第42話 健 VS 柊 1
第42話 健 VS 柊 1
「どうしてあんなにあっさり負けを認めちゃったんですか?」
雅信が士郎に尋ねる。
「…前提として、2つの欠片の出力でも最後のあいつの一矢を防げなかったから。というのはある。あれが連発できるようなら俺に勝ち目はないとも思った。ただたしかに弾かれたが動くことは動くし、あのまま戦い続けてたら勝てたかも知れんな」
「だからなんで負けを」
「最大火力の撃ち合いで負けたんだ、負けも同然さ」
的を得ない回答に雅信が士郎に凄む。
「…分かった分かった、説明するから睨むな。…恐らくだがこの中で遠距離からの攻撃をできるのは俺とあいつ、ギリギリで一郎太ぐらいだろう?だからあいつには強くなってもらわなきゃいけない。今回の経験を糧に伸びてもらわなきゃならない。あいつ自身のためにも、俺の負担を減らすためにも」
「私欲じゃないですか」
「そういうな。…まあ、俺が勝っても負けても良かったんだが、大事なのは勝ち方、または負け方だ」
「勝ち方と…負け方?」
「あぁ、ボロボロにやられて仕舞えばそこから得るものは少ない。…これはないと思ってたが、士郎が強くて俺がボコボコにされるならそれはそれで良かったんだが。そのまま頑張ってくれ、で。なんにせよ俺自身もこの武器の使用感を試したかった、そして出来る限り長く戦いたかった」
「ギリギリの勝負で、ギリギリの勝利と敗北でお互いの成長を促す…というのが知恵の神様の考えだと」
「バレてんのかよ、そうだよ。これがサンサンとルナルナが考えてくれた模擬戦の試合運び。最後の宣言は俺の勝手だけどな」
「…正直あのあと例の一発を出せるとは思いませんから、多分お前の勝ちだっただろうねえ」
「まあな、だが勝ちを譲った形になるわけで」
「なるほど、そういうの嫌がりそうですね、陽太さん」
「そういうこと、まあなんだかんだ俺もあれが当たってたらこんなこと言えねーわけだから、強くならないとな…」
「とはいえ、厄介、もとい役に立つ武器ですねそれ」
「だろ?あの2人の要らなくなった遊び道具を改良したんだ、数が増やせるか試してるところだ」
「…神器ってそんなもんでいいんですね」
雅信は引きつった顔で笑った。
一方、士郎は軽く答えてはいたもののその顔は真剣そのものだった。
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あのままやったら負けてた。
廊下に立ち尽くしながら俺は何度も考えた。
最後こそマグレであの防御を破ったものの、もう一度あの場であの射はできなかった。試しこそしなかったものの、俺が一番よく分かっていた。
さらにそのマグレでさえ、まっすぐ射抜くことはできなかった。
まっすぐ飛んでいたらどんな惨事になっていたかわからないが、そらされたという事実が俺の胸の中にモヤモヤと残った。
マグレなのに。
自分の磨いてきた射では1つ目さえ弾けなかったのに。
勝ちを譲られた。そうとしか思えない。
だから、俺はあれをマグレじゃなくすしかないのだ。
そしてさらにあのマグレよりも強く早い射を俺の型にする。
そう心に決めて俺は新しくできた射撃場に、腕の疲れを忘れて足を運んだ。
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「調子はどうですか?健」
「悪くはない、ってところです。ただ相手の能力を良くは知ってないんで、そこが心配ですね」
「戦いとは本来そういうものです」
「…それもそうですね。おっと、そろそろ今日もお願いします」
「分かりました、全てを砕きましょう」
健は腕を捲った。
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落ち着いた様子の対戦相手とは裏腹に山藤柊は慌てふためいていた。
「ど、どーすんだよ、原墨って強いんだろあーもうくじ運悪いなぁどうやって防げばいいんだよお!!」
そんな彼の後ろに、騎士のような出で立ちをした女性が現れる。
「相手が誰であろうと、敬意と誠意を持って戦うのが大切ですよ、柊」
そう優しく諭す彼女こそ盾神オーフェンスである。
「オーフェンス様…そうはいっても相手はめちゃくちゃ強くてハンマーぶん回してくるんですよ!?」
「例えどんな攻撃であろうと私の盾は破れません」
そういうと彼女の手に大きめの盾が現れる。
「ただし」
そして付け加える。
「あなたの心が盾を支えていれば、ですがね」
「へ?」
「時間のようです」
「あ、はい」
柊は服の襟を引っ張る。
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「今回のフィールドは岩場になった。2人とも準備はいいかな?」
2人が頷くのをイレズマが確認する。
「それでは、始め!!!!」
「「神憑変化!!!」」
2人の体が光に包まれる。
模擬戦最終戦が今、始まる。
エキシビションマッチを除いて。




