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アルバイターズ  作者: 野方送理
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第46話 愛羅 VS 雅信 3

第46話 愛羅 VS 雅信3


人間が最も隙を見せる瞬間。


それは安心している時。


つまり戦いにおいては、その終わりを感じた時。


ー勝利を確信した瞬間。



「ガッハァッ」


ドォン!!


足でブレーキをかけることすら叶わずに愛羅が壁に叩きつけられる。


完全に油断しきっていた鳩尾への右拳。ダメージは相当なものであった。


それでも前を向く。


天海愛羅はそれでも笑う。


すでに雅信はこちらに走り出していた。


開いた口からは大量の血が流れている。


そしてそこから見える赤黒い肉の塊は、少しずつ元の形を取り戻していた。


(あいつ…殴られる瞬間歯に舌を挟んで…!!)


そう、彼にとって現時点で最も避けるべきは気絶によるノックアウト。それさえ避ければ、例え死んだとしても戦闘が続行できる。だから強烈な痛みによって意識を保った。別に勝ち負けは気にしていない。愛羅の満足いくまで戦う。そのためにこの行為を選択した。





ーただ、愛羅の試合前の発言に怒っていなかったかと聞かれれば嘘になる。


「おおおおおお!!!」


回らない舌で、獣のように叫びながら雅信は愛羅の鳩尾に左拳を叩き込む。


そして右脚で脇腹を刺す。


「グフッ」


また血を吐きながら、横へとふっとぶ愛羅。


すでに雅信の足はそれを追っていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


奈美は複雑な表情でそれを見ていた。


「…すごい戦いね」


ポツリと霧子がつぶやく。


「うん…。あれって多分、舌を噛ませたんだよね。あの顎への…」


「…そう、ね」


「…私は端っこを犬になってた牙の部分で噛みちぎったんだよ」


「オッドベノンの時に…すごい怪我をしてたよね…ごめん」


「ううん、そこまですごい痛かったわけじゃないんだけど…私の見て思いついたのかな、って少し」


いきなり現れた声に2人が振り向く。


「それは無いな」


「!?」


後ろから、この模擬戦では珍しくほぼ無傷の士郎が声をかける。


「あんたの無茶も相当だけど、あいつの戦ってる間の頭の回転は俺並に速い。そして、あいつはなんでもやる。口先だけでなく、な。あんたが責任を感じる必要は1つもない」


「そ、そう?…よくは、ないね。あんな衝撃を受けたら」


少しだけ表情を和らげながら奈美が答える。


「まるっきり千切れてるだろうな、むしろそっちの痛みで意識が飛ぶ可能性すらあるだろうに。…にしたってあいつが本当にここまで強いとは思わなかったよ」


「本当に、この2人の戦いは…圧倒されますね」


霧子も茫然といった表情で応じる。


「あぁ、もちろん、純粋な戦闘力もそうなんだが…あいつさっきから心臓ばっか狙ってるだろ?相手も相手だが、他の人たちはちゃんと脇だったりを狙ったりしてたのに」


「…!!たしかに」


「それにさっきなんか顔面に蹴りを打ち込もうとした。頭突きで返されてたがな。頭突きを警戒してボディ狙いに絞ったんだろうと、サンサン達が」


「…相手が誰であろうと容赦しない『強さ』…どうしてそうなれたのかな」


「…」


真剣な目つきで考える奈美を見ながら士郎は少し黙り込んだ。


「まあ、無理にそうなる必要はないさ。むしろ味方まであんなにボコボコにしてたら困っちまうよ」


茶化すように言うが、士郎は内心、奈美の変化を危惧していた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


横向きに吹っ飛びながら、天海愛羅は考えた。


すでに雅信はこちらに向かってきている。


次の『気絶』方法を。


足を踏ん張り地面に突き刺すように体を止める。


その瞬間にはもう雅信は拳を繰り出していた。


狙いは腹か。


ー完全に無意識だった。遠い昔に習った動きだったのだろうか。


それをすんでのところで躱すと、雅信の腕を掴む。そのまま後ろに回り込み、肩を抑えながら、捻りあげる。


ボゴン


折れたとは違う、どこか歪な音が鳴り響く。雅信の右腕が制御を失い、ダランと垂れる。


「!?」


雅信も自分の身に何が起こったかわからなかった。


しかしすぐに左肘を後ろに突き出し


パァン!!


しかし、愛羅はそれをしっかりと掴んで見せる。

そこからは全く同じだった。


ゴギャ


曲がったままの腕を捻り上げられ、力が入らなくなるとともに、痛みが広がる。


雅信は少し冷静さを欠いていた。


それでも肩の力で腕を振るう。


愛羅の方を向いた時にはもう彼女はそこにいなかった。


愛羅は更に雅信の背後を取っていた。


そしてなぜか、膝の裏をとても弱い力で叩いた。


(え、なんで膝カックン)


背後を取られ、また打撃が飛んでくるものとばかり思っていた。


虚をつかれた雅信はそのまま膝立ちになってしまう。


そして次の瞬間、愛羅の作戦の全てを理解した。


ギュッ


首と背中に温かさを感じた。


と、同時に呼吸が途切れた。



チョーク・スリーパー。



愛羅の腕が、雅信の首を絞め上げた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


膝から下は天海さんの足が抑えている、両腕はまだうまく力が入らない。


まさに八方塞がり、打つ手なしだった。


少しずつ景色が白んでいく。


ーあぁ、ここまでか。


絞められた首から、絞り出すように声を出す。


「参りました」


多分こんなことを言ってもこの人は緩めないだろう。いや、むしろ緩めてまだ戦わせるのかな。


などと思っていたら、口に急に空気が入ってきた。背後の存在感はなくなっていた。


天海さんはまた腕を掴み、またブラブラさせてからゴキリ、と肩に押し込んだ。

ハマった、と言う感じがした。


「…ありがとよ。すげえ楽しかった」


もう片側の肩も同じようにして、押し込むと、私の前に回ってきて、そう呟いた。


「…そいつは結構なことで、ありがとうございました」


少し憎まれ口を叩いてやると、彼女は大きな声で笑いながら背を向けて歩いて行った。


「…勝負あり!!」


イレズマ様の声が響く。


体からどっと力が抜けるのを感じた。


私は、負けた。








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