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アルバイターズ  作者: 野方送理
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第47話 戦いを終えて

第47話 戦いを終えて


「んっ、づっ、ああ゛っ」


戦いを終えて、私は廊下の壁にもたれかかる。


腹の骨、と、腕にもヒビが入ってる。

頭にも何発か食らった。めまいもする。


何より胸、真ん中の心臓がのあたりがズキズキと痛む。


「あのやろうめちゃくちゃ殴りやがって…」


膝をつきそうになる。


誰も見てはいない。それでも膝をついてしまったら負けだ。


「我ながらくだらねえよなあ…」


やばい、足がぐらつく。


そんな時だった。


「あ、あの天海さん!」


後ろから声がする。


「あんたは…確か医務室の」


門矢とか言ったか。


「何の用だ…?」


にしても、何がこの子にまで「相手してもらおうか」だよ。今この子とやれるか?


そんなことを考えていたら、相手がビクッと震えたのがわかった。そんなおっかない顔してたか?


「…あっ、あの雅信くんが天海さんの手当をって…」


その言葉に思わず私は顔をしかめる。


負けたやつに心配された。


相手に再生能力があるとは言え、その余裕に内心腹がたつ。その怒りから気力が持ち治る。


「…ごていねいにどうも。大した怪我じゃねえよ」


そう言ってまた向き直って歩き出す。


「だ、ダメよ!ひどい傷よ」


後ろから足音がする。


…あぁ鬱陶しい。普段のかすり傷ならなんともないにしても、今この子と言い争うのは怠いな…


「…分かった。悪い、世話になる」


「!えぇ、行きましょう」


虚をつかれたような表情をしながら、彼女は私の横に並んだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「人間としては、素晴らしい戦いっぷりでした」


アリスさんが口を開く。


「しかし、私の主人としては、この上なく不甲斐ない戦いでした」


「…ですか。すみません」


ベンチに腰掛けながら言葉を返す。


「ちなみに今回は何度でしたか?」


「2度ですね。心臓に喰らった2発あれで2回とも死んでます」


「2回も…確かに意識が一瞬ぶっ飛びました」


「…自覚あったんですね」


「あ、あとどこらへんを直せば、うまく戦えますかね?」


「…まず、言い忘れてましたが」


そこで一度言葉を切る。


「あなたに防御は必要ありません」


「…なるほど」


「人間の戦い方が抜けていません。私と、今のあなたには戦闘中の怪我は些末な問題です。どころか攻撃の妨げです」


「防御するまでもなく治るから…ですね」


「ええ。ですから、そこはより攻撃的になっていいかと」


「ありがとうございます、やってみます」


「…まあ、そうですね」


それでもアリスは驚愕せざるを得なかった。


戦いにおいて人は出血や、ダメージの蓄積により死に至る。


もう一つ、人は「痛み」でも死ぬ。ショック死、と呼ぶものだ。


圧倒的な腕力を誇る愛羅の攻撃はその一撃一撃に絶大な痛みを伴う。

しかし、雅信は痛みでは一度も死ななかった。


常人なら、例え再生能力があってももう5回は死んでいた。


アリスはそう考えながら、今や自らの半身とも呼べる少年を見つめた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


すごい戦いだった。


誰も口を開けなかった。


それはもちろん、言葉を失っていたのもある。


だが


(まだ強くならなきゃ…)


(あいつらあんなに強いのか…)


(あれを受け切れるか?)


(まだまだ甘かった…)


アルバイターズは前を向いていた。


たとえそれが、いびつな前向きさであったとしても、およそ普通の高校生が考えることではないにせよ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「すごい…綺麗な体」


「…あんまりみないでくれよ」


「あっ、ごめんなさい」


そういいながら、術と薬を駆使して腕や腹を治療する。


「そう言われたのは初めてだ」


「あっ、あのごめんなさい」


「いやいいよ、この体は好きじゃないけど、そう言われると悪い気はしない」


「いや、本当にすごく綺麗。なんかの…芸術品みたい」


「はは、そりゃどうも。…そういや、私はあんだけあんたの彼氏を傷つけたのに、嫌いにならないのかい?」


「か、彼氏じゃない」


真春は今までよりは落ち着いた様子だった。


「照れちゃって。よく考えたら私よりもちゃんとあいつに声をかけたってことだよなさっき、なんだよ〜このこの〜」


治療されながら愛羅が真春を茶化す。


「そ、それはごめん。再生のことすっかり忘れてて」


「いやいや、今こうしてくれてるだけでありがたいよ、悪い変なこと言って。…で」


「…そうね、確かに天海さんは雅信くんを攻撃したけど、それは雅信くんも一緒だし」


そこで真春は治療の手を止めた。


「それに、ここの人たちは、今日、お互いを、傷つけたかったわけじゃくて、それでも全力で戦ってたから、そういうことなんだろう、って」


そういうと真春は愛羅の服を下ろした。


「はい、これでよし」


「…ありがとよ。なるほどね…また、怪我したら世話になるよ」


愛羅は満足そうに笑った。

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