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アルバイターズ  作者: 野方送理
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第44話 愛羅 VS 雅信 1

第44話 愛羅 VS 雅信 1


「だー!あそこまで行ったら男らしくぶつかれよ!」


治療を終えた柊が足をバタバタとさせて不満を漏らす。


「いてて…あくまで目指すは勝利だ。ぶつかりで『今は』勝てなくても、勝負は俺の勝ちだ」


真春に包帯を巻いてもらいながら、健が答える。


「はい、これでよし。明日明後日くらいはハンマー振るの禁止ね」


「ありがとう、悪かったな。坂上の勝負もう始まるぜ」


礼を言いながら、健が真春をからかう。


「別に、気にしてないわよ」


そう言いながらも、真春は立ち上がり、医務室の大きなモニターの前へ歩き出す。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


闘技場のようなフィールドの真ん中で2人は対峙した。


「…1つだけ言っておくが、手を抜いたらすぐに分かる。本気でこなかったら本気で殺す」


「エキシビションじゃないですか、もっと気楽に行きましょうよ…」


「あぁ?ふざけんなよ、これを楽しみに待ってたんだから。なあ、頼むよ」


「私にとっちゃなんも楽しみじゃないんですよ…まあそれなりに頑張りますから。なんでか、士郎にも出来る限りちゃんとやれって言われましたし」


「またなんかの『予測』か?それならいいんだが…そうだ!!…じゃあ本気でお前がやらなかったら、私はこの仕事から降りる」


「はあ!?」


愛羅の言葉に驚いた表情を見せる雅信。


「どういう意味ですか?」


「言葉通りだよ、私は私の楽しみのためにやってんだもん。ぶっちゃけ今の所、大して燃える相手がいねえんだよなあ」


そこで言葉を切って、何かを思いつたかのように、愛羅は加虐的な笑みを浮かべた。


「それとも、本気でやらなかったら、お前以外の子に相手してもらおっかな〜〜?今日無傷のやつって言ったら…神城か、あの医務室の子か?」



雅信の目が大きく見開かれる。うっすらと上がっていた口角が下がり、雰囲気が一変する。


「あの子は戦う人じゃないでしょうが」


「そうは言ったって多少戦えるようになっとかないといざという時困るだろ?」


へらへらと笑いながら愛羅はまともに取り合わない。


雅信は深くため息をつき


「…あんたって人は、冗談に聞こえないから嫌ですね」


そう言った。


顔つきの変わった雅信に愛羅は満足げに頷いた。そして、試合前に士郎から受けた依頼を思い出す。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「こんなこと言うのもなんだが、あいつに本気を出させてほしい」


「あのふにゃふにゃしたやつが、味方である私との戦いで本気出すとは思わないけど」


「どんな煽りを使ってもいい、あなたなら冗談みたいな駄々でも信じ込ませることができるはずだ」


「例を出せよ、その通りにやるから。私だって本気のあいつと戦ってみたいはみたいんだから」


「本気出さなきゃ、他のアルバイターをぶっ飛ばすとかでいいよ。あ、真春さんのことを絡めるとより効果的かも」


「あ?なんで?そういう関係なの?」


「さあ?そこまで言ってないみたいだけど…やたら気にかけてるんだよ」


「お前性格悪いな」


「どの口が言う」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


(どうやら効果があったみたいだな、よく性格をつかんでいやがる)


「2人とも準備はいいかい?」


イレズマの声に無言で頷く両者。


「それでは…始め!!!!」


「「神憑変化」」


そう2人が唱えた瞬間


バチィッ!!!



「!?」


「モニターが!!」


「いきなりなんも見えない!!」


全てのモニターの画面が落ちた。


(故障!?)


と霧子がイレズマのいる部屋に戻ろうとした瞬間。


「あ!戻った!」


奈美の声を聞き、モニターを覗き込む。


そこにはすでに変化を終えた2人の姿があった。


「なーるほど、『そういう』変化なわけね、他の人に見せてよかったの?」


「士郎に頼んでその瞬間はモニターを落としてもらう手はずになってます」


「なるほどねえ…で、来ないの?」


「本気だから行かないんです」


雅信の返答に満足げに頷く愛羅


「いいよ、じゃあ…」



そこで言葉をきると、彼女は走り出した。


「始めようか」


雅信は両腕をだらんと下ろしたまま、微動だにしない。


ゴッ


戦闘機のエンジンのような音と共に、愛羅の右拳が繰り出される。雅信は、それを最小限体を傾けることで避ける。



そして、その右腕を掴む。


「!!」


そのまま、渾身の力を込めて投げ飛ばす。


ゴォン!!!


鉄球を地面に落としたような音と共に愛羅は叩きつけられ、
















否、彼女はその二本の足でしっかりと立っていた。


ドパァン!!


およそ人と人がぶつかったとは思えぬ音ともに、雅信の腹に愛羅の右足が叩き込まれる。宙に浮くまいと、足からけたたましい砂煙をあげながら後退りする。


「ごふぁ」


ボタボタ


壁の寸前で立ち止まった瞬間、思わず、といった表情で口の端から血をこぼす。


「本当に本気か?それ?」


「…もう少し頑張ります」


今度は雅信が走り出す。


左の拳を掲げ、打ち出す。


迎えうたんと愛羅が拳を握る。

と見せかけて、雅信はそれを途中で止め、右の足を振り上げる。

すんでのところで身をかがめ愛羅が避ける。

今度はそれをそのまま振り下ろす。

愛羅はそれを難なく受け止め、足首をしっかりと掴む。

掴んでいる腕と逆の手で雅信の顔を狙う。しかし、雅信はそれを固定された足首を支えとし、左足を浮かすことでかわす。

完全に愛羅に体重を任せ、右ひざを曲げ、左足の落下の勢いを相手の右の脛に打ち込む。

その反動で左足を元の位置に戻す。

虚をつかれた愛羅は痛みと共に膝をつき、肩の上で掴んでいた雅信の足を離してしまう。

解放された右足を後ろに振って蹴り出す。


膝をついている、つまりはいつもより低い位置にある愛羅の腹をめがけて。


ゴンッ!!


金属と金属がぶつかるような音が響き渡り愛羅が後ずさる。


「いいじゃん…」


ニタァッと笑う愛羅と反対に、雅信は顔を歪めて膝をついた。


そのつま先は酷く潰れ、血を垂れ流していた。


「腹に鉄板でも入れてるんですか…」


そんな軽口を叩く間に、足が治っていく。


「お手製だよ、そんな卑怯するもんか」


「特別製ですもんね…」


愛羅は立ち上がる。嬉々とした表情で。


雅信は立ち上がる。苦々しさを噛み締めながら。


今度は愛羅がゆっくりと歩き始める。


雅信はゆっくりと距離を取る。


「逃げるなよお…せっかく楽しくなっきたんだから!!」


たまらず、と言った感じで走り出す愛羅。



「逃げる?まさか」


足を止めて雅信は自らの右手の甲に、鬼の鋭い爪を立てた。


ピュッ


少量の血が吹き出す。




ゴォンッ!!!!!!



先ほどよりも鈍く、大きな音が響く。


その少し後に愛羅が壁に叩きつけられる音が響く。


「あっはぁ…なんだよ今のはぁ!?」


さしもの愛羅も口から血を吐きながら、しかし痛みよりも喜びをその顔いっぱいに叫ぶ。



雅信は右の手首から先を血まみれに、かつブラブラと遊ばせながら答えた。


「私、いやアリス様の再生はどんなところからでも可能なんですよ。だから、血の一滴からでも治ります。これくらいの近距離ならば、私の体に血の方を引き戻すことも、血を元として私の体を飛ばすこともできます」


「私の腹に残ってた血痕に向かって、拳を傷つけて治った、ってわけか…」


少しめり込んだ壁から抜け出しながら愛羅はうんうんと頷いた。


「いい技だ」


「どうも」


すでに治った右拳を握りながら雅信は素っ気なく答える。


相変わらず笑顔を浮かべながら、愛羅は少しだけジャンプする。そして、壁を蹴り、弾丸のように雅信の元へ向かった。


(はや…!!)


雅信はとっさに腕を組むが


ボキメキボキメギャ


インパクトの瞬間にはすでに骨が砕け、


ドォン!!!


嫌な音と壁に激突する音が鳴る。


「どう?私のスピードは」


「…ほんっとすごいですね」


(腕…肩まで折れてる…?)


追撃を加えようと愛羅が走り出す。


使い物にならない腕をぶらぶらさせながら雅信も走る。


すでに今までの模擬戦を行なった誰よりも深いダメージを受けながら、2人の戦いは激しさを増していった。



















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