開戦
ーとある世界の、とある場所
「…本当にやるのですか?」
「仕方ないだろう…。これ以上あの子を我々ではどうにもできん…」
「それはそうですけども…なんの罪もない生き物をそんな理由で…!!」
「…お前は魔族に生れながら、そして優秀な魔女でありながら、優しすぎるのが難点だな…」
その時何者かがドアを叩いた。
「入れ」
「失礼します。アルゼン様、エヌリエス様。準備が整いました」
「今行く…エヌリエス…お前のいうこともわからないではない…だがあの子はもう限界だ。だから…」
「…ええ、分かります。本当は分かっているんです…。すみません…もう後戻りなど出来ないと言うのに」
「良い。…それでは、手抜かりのないよう。またな」
「ええ、あなたも決して油断なさらぬように」
そういうと王は玉座から腰を上げた。
女王は王に背を向けて歩き出した。
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「どうして、ぼくらみたいな良い年した大人じゃなく若い子なんでしょうかね」
「まだ言っているのかい、黒田」
「この仕事について5年目ですけど、必ず大きな戦いは年に一回ぐらい起こっちゃって、その度に」
「黒田」
「…分かってますよ。…でも、今回はみんながみんな素人なんですよ。訓練を受けてこのために集められた精鋭でも…。すみません、向こうに行く前にする話じゃないですね」
「仕方ないよ、私からすれば君だってまだまだ若造だ。…それに今回はルール無しの戦争でなく、勝ちぬきなんていうルールまで作ってきた。あまつさえ、人間側の判定者として私の同行すら許した…まあそこが引っかからなくもないんだけど」
「どうかあの子たちをお願いします」
「あぁ…。時に君はさっき、『精鋭たち』と言ったね」
「?ええ」
「戦力だけで言えば」
そう言いながらイレズマは腰を上げた。
黒田はそれに追従した。
「今年は私がここにきてから50年で最高だよ」
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「みんな…どうか気をつけて行ってきてね」
真春は心底不安げな顔で奈美にそう言った。
「そんな暗い顔しないの!ちゃーんと帰ってくるから!」
真春のほおをぐにぐにと揉みながら奈美が笑う。
「真春さん、傷薬ありがとうございます。使わせていただきますね」
「良いのよ、それくらいしか出来ないから」
「十分すぎます」
霧子も落ち着いた表情でいる。
「一応それぞれに『予測』を渡しておいたが、それが必ず起きるとは限らない。臨機応変に対応を頼む」
「あくまで参考程度にってことですね」
士郎の呼びかけに、眼帯で片目を塞いだ雅信が答える。2人ともいつもと何も変わらぬ様子だ。
「大丈夫か?山藤」
「な、なんすか天海さん。この日のためにめっちゃトレーニングしましたからね!余裕っすよ余裕!」
「ふーん、なら良いんだが…無理するなよ、いつでも交代してやるから。ってか全部私がやれば良いんじゃ?」
「そうはさせねーよ。舐めた真似した後悔させてやる」
ガチガチになっている柊の肩を愛羅が叩き、健がツッコミを入れる。
「武器使いがいたら私が相手になりますね」
「俺にも回してくれよ?鍛えたんだから」
伊有と士郎も少し緊張した面持ちではあるものの、軽口を叩く。
「…よーし、頑張るぞ」
「気合入ってるな彩香さん」
「そりゃあね…私たちがここで勝たなきゃ大変なことになっちゃうんだもの」
「…あぁ、絶対に勝とう」
彩香と一郎太はお互いに決意を固めた。
「気合十分って感じだね。よしよし」
イレズマがそれぞれの顔を見ながら言う。
「君たち、若い子に、しかも始まってまだ一月しか経っていないにもかかわらず、こんなことをさせるのは忍びない」
イレズマの後ろから声がする。
「それでも、どうか、この国を頼む」
深々と黒田は頭を下げた。
「大丈夫ですよ…く、く、…支部長さん。私たちにまかせてください!」
「黒田、だよ。霜村さん」
名前を覚えていなかったであろう奈美に、黒田は苦笑した。
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城波神社の広い空間に扉が現れる。
「お迎えにあがりました。人間の皆さん」
迎えにきたのはマデウスであった。
「じゃあ、行ってきます!」
マデウスについて11人と1柱は扉の中へ消えた。
「…行っちゃいましたね」
「あぁ…」
「…無事に帰ってきてくれますよね」
「あぁ…信じよう」
「…はい」
真春は何もなくなった空間を名残惜しそうに見つめた。
「中に入ろう」
そう呼ばれて、真春は神社に向き直った。
目の前の黒田はなぜか虚空を睨みつけ、立ち止まっていた。
視線の先
ー神社の屋根の上の空間が、ぐにゃりと歪んだ。




